名義人の死を伝えてはいけない? 新聞死亡欄や人づてなどで名義人の死亡を知ると、銀行はただちに口座の凍結をおこ なう。ケンスケさんのお母さんのように、家族が銀行窓口に行き、「名義人が亡くなっ たので、代りに私が預金を引き出したいのですが」などと言ってしまった場合も同じだ。 凍結が行われ、預金が動かせなくなると、あれこれやっかいな問題が生じることにな る。生活費を引き出せないだけでなく、公共料金、家賃や駐車場代、ローンなどすべて の引き落としがストップしてしまうのだ。そのまま滞納が続けば、電気やガスなどのイ ンフラすら使えなくなる、という悲惨な事態に陥りかねない。
口座が凍結する前にすべきこと(1)
1つは親に生命保険に入ってもらうことだ。
「保険金は受取人固有の財産で、預金のように凍結されることはありません。また保険 金は、請求後、だいたい3日から1週間で振り込まれますから、葬儀費用のほか当座の 支払いに充てるにはよいでしょう」 なお、法定相続人以外に受取人を指定することも可能だ。 預金から毎月、保険料を支払えば相続すべき財産が減る。さらに、生命保険の受取金 には相続税の非課税枠が設けられているため、受け取った金額が非課税の範囲なら、相 続財産には加算されない。 非課税枠は、相続人ひとりにつき500万円だ。たとえば妻、長男が相続人なら、500 万円×2人で1000万円、妻、長男、長女なら500万円×3人で1500万円まで、非課 税で保険を受け取ることができる。相続人以外に受取人を指定することも可能だ。
口座が凍結されるまえにすべきこと(2) もうひとつの方法は、あらかじめ親に“借金”しておくことである。
「たとえば親の預金から、前もって500万円を預かります。そして、介護費用や医療 費、葬儀費用、親の生活費などにそのお金を充てます。このとき、必ず領収書を取って おき、相続の際、残りのお金とともに清算しましょう」 なお、まだあまり一般的ではないが、「家族信託」も遺言書に代わる方法として目下、 注目されている。親の預貯金や株、債券、不動産などの資産を運用、管理する「受託者」 を家族で決めることができ、スムーズに財産の承継を行えるようにする、というものだ。 受託者と受益者(財産の運用、管理により利益を得る人)は同一人物でもよいため、家 族の誰かが委託者になることもある。 相続が順調に行われれば、口座凍結問題も早めに解決できる。認知症の親を証券口座 も適切に管理できそうだ。