ちょっとだけのこと

仕事のある平日より

土日祝の方が

体力を使っている時が多い



平日に真夜中だと思っていた時刻は

休日には朝に変わる



真っ暗な部屋の中をゆらゆら歩いて

濃いめのコーヒーを真っ先に

口に運び



出かける前に

値段高めの栄養剤を

一気飲みする



必死だね



私を見ている私が

面白そうに笑う



後は好きな音楽を聞きながら

車を走らせれば

テンションが上がってくるだろう



無理やりやっている訳じゃない

そうしたいそうしなければって

自分で勝手に思い込んでるだけ



あなたがいるだけで

その場がぱっと明るくなるなんて

おだてられて

調子に乗っているだけ



たいしたことはしていない

そう　ちょっとだけのこと



さあ　今日も頑張る

明日も頑張る



これからも

ずっとずっと

ちょっとだけ頑張る

もしも神様がいるのなら

誰にも言わないでほしい

あなたは真面目な顔になった



久しぶりに会ったあなたは

目だけしか見えないほどの

大きなマスクをしていて



そこには

いつも華やかで美しいあなたの面影に

陰りを落とすような青白さがあった



一人でかかえてるのが

苦しくなったようで



誰かに

打ち明けてしまいたかったんだね



聞き役が私では

不十分だったんじゃないかと

心配になる



私はあなたの聞き役として

相応しかっただろうか



目を細めて冗談を交えながら

話すあなたに

うまく返せない自分に腹が立つ



何の病気なの



震えてしまって怖くて聞けない

言いたいけど言ってはいけない言葉を

飲み込んだら



あなたが代わりに言った



大丈夫　頑張るから



私が泣くのは違うと思うから

泣きたいのは

私じゃなくてあなただから



私は笑って

うんとだけ言った

ずっとロマンチック

福山雅治がいつか私にきてくれたら

家庭も何もかも捨てて

尽くしまくるわ



って夢見がちに言う人が

私の周りに三人いる



健全だなって思う



だって

その辺で出会える人とは

恋に落ちないって

言ってるのと同じだから



それにしても

同じ人をずっと思い続けるのは

やっぱり難しい



慣れ過ぎて

遠慮がなくなって

思いやりの気持ちも薄れるから？



飽きてくるから？



それはねって

私の大好きな人が言う



ずっとロマンチックが続けばいいんだよ



確かに

テレビの中の人とだったら

ロマンチックが持続する気がする



でも

ロマンチックが持続できる人って

どんな人だろう



福山雅治が

僕みたいな人だよって笑ってるのが

頭に浮かんだ

後にも先にも一度だけの片思い

たった一人だけ

ストーカーの気持ちがわかる

と思えるほど

好きになってしまった人がいて



遥か昔のことだけど



何度も言葉や行動で

自分の気持ちを伝えてて



ずるいところも勝手なところも

何でも許せた愛してた



だけどあの人は

手の届かない遠くへ

優しい言葉だけ残して

去ってしまって



私は抜け殻になった

息をして生きてるだけになった



月日をかけて完全復活した後

異性を自然に好きになる感情が

すっぽり抜け落ちていることに

気が付いた



人を愛せなくなった訳じゃない

むしろ

私を求めてくれる人なら

誰でも愛せるようなそんな気がして



ただ

この人を愛そうって

自分に言い聞かせてからしか

愛せなかったのだけど



感情構造が

きっと書き換えられたんだ



それは現在に至るまで続いていて



だから

今あの人に

求められたとしても



来世でねなんて

きっと笑って答えられる

振り向かせてみる

振り向かぬなら

振り向かせてみよう



やっつけてしまうのも

待ち続けるのも

自分には多分無理



声色変えて

誘うようにう歌うように



声の強弱を大袈裟にして

トントンと手先でノックもしてみたりして



私の方に振り向いて



心に届くような

心をこめた声で



こっちよこっち私はここ



声に合わせて

表情も変えてみて

時折ジェスチャーも交えて



私に釘づけにさせてあげる



ドキドキしてきたでしょう

私の魅力に惹きつけられて



さあもう放さない

あなたたちは

魔法をかけられたかのように

私の虜になる



どう？



私の絵本の読み聞かせ

空回り

カラオケに行ったら

なるべく新しい売れてる曲を歌う



同年代で行ってみたら

昔の曲ばかり歌って

最近の歌　知らないって



昔は楽しかったなって



ねえ　私たちって

そんなに歳取ってるの？



やっぱり楽しいのは

結婚するまでだねなんて



おじいさんおばあさんになっても

今が一番いいって言えるように

歳を重ねたいよ



そんな風に生きていきたい



苦笑いが降ってくる



嘘っぽくても偽善者って言われても

言い続けたら思い続けたら



いつか偽はなくなって

それが真実になるから



だから

思い出に逃避せず

現在を楽しもうよ



言いながら

一人空回りしているように

感じてしまうのは



きっとまだ私が偽だからだろう

あの時から

無理するのはやめようと

諦めたあの日から



それなりに生きていこうと

笑ったあの日から



それまでの私を形作っていた

自信や自惚れは

あの日あの場所に置いてきた



小さな喜びや楽しさを積み重ね

目を細めてきたけれど



何でだろう



時々この幸せから

目を逸らしたくなる



捨てられない幸せと

あの時なぜの心残りを



抱きながら

これからも私は生きていく

寂しい心

だって怒らないし

いつもにこにこして優しいんだもん



小さな女の子が

私の手をそっと握って

にっこりした



私が優しい？



怒らないのは

怒ると疲れるからで

それは　つまり

怒らない方が楽だから



にこにこ顔は

鏡を見ながら

優しそうに見えるように

練習してるから



こんなことを

ぼんやり考えていると

別の女の子が

タックルするように



大好きって言いながら

抱きついてきた



この子の親が見たら

今時だから

逆セクハラとか思われないかしら

なんて考えてたはずなのに



あれっ　おかしい

私　泣いてる



大好きなんて

久しぶりに言われたから



いつも漂流している

私の寂しい心がこんな小さな子供に

捕まれた



そう

あなたが私に大好きって

ぎゅってしてくれたら



私はもう漂流せずに

きっとここに留まっていられる

純粋無垢な子供たち

久しぶりに会った子供たちは

悪意のない綺麗な心を私に向けてくる



迷いのない真っ直ぐな瞳で見つめられると

何だか自分が恥ずかしくなってしまう



自分の中の

歪んだ心がこの子たちとは

あまりに不釣り合いで



瞬きを何度もしてしまう



でも

不思議なことに

その中にしばらくいると



自分の心が浄化されていくようで

癒されていくようで

優しい気持ちで満たされていく



子供ってすごい



綺麗な心をもらって

パワフルなエネルギーをもらって



自然に笑顔になる



私はこの子たちのために

何ができるだろう



してあげられることがあるのなら

何でもしてあげたい



そんな気持ちにさせられた

それでも道をそれない

いろんな事から

逃げたくて忘れたくて

叫びたくて



普段なら見向きもしない

うるさいだけの音楽を

大音響で鳴らしながら

車をとばす



怒りも悲しさも虚しさも

ガンガンする音に溶けていく



進む道は

すべて自分で決めてきた



安全な道、安全な心で

間違っていないと信じてた



なのに

いつも自分の愚かさに気付かされ

どこで間違ったのか

わからなくなっている



それでも何でもこの道を

それることなく進み続けていく



車を止めて音楽を止めた



日常の喧騒が戻ってきて



いつもの私が静かに笑う