臨床現場では、どんなトレーニングを指導しているのか。
昭和大学歯科病院・高齢者歯科診療科の佐藤裕二教授が説明する。
「年を取ると唾液の分泌量が減り、舌の水分量が低下します。この口腔乾燥の状態は、口臭、むし歯、歯周病、食事がしにくい(咀嚼障害)などの原因になります。指導では、食前に唾液腺マッサージをする。食事は、一口20回以上かむことで唾液の分泌を促す。それに持病薬の副作用で唾液が減少することも多いので、薬の種類の見直しも必要です」
唾液は口の中の細菌を退治したり、清潔を保つ働きのほか、奥歯ですりつぶした食品をどろどろのペースト状にして飲み込みやすい状態にする役割がある。
唾液腺マッサージは、口の中に開口して唾液を分泌している腺を軽く圧迫して分泌を促すのだ。主な唾液腺は「耳下腺」「顎下腺」「舌下腺」と3つあり、マッサージのやり方は別項のように食事前にやる。
「むせる」という症状は、飲み込む機能(嚥下機能)が低下すると起こりやすくなる。物を飲み込む「ごっくん」の動作のときは、気管の方に物が入らないように蓋(ふた)が閉じられる。この機能がうまく働かないと、食べ物や水が気管に入り込んでむせるのだ。これを「誤嚥(ごえん)」という。寝ている間も無意識に唾液を飲み込んでいるが、口の中が汚く細菌が多い状態で唾液を誤嚥すると誤嚥性肺炎を引き起こす。
「嚥下機能を調べる簡単なテストがあります。口にたまった唾液を30秒間で何回飲み込めるかやってみてください。口の中が渇いていると難しいので、うがいしてからやるといいでしょう。3回以上飲み込めれば合格です。この『空嚥下』は口のトレーニングにも用いられていて、1日数回行うことで飲み込む機能が鍛えられます」
嚥下機能の維持には、のどの周りの筋力を鍛えることがいい。口のトレーニングでは、腹式呼吸でピロピロ笛を長く吹く方法やコップに水を入れてストローでぶくぶくと息を吐く方法などもある。