<事業継続計画リスク,中国依存体質輸入23%、輸出19%改善処方箋 価値観が同質の国内回帰と他国への移転か>
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2020.03.13 ,坂口 孝則,
大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』『結局どうすりゃ、コストは下がるんですか?』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体』(ともに幻冬舎刊)『会社が黒字になるしくみ』『思考停止ビジネス』(ともに徳間書店刊)など20冊を超える。
未来調達研究所 取締役
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「新型コロナでリーマン級不況到来、安倍首相も危惧する製造業の中国依存」
衝撃的な数字が発表された。2020年2月の「JPモルガン・グローバル製造業PMI(Purchasing Managers' Index、購買担当者指数)」は47.2と、前月から3.2ポイントも下がったのだ。同指数は世界製造業の景況感を表すもので、50超は景気が上向き、50未満は景気が下向きであることを意味する。
通常、同指標は毎月0.5~1ポイント程度しか変動しない。それが今回は3ポイント以上も落ち込んだ。直前の3カ月は連続で50を超え、景気は改善傾向だったにもかかわらず、である。新型コロナウイルスが引き起こした“中国ショック”が世界中に広がり、急速に景気が悪化しているのだ。ちなみに47.2というのは、リーマン・ショックの余波が色濃く残っていた2009年5月以来の低水準だという。
2020年3月5日に開かれた日本政府主催の未来投資会議でも、サプライチェーンが議題に上がっていた。そこでは基礎資料として、東京商工リサーチが2月に国内企業を対象に実施したアンケート調査の結果が使われていた。同調査で、新型コロナウイルスへの対応として最も多く挙がったのは
「中国以外に所在する企業からの調達強化」(36.9%)。「中国への新規進出計画の凍結・見直し」(7.6%)や、
「中国拠点(武漢除く)の撤退・縮小」(3.9%)といった対策を検討している企業もあった。
財務省の貿易統計によれば、2019年は日本の輸入全体の23.5%、および輸出全体の19.1%を中国が占めていた。その中国への新規進出を取りやめたり、中国から撤退したりするかもしれないというのだから、影響の大きさは計り知れない
中国当局によれば、新型コロナウイルスで操業を停止した工場のうち5~7割は通常稼働に復帰したという。これは2月下旬時点の発表だが、どうも感覚と合わない。
よくよく中国の事情を聞いてみると、中国当局は大手企業だけを調査しているようで、その下請けや孫請けに当たる中小零細企業の実態を正確に発表していない。
大手を除くと、稼働率は2~3割。記事執筆時点ではそれから1週間がたったものの、やはり3~4割しか稼働していないのではないか。それが現場の感覚値と近い。
私は前回、今起きていることは「グローバリズムが広がった先のアンチグローバリズム」ではないかと書いた。各社は、かつて自国中心だったサプライチェーンを世界に分散させ、中国を最終出口とするアセンブリー体制を作り上げた。しかし、中国では、古くは食品消費期限切れから、近年の米中経済戦争、そして今回の新型コロナウイルスに至るまで、多くの課題に直面してきた。
一般に、サプライチェーンにおける特定リスクの重要度は次の計算式で評価する。
特定リスクの重要度=発生頻度×強度
発生頻度はリスクが生じる確率、強度はリスクが現実化したときの損害規模だ。ただし、発生頻度も強度も厳密には計算できない。仮説の下に概算で計算するしかない。
例えば、ある部材を共産党一党独裁政府中国企業から調達するとして、自由民主義議員内閣制日本や日本と価値観が同質の他国の企業よりコストなどで優位なのであれば、そのこと自体に問題はない。だが、共産党一党独裁政府中国企業の生産が止まるかもしれない。そのリスクを試算したものが、前述の特定リスクの重要度である。
今回の新型コロナウイルスを分析すると、発生頻度は「10年に1回」、強度は「数カ月の生産停止」と仮定してもあながち間違いではなさそうだ。今後、中国政府が劇的に情報の透明性を高めるとは思えない。ならば、中国においては10年に1回、数カ月の生産停止が起こり得るという前提で、それでも中国での調達や生産を進めるのかを考えることになるのだろう。
実際、前出の未来投資会議において議長を務める安倍晋三首相は中国依存からの脱却を説いた。具体的には、国内回帰や他国への生産分散である。
もちろん、共産党一党独裁政府中国に集中するほうが効率的で、コストも低い。10年に1回は数カ月の生産停止があることを織り込んだ上で、それでも調達や生産を分散させないというのも1つの戦略ではある。
そして、今回の新型コロナウイルスによって、もう1つの古くて新しい問題が浮上したように感じられる。それはBCP(事業継続計画)の想定だ。BCPは、東日本大震災で注目されることになった。そのときに初めてBCPなるものを知ったという人も多い。
印象的な場面が2つあった。
1つは、ある事業部長が「今期はネットを通じた集客効率が良かったので、来期以降は予算を増やしていく」と説明した場面。
もう1つは、別の事業部長が「特定顧客からの売り上げが好調なので、そこにリソースを投入していく」と説明した場面である。
同席していたコンサルタントは、それぞれの説明に対して「ネット集客のコストが2倍になったらどうするの?」「特定顧客からの注文が半減したらどうするの?」と質問した。
私は「何て意地悪で無意味な質問をする人だろう」と思った。ところが、
実際にネット集客のコストはそれから驚くほど高騰したのだ(さすがに1年で2倍にはならなかった)。さらに、特定顧客の業績が悪化して注文も激減した(こちらも半減まではいかなかった)。
私は、そのコンサルタントに妙に感心した。本来の趣旨とは異なるが、これが本当のBCPだなと考えさせられた。
手前味噌だが、私たちの会社は「1年間、全く仕事がなかったとしても、保有現金だけで生き延びられるようにしておこう」と話し合って、実際にそう準備してきた。なぜ1年間かといえば、2年間も全く仕事がなかったらそれは世間に求められていないのであり、廃業すべきだからである。
リスク管理は想像力と等価になってきたと私は思う。繰り返す。リスク管理とは想像力の問題なのだ。 トヨタ自動車に代表されるように、平時から常に危機感をあおる。生産できなくなった場合の対応を検討するように迫る。「A工場がダメならB工場でできないか」とあらかじめシミュレーションをしておく。取引先に検討を迫るだけではなく、自社でも取引先の保有設備や稼働率をチェックしておき、代替生産が可能な別の取引先を確認しておく。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00761/031000024/?P=4