「うけけ~酒持ってこい~」すっかり上機嫌の”新”組長「長謙」が両脇に侍らせたホステスの乳をもみもみしながら大声で注文する。ここは市内でも名の通った酒場街であり、さらにトップクラスの倶楽部「銀馬車」。組長、つい先日、山田組系浜本組として看板を上げたばかりの新人組長である。
思い起こせば大卒で遅めの盃を受け、己より年下の兄貴などにこき使われ、何くそこの稼業は上納金が物を言うわいと親分にせっせと手土産の現金レンガ。それ見た事かいあっという間の一本立ち今日のよき日をざま見ろ~と、この世の春。それにしても高級であればよいとの考えから、普段は泡盛ばかりの組長ここぞとばかりヘネシージャックローヤルサリュートなど一気に混ぜ水は富士の水、氷は南極の水と得体のしれないカクテルをラッパ飲み。
「組長、おめでとうございます。俺も幸せです。死ぬまでついていきます」と子分のはちがおべっかを言うが組長、側のあけみちゃんに「今夜可愛がったる~、寝かせへんで~」などと意に介せず腰に手を回すはベろチューするはで手いっぱい。油断しまくりであるし、護衛ははち一人と全くの無防備。何か起こるはず。
浜本組の本拠地の寿町は戦後どの都市でも同じように興った、闇市から市場に変遷するという流れをとってきた。自警団から愚連隊、やくざと形を変えた暴力団組織もご多分にもれずあり、ただ他の市場と異なるのは寿町わずか1キロ四方の狭い地区、各組の「シマ」がはっきりと分かれている訳ではなく、ひとつのシマを全部の組が抑えているという変わり種。従って住み分けと言うかシマ争いで抗争になる事は無く、小競り合い程度で和気あいあいの寿町。
話は戻り銀馬車。長謙組長あけみのスカートに手を入れ「ぬる、ぬる~楽し~」と廻りの顰蹙を買っておるのも意に介さず、やりたい放題のまさにその時同じ店内のVIPルームで苦虫を丸飲みしたような表情の男、暁組組長古弦”二角”が子分に耳打ち。
続く。