駒澤大学「情報言語学研究室」

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くわゐ【烏芋】『和名類聚抄』から『倭名類聚鈔箋注』へ

2023-12-25 11:23:51 | 日記
2023/06/02~2023/12/25更新
くわゐ【烏芋】
                               萩原義雄識
『和名類聚抄』廿巻本
 福田本『倭名類聚抄』〔大阪公立大学図書館蔵〕
 林羅山手沢本『倭名類聚抄』〔内閣文庫蔵〕
 【翻刻】
廿巻本『倭名類聚抄』巻十七菓蓏部第廿六芋類第二百二十四〔十五丁表8行〕
 烏 蘇敬本草注云烏芋[和名久和井]生水中澤写之類也
 十巻本『和名類聚抄』卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九
 烏 蘓敬本草注云烏芋[  久和為]生水中澤舄之類也
※注記「和名」有無。真名体漢字表記「久和井」と「久和為」で「井」と「為」字に異同。注記字「写」と「舄」の異同。

【訓読】
(クワ井) 『蘇敬本草注』に云はく、「烏芋」[和名(ワミヤウ)やまとなは、「久和井」]、水-中に生ず。「澤寫」の〈之〉類なり〈也〉。
『蘇敬本草注』に云はく、「烏芋」[「久和為(くわゐ)」]は、水中に生ゆる「沢舄」の類なりといふ。
※茲で、標記語「烏芋」字に、和名「久和井(くわゐ)」と「久和為(くわゐ)」で「井」と「為」字に異同。

 【影印】
天正三年書写『倭名類聚抄』〔大東急記念文庫蔵〕巻十七菓蓏部第廿六芋類第二百二十四
 烏 蘓敬本草注云――(烏芋)[和名久和井]生水中澤舄之類也
※典拠書名「蘓敬本草注」で「蘓」字表記。「澤舄之類」で「舄」字にて表記する。
伊勢廣本『倭名類聚抄』〔東京都立中央図書館河田文庫蔵/神宮文庫蔵〕巻十七菓蓏部第廿六芋類第二百廿四
 烏 蘓敬本草注云――(烏芋)[和名久和井[○・上・上]]生水中澤舄之類也
 烏 蘓敬本草注云――(烏芋)[和名久和井[平・上・上]]生水中澤舄之類也
※典拠書名「蘓敬本草注」で「蘓」字表記。「澤舄之類」で「舄」字にて表記する。真名体漢字表記「久和井[○・上・上]」と「久和井[平・上・上]」に差声点あり。
※河田文庫蔵と神宮文庫蔵との相異点は、「蘓敬本草注」の「草中( ― )」に墨線、真字体漢字表記の「久」字に平聲の差声点の有無の異なりを見る。神宮文庫書写者が「注」を附記するか迷ったとみる。
※廿巻本古写本の天正三年本と伊勢廣本共に同じ。那波本(元和版)の後の慶安板以下は、『蘓敬本草』として異なる。
昌平本『和名類聚抄』〔東京国立博物館蔵〕卷九菜蔬果蓏は欠。
下總本『和名類聚抄』〔内閣文庫蔵〕
天文本『略抄和名類聚抄』〔東京都立中央図書館河田文庫蔵〕
松井本『和名類聚抄』〔静嘉堂文庫蔵〕乾冊卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九
 烏 蘓敬本草注云――(烏芋)[○{和名}久和為○{又和名奈萬井}]生水中澤舄之類也
※注記部に朱筆記載があり、○「和名」字に朱筆で記載する。

京本『和名類聚抄』〔国会図書館蔵〕卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九
 烏(クワ井) 蘓敬本草注云――(烏芋)[久和為[平・上・上]]生水中澤舄之類也
※注記内容は松井本に共通する。真名体漢字表記「久和為[平・上・上]」の差声点あり。
同じく前田本〔下56ウ5〕も同じで、京本を忠実に転写する。

