2016/11/29 ~2024/06/10更新
たうみ【唐箕】←「たうみの」
ck6145 北村美帆
萩原義雄 再識
唐箕【とうみ】〔1.4540-06〕『分類語彙表』道具 〉農工具など
たうみ【唐箕】←「たうみの」
ck6145 北村美帆
萩原義雄 再識
唐箕【とうみ】〔1.4540-06〕『分類語彙表』道具 〉農工具など
【ことばの実際】
長塚節『土』に見える「トウミ【唐箕】」語例〔三例〕
1、「さうだつけかな、それでも俺(お)ら唐箕(たうみ)は強(つよ)く立(た)てた積(つもり)なんだがなよ、今年(ことし)は赤(あか)も夥多(しつかり)だが磨臼(するす)の切(き)れ方(かた)もどういふもんだか惡(わり)いんだよ」とお品(しな)は少(すこ)し身(み)を動(うご)かして分疏(いひわけ)するやうにいつた。
2、彼(かれ)は秋(あき)の大豆打(だいづうち)といふ日(ひ)の晩(ばん)などには、唐箕(たうみ)へ掛(か)けたり俵(たはら)に作(つく)つたりする間(あひだ)に二升(しよう)や三升(じよう)の大豆(だいづ)は竊(ひそか)に隱(かく)して置(お)いてお品(しな)の家(うち)へ持(も)つて行(い)つた。
3、俺(お)らやあつち内(うち)にや打(ぶ)ん投(な)げつちやあだから、あゝ、俺(お)ら腕(うで)ばかしぢやねえ、そらつ位(くれえ)だから齒(は)も強(つえ)えだよ、俺(お)ら麥打(むぎぶち)ん時(とき)唐箕(たうみ)立(た)てゝちや半夏桃(はんげもゝ)貰(もら)つたの、ひよえつと口(くち)さ入(せ)えたつきり、核(たね)までがり〱噛(かぢ)つちやつたな、奇態(きたい)だよそんだが桃(もゝ)噛(かぢ)つてつと鼻(はな)ん中(なか)さ埃(ほこり)へえんねえかんな、俺(お)れが齒(は)ぢや誰(た)れでも魂消(たまげ)んだから眞鍮(しんちう)の煙管(きせる)なんざ、銜(くうえ)えてぎり〱つとかう手(て)ツ平(ぴら)でぶん廻(まあ)すとぽろうつと噛(か)み切(き)れちやあのがんだから、そんだから今(いま)でも、かうれ、此(こ)の通(とほ)りだ」爺(ぢい)さんはぎり〱と齒(は)を噛(か)み合(あは)せて見(み)せた。
□長編小説『土』の文章に見える「唐箕」だが、3の一文脈が長いなかにあって、茲には象徴語表現がふんだんに用いられているのがその特徴の一つとも言える。
【語解】
小学館『日国』第二版の見出語「とうみ【唐箕】」の意味は、①「穀物の実と、粃(しいな)・殻(から)・塵などを選別する農具」、②「箱の内部に装置してある風車様のもので風を起こし、上から落とす穀粒を粃・殻などと実とに吹き分けるもの」と二段階にして意義説明する。吾人が小学校低学年の比まで、近隣の農家庭先でよく見掛けた木製農具だが、今は郷土博物館に置かれている農耕機具として見るくらいになっている。
此の「唐箕」は、江戸時代の浮世草子、井原西鶴『日本永代蔵』〔一六八八(元禄元)年刊〕卷第五・第三「大豆(まめ)一粒(りう)の光(ひか)り堂(だう)」に「たうみの」の語例として登場する。
此((この))外、唐箕(たうみの)・千石((せんごく))通(どを)し。麦こく手業(わざ)もとげしなかりしに、鉾(とがり)竹をならべ、是((これ))を後家倒(ごけだをし)と名付(な(づく))。
とあって、農具「唐箕」と「千石通し」が描かれている。標記語「唐箕」に「タウみの」と付訓する。此が槇島昭武編『和漢三才圖會』〔一七一二(正徳二)年刊〕卷三五に、
颺扇(タウミ) 唐箕。俗太宇美、以二礱揄一穀、用二颺扇一去レ桴也
とし、標記語「颺扇(タウミ)」にして「唐箕」の語をも示し、真名体漢字表記を「俗」として「太宇美(たうみ)」、次に「礱揄を以て穀し、颺扇を用いて桴を去るなり〈也〉」と説明する。既に、「たうみの」から「たうみ」へと変容するか たちが見えていて、此が上方と江戸との地域差も影響しているとも見て取れる。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
とう‐み[タウ:] 【唐箕】〔名〕穀物の実と、粃(しいな)・殻(から)・塵などを選別する農具。箱の内部に装置してある風車様のもので風を起こし、上から落とす穀粒を粃・殻などと実とに吹き分けるもの。とうみの。*和漢三才図会〔一七一二(正徳二)〕三五「颺扇(タウミ) 唐箕。俗太宇美、以二礱揄一穀、用二颺扇一去レ桴也」*俳諧・八番日記‐文政二年〔一八一九(文政二)〕九月「蛼(こほろぎ)のとぶや唐箕のほこり先」*田舎教師〔一九〇九(明治四二)〕〈 田山花袋〉「農家の広場に唐箕が忙はしく廻った」【方言】箕(み)。《とみ》山形県西村山郡139【発音】トーミ〈なまり〉トーミー・ドミ・トン〔鳥取〕トミ〔 飛騨・ 紀州・ 和歌山県・ 鳥取〕〈標ア〉[ト] [0]〈京ア〉[0]【辞書】ヘボン・ 言海【表記】【唐箕】ヘボン・ 言海【図絵】唐箕〈老農夜話〉
とう‐みの[タウ:] 【唐箕】「名〕「 とうみ(唐箕)」に同じ。*浮世草子・日本永代蔵〔一六八八(元禄元)〕五・三「此外唐箕(タウミノ)、千石通し、麦こく手業もとけしなかりしに」【発音】トーミノ〈標ア〉[0] [ト]
・デジタル『大辞泉』
とう‐み 〔タウ‐〕 【唐×箕】穀粒を選別する装置。箱形の胴につけた羽根車で風を起こし、その力を利用して秕(しいな)・籾殻(もみがら)・ごみなどを吹き飛ばして、穀粒を下に残す。
・大槻文彦編『大言海』
た(ト)う-み(名)【唐箕】穀ノ粃(シヒナ)ヲ分クル具、圓キ匣ノ中ニ風車ノ如キモノアリ、稻ノ穗ヲコキオトシタルヲ、上ヨリ落シテ、風車ヲ廻ハセバ、精ナルハ下ニ落チ、粃ハ一方ヘ飛ビ去ル。又、磨リタルヲ落セバ、米トもみがらト相分ル。扇車 颺扇 〔五九五頁上段〕
【評価寸言】此の語から貴方自身が気づいたことをまとめて報告下さい。〔萩原義雄識〕
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