平井富雄著「自己催眠術」に被暗示性・被催眠性の高さについての記述がある。知能の高い人ほど催眠にかかりやすい傾向があるという心理学者による研究結果が報告されている。それによるとIQ70からIQ100のあたりまで被催眠性は高まるようである。IQ70以下がないのは知的障害があるとみなされているのだろう。100以上は少しずつ上がっているがほとんど変わらないところがおもしろい。頭が悪くては催眠にかかりにくいが、IQ100は標準的知能だから、知能が高いほど催眠にかかりやすいともいえないだろう。「女性は、男性よりも催眠にかかりやすい」は俗説として否定されている。
興味深いのは性格による被催眠性の高さである。内向的な人と外向的な人を比べると、外向的な人の方がより催眠にかかりやすいといわれる。つまり標準的な知能以上で外向性の強い人が催眠にかかりやすいのである。
外交的とは意識の重点が外に向いていて、他人の言語・暗示に対する集中力が高いということだろう。内向的な人は自分の内なる言語に意識の重点があるので、他人の言語・暗示に対する集中力に欠けるのである。外向性が行き過ぎると(外面ばかり気にすると)人にだまされやすい人間になるし、内向性が強すぎると(辛気くさくなって)人付き合いの下手な嫌われ者になるだろう。辛気くさくても成功するのは学者や芸術家くらいだろう。世間で成功するには外向性が大事だ。最極端は精神疾患ということだろう。精神病質者、ヒステリー症患者は外向的、恐怖症患者、強迫神経症患者は内向的といわれる。
「催眠とは自己催眠である」ともいわれる。他者催眠も、尊敬、恐怖などをきっかけとしてであっても、催眠者の暗示を受け入れる、それと自分が同化するところから始まるからだろう。それゆえ催眠術を理解するには自己催眠を理解した方がわかりやすいだろう。
僕が他者催眠の催眠誘導テストを受けていたときも、実際には僕は自分でやったわけである。自己催眠である。自分で催眠テストを繰り返すことによって被暗示性が高くなった。テストを繰り返すことは集中力を高める訓練になったのである。ついにはイメージしなくても暗示だけで振り子が回ったり手のひらがくっついたりするようになった。手のひらがくっつくときなど何かの力で引っ張られていくような感じになった。「強くくっついた手のひらはもう離れない、離そうとしても離れない 、ますます強くくっつく」という暗示がある。最初は離れてしまった。そこでなぜ離れたかを考えた。離れたのは離すというイメージへ意識が移動して肩の力を抜いてしまったからだ。手のひらを離すには肩の力を抜かなければならない。「強くくっついて離れない」という暗示から離れて、離す方に意志、イメージが移動してしまったのである。暗示に忠実でなかったわけである。催眠でたいせつなのは暗示に集中して勝手に次のシーンへ移らないことなのである。本を読んでも文章から他のことを連想したり、反対のことを考えたり、批判的なことを思ったりする性格の僕は暗示に忠実ではなかった。自己催眠の練習をするときは、すべてを暗示の通りに行うことがたいせつだ。覚醒も「5分したら目が覚める」というように暗示によって定めて練習した方がいいだろう。そうでないと暗示にない思いつきで催眠状態から醒めてしまうことになる。「催眠というものはない。あるのは暗示だけだ。」と催眠術を大成したというのベルネームはいっています(藤本正雄・催眠術入門)。
催眠が暗示だとするなら、自分に自信のない人は自己催眠に向かないないだろう。自分の言語に自信がなければ暗示としての機能も弱いだろうから。催眠の本の著者は言及していないようだが、自己催眠は、内面に向けての暗示だから、内向性の人の方が向いているかもしれない。