狩谷棭齋『倭名類聚鈔訂本』〔内閣文庫蔵〕卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九
 烏 蘓敬夲草注云瑰芋[久和為]生水中澤舄之類也
※頭注に「烏」字。注記「夲」の字に作く。

慶安元年板『倭名類聚抄』〔棭齋書込宮内庁書陵部蔵〕巻十七菓蓏部第廿六芋類第二百廿四
 (クワ井) 蘇-敬カ本草ニ云烏-芋[和名久和井]生ス二水-中ニ一澤寫之類也
※典拠書名「蘇敬本草」と記載。注記「和名」の語有無については有り。真字体表記「久和井」と「井」字に作く。「澤寫之類」と「寫」字に作く。

【古辞書】
深江輔仁『本草和名』〔下冊31ウ1~4〕
醫心食治部作萍新修作〓〔艹+冴〕並非
鳥(烏 新)芋 一名籍姑一名水〓(萍)〔氵+芋(無翼誤也)〕鳬茨[仁𧩑音上府下在/此反出陶景注] 一名槎牙[仁𧩑音錫加反]一名茨菰[澤泻(舄)之類也已/上出蘇敬注]鳥茈[出崔/禹]一名水芋[出兼名苑]一名王銀[出雜要訣]和名於毛多加一名久呂久和爲

立之案茨蘓敬/慈姑々々之反爲
藷(シヨ)云慈姑亦山藷之義謂塊然山根也
按鳥証類作烏医心引養生要集同
按医心食性引兼名苑一名玉銀
とあって、「仁𧩑」の語を示す。注記語「籍姑」の「籍」字は、棭齋『倭名類聚鈔箋注』で「藉姑」と補正表記する。

三巻本『色葉字類抄』〔一一七七(治承元)~八一〕年〔前田本中卷欠→黒川本〕
 烏(ヲウ) クワヰ 澤冩之類濱 鳥茈 同〔黒川本中卷久部植物門〕
※『和名抄』と接点となる語注記「澤寫之類」
 十巻本『伊呂波字類抄』卷八〔大東急記念文庫蔵〕
  クワイ 澤冩類也〔中卷久部植物門(三八六頁)3・4〕
※標記語「瑰芋」の注記の「之」は削除され、「澤冩類也」と記載する。
観智院本『類聚名義抄』
 烏―(芋) ク禾井 〔八一艸部・僧上三六頁3〕
※標記語「瑰芋」、和名「クワ井」のみで注記語は削除し未収載にする。
このように、『字類抄』『名義抄』共に『和名抄』からの継承が濃厚なのかの注記記載となっていて、この表記と注記の一部分に継承記載が覗いているということにもなる。

室町時代の古辞書として、広本『節用集』に、
烏芋(クワ井)[平軽・去] ウ・カラス、ウ・イモ一名茨菰(シコ)/又田烏子〔久部四九九頁7〕
と記載する。茲での注記は『和名抄』には未収載の一名「茨菰(シコ)」と「田鳥子」を収載していて、「茨菰(シコ)」の語は『本草和名』に見えるのだが、「田烏子」の語例は別の資料からの引用となる。此語は俗用としていて、他写本『節用集』類には未記載とし、広本『節用集』の独自の記載と見て良い。因みに、同時代の『庭訓往来』十月日返状に、
697菱(ヒシ)・田烏子(クワイ)・覆盆子(イチコ)フクホンシ・百合草(ユリ)・零陵子(ヌカコ)、隨御自愛ニ思歟。浦山ノ二字万雜也。莫如クハ彼二ニ也。〔謙堂文庫所蔵『庭訓往来註』五九右8〕

文明十四年寫『庭訓往来』〔龍門文庫蔵〕
 更に、『撮壤集』〔飯尾永祥著、一四五四(享徳三)年成立〕茶の子に此語を所載し、その存在を知ることになる。
 此外、印度本『節用集』〔弘治二年本・永禄二年本・尭空本・両足院本〕・易林本などの『節用集』類、そして、江戸時代に編まれた『書言字考節用集』などにも和語「くわゐ【烏芋】」の語は記述されてきている。

