・お歳暮の季節になると、私のところへ、
何とか商会なんていう名前の店から「営業案内」がくる。
「電話一本下されば、ご指定の時間に参上いたします。
車体には何も書いてありませんから、
昼間でもご心配要りません」
何ごとかと思うが、
これは「お歳暮(お中元も同じ)引き取り業者」である。
業者が引き取ってそれを売る。
買う人もいるわけだから、
それをまたお歳暮にする人もあるだろう。
私もお歳暮を頂くが、
ウチは二人住まいなのでたちまち余り、
あちこちにおすそ分け。
個人的にたのしい手作りのクリスマスプレゼントとか、
ご当地の名産の食べ物とか、頂くのは嬉しいが、
仕事関係のはまことに恐縮千万で、
あれはもうおやめになったらいいのに、と思う。
よそさまは知らないが、
私は頂いたからって締め切りが早くなるわけでもなく、
担当編集者に毎度、しんどい思いをさせているので、
私の方から会社へさしあげないといけないところ、
それにいいかげんな私は、もらったところも、
もらわなかったところもごっちゃになって、
すぐ忘れてしまう。
何しろ年末は書き溜めの真っ最中、
夜も昼もない状態である。
奥さまのいられる作家さんのところでは、
一々点検されて、お礼状も出されるだろうが、
ウチの亭主はそんなことしない。
だからこちらからお歳暮を出したこともない。
ある雑誌に、川上宗薫さんはケチで、
担当編集者に中元や歳暮を贈ったことがなかった、
と書かれているのを見て、私はびっくりしてしまった。
川上さんは合理主義者ではあるけれど、
決してケチではない。
また、物書きで担当者にお歳暮を贈ってる人がいるんだろうか?
私は聞いたことがない。
時分どきに来られると、
ごはんを一緒することはあるが・・・
この間、佐藤愛子さんに会ったとき、聞いてみたら、
「あたしもしたことない」
といっていた。
まあ要するに、この多忙な世の中で、
手数のかかることは一つでも省いていけばいいのに、
と、私はかねて、お歳暮お中元廃止論者なのである。
業者のおじさんが何も書いてない車で集荷に来て、
市価より安く売る、なんてことをするくらいなら、
はじめからしなければいいのに。
「男はもともと、止めとけ、というのが発想です」
カモカのおっちゃんはいう。
「大体、男はじゃまくさがりやから、
人にやるのももらうのも好かんはず。
しかし女がうるさい。
『あら、〇〇さん、今年は下さらないのかしら、
去年は来たのに』とか、
『中元はお粗末だったけど、不景気なのかしら、
まだお歳暮来ないところをみると・・・』
なんていうたりする。
女が欲しがるから、世の中、お歳暮で走り回る。
そのくせ、もらうと、
『あら、これはダブったから、業者へ電話して売ってやろう』
なんて思う。
とにかく、もらやいい、というのが女でありまして、
それがあるために、世の人、涙をのんで、
お歳暮を贈り続けねばならぬ・・・」
いやあ、そうかなあ。
私の見るところ、現今、男もかなり、
女性的発想になってるわよ。
「去年来たのに、今年は寄越さないな、あそこ」とか、
「去年はサントリーで、今年はスコッチか、弾みよったな」
なんて敏感に反応する男も、結構多いようである。
それがあるために、世の人、涙をのんでお歳暮しちゃう。
ただ、この時、女にあって男にないクセというと、
贈る方の精神風土である。
オバサンたちとしゃべっていて、
私がやるせなくなるのはこれ、
「××さんは、物をあげてもお礼は、その場っきりでね」
などとオバサン連はいう。
「その場でお礼をいえば、いいではないですか」
と私。
「そやけど、まあ、二へん目に会うたときは、
『先日はどうも』とか、『この間はおおきに』とか、
念を押すのが、普通の常識ちゃいますか」
とオバサンたちはいい、
「お歳暮贈って、ま、ハガキでお礼状来る、これ当り前。
その次に会うたときはやっぱり『この間はどうも』
というてほしい。
それ、いうてもらわんと、念が届きませんよって、
こっちも釈然としません」
「では、次の次に会うた時も、またいうんですか」
「いや、それはもう、よろし。
けど、物もろうて、その次に会うたときぐらいは、
どうあっても『この間はどうも』いうのが礼儀ですやろ、
それを知らん顔してるのは、礼儀に外れてる。
物をもろうたからには・・・」
しかし、その物は、くれといって奪ったものではなく、
勝手に向こうからくれたのであるから・・・
こういうオバサンたちに、
「そんなこというぐらいなら、
いっそ、始めから上げなきゃいいじゃないですか」
というと、
「そうなんですけどね」
案外、素直にみとめ、そのくせ、また時期になると、
せっせと贈っては「この間はどうも」
をいわないといって怒ってる。
「う~ん。
男は品物ではいいまへんな。
しかしエエとこで接待されたとか、
招待されたとか、したときにはいう。
『この間のトコはよかった』
男は物に関係なく、場所に関心がある」
と、おっちゃんはいう。