中国各地で市民によるデモが今年に入って頻発している。
こうした動きについて、当局に統制されている中国メディアはほぼ報じない。
だが、中国内にいる知人らから、デモを撮影した映像や画像が送られてくる。
正確な件数は分からない。
ただ、筆者が把握しているだけで、この3カ月間で内陸部の湖北、河南、四川などを中心に数十カ所で起きている。
抗議の対象は、地元政府による医療保険制度の変更から、マンションの管理方法に至るまでさまざまだ。
厳しい監視体制を敷いている中国でこれほどデモが起きるとは、筆者は想像できなかった。
全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。
14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ。
なぜ、鉄壁の監視体制にもかかわらず、デモが頻発しているのであろうか。
4月3日に発売した共著『習近平・独裁者の決断』(ビジネス社)で、中国出身の評論家、石平氏と対談した。
直接の引き金となったのは、昨年11月の「白紙運動」だったという見方で2人は一致した。
新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」政策に反対する人々が、白紙を掲げて抗議したのだ。
新疆ウイグル自治区ウルムチ市で火災が起きた際、ロックダウンの影響で消防車の到着が遅れて10人が死亡した事件がきっかけだった。上海市を皮切りに各地で「ゼロコロナ政策」への抗議運動が広がった。
中には、「共産党は下野しろ」「習近平主席は退陣しろ」というプラカードを掲げる参加者もいた。


これを受け、中国政府は「ゼロコロナ政策」を撤回に踏み切った。
1989年の天安門事件に参加した石氏は、当時と比較した。
「(天安門事件では)民主化を求めてはいても、共産党の統治そのものを否定する要求はなかった。
共産党や習近平氏への批判が叫ばれた今回のデモは、まさに驚天動地だ。さらに、その後の『ゼロコロナ政策』の突然の撤回で感染拡大するなど、混乱をもたらしたことで『最後は政府が守ってくれる』という中国政府と国民との間で長い間かけて築き上げてきた信頼関係が崩れてしまった」
筆者は「白紙革命」によって、政府が政策転換に追い込まれたことが重要だと考える。
つまり、市民が今回のデモを通じて、「団結して声を上げれば、鉄のように固いと思っていた共産党を動かした」という成功体験を得たのだ。
だからこそ、「中国内では今後、同様のデモが起きる」と予測していた。
「ゼロコロナ政策」を長年続けたことで、ロックダウンやPCR検査費用の負担が増え、地方政府の財政は急速に悪化している。
市民生活にもしわ寄せがきている。今後、政府への信頼を失った市民による不満がさらに爆発する可能性がある。
(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)