![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/65/0d022fbe74f95e40b1b0bbc2949619fb.jpg)
・「屋台というもの、
外国にもあるんでしょうか?」
という話が出て、
「屋台で無うても、
赤提灯とか縄のれんとか、
それに類したものがあるのと違いますか。
大体、古い町にはあるもんです」
「庶民がいれば、きっとあるでしょうね」
「外国の屋台て、
何を食べてるんでしょう?」
ということから、
それを探訪してみよう、
ということになった。
私は町の屋台に、
多大なる興味と関心を持っている。
子供の頃から、
一銭洋食やちょぼ焼き、
ワラビ餅の屋台にむらがっていたせいかもしれない。
長じて、同人雑誌にいたころに、
例会が果てると赤提灯や縄のれんに入って、
同人たちと安い酒を飲んだ。
大阪のキタは、曾根崎あたり、
ミナミは上六(上本町六丁目)や阿倍野などであった。
古いゴチャゴチャした下町の盛り場、
ややこしく道路が曲がりくねって、
そういうところに、
赤提灯や縄のれんの店はかたまっている。
こういう都市のバイキンとでもいうべきものがないと、
人間の住む町の暖かみが出てこないような気がする。
大阪の財界が、
大阪文化振興のために、
中之島に劇場を五つも建てる、
という計画をもっているが、
そんなんより、
「大阪の文化をおこそう、思たら、
安い飲み屋を沢山(ようけ)作れ、
いうんです」
と作家の福田紀一氏は力説しておられた。
氏によると、
同人雑誌の一次会では「ええことしかいわへん」
そうである。
二次会でだんだんアホなことをいいはじめ、
三次会ぐらいでベロベロになってからやっと、
「お前の小説、
さっきはほめたけど、
実はあれはアカンぜ」
ということになるそうである。
「それが文化ですわ」
と福田さんは主張する。
「高い金出して劇場作ることも大事やけど、
ほんまに文化を盛んにしよ思たら、
二千円でたらふく飲んで食らえるような飲み屋を作らなあかん」
私は大賛成。
私なんか、神戸でいつも食べる。
屋台の立ち食いの串カツ屋、
コップ酒二杯、
串カツたらふく食べて七百円くらい、
縄のれんのおでん屋もせいぜい千円まで、
それでまずいかというと、
一流料亭と甲乙つけがたい味なのだから、
私ごとき無定見の人間は、
何とも複雑な感じ。
いやもう、
屋台や縄のれんの店のない町には暮らせない。
大阪には千里ニュータウンという、
巨大な人工都市があるが、
私なんかこの町へ来ると、
悪夢にうなされる気がする。
絵で描いたようなチリ一つとどめぬ明快清澄な住宅街だ。
天を突く団地はえんえんと丘の果てまでつらなる。
道路は白々と広く放射状に四通ハ通し、
緑の木々は豪邸を包む。
洗いさらしたように清潔な人工の町である。
こういうのを見ると、私はせつない。
こないに人間の脂ッ気抜いてしもてどないするねん、
という感じ。
屋台や縄のれんというものは、
町のバイキンであってみれば、
人工都市にあらかじめそういうものを作るわけはない。
私は町っ子であるから、
夜は陸の孤島といったところに住む気は、
ぜんぜんしない。
高級住宅街に住め、といわれたら、
泣き出してしまう。
そういう意味で、
私が住んでみたい町は台北であった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/drink_sake.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/drink_sake.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/drink_sake.gif)
(次回へ)