・灯を向けてあるが、
死んだ夕顔は、
生きているようにふっくらとして見えた。
源氏は手を取り、
すると涙があふれた。
短い縁だったが、
まるで前世からの契りだったように、
源氏は身も心も夕顔にうちこんだ。
束の間の逢瀬を予感してのことだったのか。
みじかくも烈しく燃えた恋。
源氏はうつつ心もなく取り乱していた。
僧たちは、
死者とつながりの深いらしい男の出現を、
いぶかしがりつつも、
もらい泣きする。
右近はまして、取り乱していた。
「幼いころから、
お仕えした御方さまでございます。
わたくしはただもうおあとを慕って、
同じ煙に焼かれとうございます・・・」
「尤もだが、
別れというのはいずれは来るのだ。
あきらめて、私を頼るがいい。
私について二條院へ来ないか」
と右近をなぐさめながら、
そういう自分こそ、
消え果てて死ぬのではないかと思い、
目もくらむ思いがする。
夜が明けます、
と惟光に促されて、
源氏は帰途についたが、
朝霧に巻かれながら思うことは、
夕顔の美しい死顔のことばかりだった。
やっとのことで二條院へ帰りつくと、
寝込んで起き上がれなくなってしまった。
源氏の病を聞き伝えられて、
宮中でも父帝は非常に心痛あそばされ、
祓えや祈祷をさまざま試みられた。
義父の左大臣も、
重んじていられる婿君のこととて、
その容態を心配して、
みずからあれこれ指図して、
看病のこともぬかりなく世話をされる。
二十日ばかりは、
夢ともうつつともわからず、
枕からあたまが上がらなかったが、
やっと快方に向かった。
はじめて宮中に参るときは、
左大臣が自身迎えに来られ、
何くれと世話して、
退出のときも、
自分の車に乗せて邸へ帰られるのだった。
「どんな物の怪に魅入られたものやら・・・
美しい君は、天も嘉したもうて、
早く召されるのではないかと、
不吉なことを噂するものがあり、
心配いたしました」
と左大臣はいわれる。
臥している間に秋は深まり、
源氏は別の世界からよみがえったように感じた。
秋たけて、源氏も面やせして、
男のなまめかしさが添ってみえるように、
まわりの人々にはながめられた。
右近は今は、
二條院に身を寄せ、
源氏に仕えている。
あたりに人のいない宵、
薄色の喪服を身にまとった右近と、
源氏はしめやかに話すことがあった。
(次回へ)