関 志雄 Chi Hung KWAN (C. H. Kwan)
コンサルティングフェロー
株式会社野村資本市場研究所 シニアフェロー
中国経済新論
RIETIでの活動
関志雄[カンシユウ]
1957年香港生まれ。1979年香港中文大学経済学科卒、1986年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。1996年東京大学経済学博士。香港上海銀行本社経済調査部エコノミスト、野村総合研究所経済調査部アジア調査室室長、ブルッキングス研究所客員フェロー、経済産業研究所上席研究員等を経て、現在、野村資本市場研究所シニアフェロー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1957年香港生まれ。1979年香港中文大学経済学科卒、1986年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。1996年東京大学経済学博士。香港上海銀行本社経済調査部エコノミスト、野村総合研究所経済調査部アジア調査室室長、ブルッキングス研究所客員フェロー、経済産業研究所上席研究員等を経て、現在、野村資本市場研究所シニアフェロー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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近年、中国とインドは、台頭する大国として注目されている。
両国の間には、長い歴史と人口の多さという点だけではなく、市場経済化を中心とする改革を通じて高成長を遂げたなど、共通点も多い。
しかし、政治の面では、「一党独裁」を堅持する中国と、「世界最大の民主主義国家」を自負するインドは対極を成している。
この体制の違いは、今後の両国の経済発展にどういう影響を与えるのだろうか。
世界各国の経験から、経済発展と民主主義の発達の間には、強い相関関係が見られる。
実際、ほとんどの先進国が民主主義という政治体制を採っているのに対して、多くの途上国では、一党独裁など、非民主主義体制が一般的である。
しかし、民主主義が原因で経済発展が結果であるというよりも、経済発展が教育水準の向上や中産階級の形成を通じて民主主義を促すと理解すべきであろう。
1980年代以降の韓国と台湾における民主化の進展は、その好例である。
民主化の度合いが経済発展のレベルに比例するという経験則を基準にすれば、経済発展の面において一歩リードしている中国のほうがインドよりも民主的になっているはずであるが、実際、世の中の評価はむしろ逆になっている。
例えば、米国の代表的な人権団体であるフリーダムハウスが発表する2007年度の世界各国の国民が享受できる政治的権利と市民的権利に関する報告では、対象となる193ヵ国と地域の中で、中国は第178位と、第78位のインドより遥かに低いランキングになっている。
また、「自由」(89ヵ国)、「部分的に自由」(60ヵ国)、「自由がない」(44ヵ国)という三つのカテゴリーの中で、インドは「自由」と分類されているのに対して、中国は、北朝鮮などと並んで「自由がない国」に分類されている(表1)。(出所)Freedom House, Freedom in the World 2007.
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アジア各国のフリーダムハウスによる世界ランキングと1人当たりGDPの世界ランキングをプロットしてみると、インドと中国は、それぞれ、早すぎた民主化と遅すぎた民主化に当たることは明らかである(図1)。
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(注)台湾の1人当たりGDPは世界銀行の統計の対象になっておらず、台湾の公式統計を参考しながらランクをつけた。フリーダムハウスのランキングでは香港は193カ国に含まれておらず、「関係地域」として別に分類されているが、そこに記載された点数を参考にランクをつけた。
(出所)Freedom House, Freedom in the World 2007, 及び World Bank, World Development Indicators 2006 に基づき作成。
(出所)Freedom House, Freedom in the World 2007, 及び World Bank, World Development Indicators 2006 に基づき作成。
これによって生じている経済基礎と上部構造との矛盾は、それぞれの発展段階に見合った経済政策の実施の妨げになっている。
確かに、インドは国民一人ひとりが選挙を通じて国の指導者を選ぶ「民主主義」の国であり、また、立法、司法、行政の三権分立も確立しており、政治体制は欧米に近い。
しかし、経済体制では計画経済の色彩が強く、民間の経済活動に対する規制も多い。このような「混合体制」では、官僚は投資プロジェクト、産業発展計画と市場参入の「審査権」を利用して私腹を肥やす。
私有財産を守る制度をはじめ、法治がまだ確立されていない現状では、選挙が腐敗した政治家に正当性を与える儀式になりかねない。
また、インドでは、個人の権利が強調されるあまりに、政府による土地の徴用が非常に難しくなり、結果として道路や空港といったインフラ投資において、中国と比べて大きな遅れをとってしまった。
インドは最近になって、中国と同じように経済特区を作ろうとしているが、土地を所有している農民の反対で挫折している。
さらに、インドでは、労働者の権利を保護するために、解雇が法律によって大きく制約されている。
1947年に制定された労働争議法に従い、従業員の解雇やレイオフまたは事業所を閉鎖する場合、従業員100人以上の事務所には所管官庁からの許可が義務付けられている。
実際、申請しても、許可されることは稀である。
雇用側の立場に立つと、解雇ができない以上、新規採用には慎重にならざるを得ない。
その上、この法律の規制対象にならないように、企業は規模の拡大にも消極的になる。
これに対して、民主化が遅れている中国では、逆に国民の利益が侵害されるという問題が生じている上、共産主義の凋落という世界の潮流も加わり、政治改革の必要性に迫られている。
まず、中国が採っている一党独裁という政治体制の下では、経済発展を目指すにあたり、公平性よりも効率性が重視されやすいという問題がある。
実際、中国において所得格差が拡大しており、それが社会の安定を脅かす原因となってきている。
また、深刻になりつつある環境問題の解決が難しくなっている。
日本の経験が示しているように、環境問題の解決には、法整備に加え、市民団体やマスコミによる企業への監督や、裁判所による公平な判決も欠かせない。しかし、一党独裁体制の下ではこれは困難である。
さらに、冷戦の終結を受けて、中国は、社会主義の看板を維持しようとする唯一の大国として、国際社会において、ますます「異質」な存在と見なされ、外交の面では、多くの不利益を被っている。
最後に、中国では、市場経済化が進み、経済が発展するにつれて、社会の価値観と利益が多様化している。
そのために、階級闘争を標榜する従来の共産主義というイデオロギーも求心力を失っている。
政権維持のために、共産党は、新たな正当性を求めざるを得なくなってきており、イデオロギーの修正を含む党の改革とともに、公平な選挙という洗礼を受ける必要に迫られている。
中国共産党は、民主化をはじめとする政治改革を進めれば、政治が不安定になると懸念しているようだが、内外の情勢の変化を踏まえて考えれば、むしろ改革しないことに伴うリスクとコストが高まることを認識すべきであろう。
https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/071211ssqs.html
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