むかし・あけぼの

田辺聖子さん訳の、
「むかし・あけぼの」
~小説枕草子~
(1986年初版)角川文庫

11、女どうし ④

2022年07月29日 08時19分22秒 | 田辺聖子・エッセー集










・女の個性と女の友情。

うまく噛みあったら、
お互い干渉せず支配もされず、
しかも相手がそこにいるというだけで、
気持ちが暖かくなるという、
そんな生活ができるかもしれない。

私たちはまだまだ、
たくさんの可能性を持っていそうな気がする。

もっとほかに、
いろいろ快適な人生の処方があるにちがいないのに、
あまりにも決まったやり方ばかりを、
長い年月、踏襲してきている。

たとえば、我々は、
赤の他人と他人が寄り合って暮らす、という場合、
男と女、夫と妻の関係しか想像しない。

一人暮らしから二人暮らしになる、というと、
同棲か結婚、それしか考えられない。

しかし同棲もおいそれと出来ず、
結婚も、なおさら手続き面倒、となると、
人生も単調なワンパターンになって、
結婚ばかり夢見つつ、無駄な年月を送ることになる。

それに男と暮らすのは、
自分の個性が侵犯されることである。

そういう時期を迎える前に、
女友達と組んで暮らしてみる、というのも、
面白い実験ではないだろうか。

若い女の子は、男の子もそうかもしれないけど、
団体生活も大家族の暮らしも経験してないので、
他人と協調して日々を送るテクニックを持たない。

そういう人間が、
結婚や同棲で、突如、二人暮らしになる。

個性と個性のかけひき、妥協、ゆずり合い、
ありとあらゆるテクニックを使って、
二人の関係を築くべきであるのに、
ほとんど何の訓練もされずに投げ出されるものだから、
たちまち修羅場を迎えてしまう。

人と折りあいよくやってゆく、
ということは、とてもむつかしいもの、
しかし、愛と少しばかりのテクニックがあれば、
むしろこよなくたのもしくなるもの、
気分のいい人をそばに置いている楽しみが、
この対象が男であれ女であれ、
すばらしいもの、
いい人格が発する匂いは性を超える。

さらに私は、
女が男と結ばれ、子供を産み育てるのが、
根源的な女の幸福、という考え方にも、
疑問を持つ。

心のひびき合わぬ、魅力を感じない、
敬意をもてない男と結ばれるよりは、
気の合う、尊敬すべき同性の女と、
心をより合わせるほうが好もしい、
そう思う女たちが出て来てもよいではないかと思う。






          


(了)

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