次に、江戸時代の注釈書での当該語の記載内容をみておくことにする。
契沖編『和名抄釋義』龍・第十七飲食部〔東京都立中央図書館河田文庫蔵〕
 烏芋
 俗用田烏子三字愚按烏黒義乎
 奈万為ハ黒久和為ハ白然則奈(クワ井ハ鍬藺ナルヘシ葉形鍬ニ似タリ)万為可用烏芋欤〔契沖全集第十六卷三八七頁下段〕
と記載し、標記語「烏芋」の語に俗用として「田烏子」について「烏黒義」と注解を以て示す。そのあとに「奈万為(なまゐ)」→「黒久和為」とし、右傍らに「クワ井ハ鍬藺ナルヘシ葉形鍬ニ似タリ」と記す(この箇所は全集未記載)。

狩谷棭齋『倭名類聚鈔箋注』〔東京都立中央図書館河田文庫蔵〕卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九〔八四オ・ウ〕
【翻刻】
烏芋 蘇敬本草注云烏芋[和名久和井○下總夲有和名二字夲草和名云和名於毛多加一名久呂久和爲]生水中澤舄之類也[○所引果部中品文下總夲作寫那波本同與原書合夲草和名引作舄與舊同證類夲草引作瀉夲草云烏芋一名藉姑二月生葉葉如芋陶注云今藉姑生水田中葉有椏狀如澤寫不正似芋其根黄似芋子而小煮食乃可噉疑其有鳥名今有烏者根極相似細而美葉乖異狀頭如莞草呼爲鳬茨恐此非也蘇注云此草一名槎牙一名茨菰葉似錍箭鏃按陶注藉姑蘇注茨菰槎牙詳其形狀可充久和爲陶注𦳓茨其個不可讀雖似有誤𦳓茨即烏芋故夲草圖經云烏芋今𦳓茨也苗似龍鬚而細正青色根黒如指大輔仁訓爲久呂久和爲是也然夲草統言以藉姑爲烏芋一名陶注混個二物蘇所個亦是藉姑故源君訓久和爲也其實藉姑訓久和爲烏芋訓久呂久和爲爲允久和爲钁藺也其莖似莞其葉似钁鑱故名之烏芋根似藉姑而黒故名久呂久和爲其葉不似钁鑱也又輔仁烏芋或訓於毛多加按於毛多加其葉如人仰見之狀故有是名當以東醫寶鑑野慈姑草花譜慈姑花充之其草頗似藉姑則知輔仁所云於毛多加以訓藉姑非訓烏芋也]

狩谷棭齋『倭名類聚鈔箋注』〔明治十六年刊森立之〕卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九
【翻刻】〔曙出版下冊卷九果蓏部第廿三果蓏類百十九〔八九四頁〕
烏芋 蘇敬本草注云、烏芋、[久和爲下總本和名二字、」本草和名云、和名於毛多加、一名久呂久和爲、]生水中、澤舄之類也、[○所引果部中品文、下總本寫、那波本同、與原書合、本草和名引作舄與舊同、證類夲草引作瀉、」本草云烏芋、一名藉姑、二月生葉、葉如芋、陶注云、今藉姑生水田中、葉有椏狀、如澤寫、不正似一レ芋、其根黄、似芋子、而小検食乃可噉疑其有鳥名、今有烏者、根極相似、細而美、葉乖異、頭如莞草、呼爲鳬茨、恐此非也、蘇注云、此草一名槎牙、一名茨菰、葉似錍、箭鏃、案陶注、藉姑、蘇注茨菰槎牙、詳其形狀、可久和爲陶注𦳓茨其說不讀、雖誤、𦳓茨卽烏芋、故本草圖經云、烏芋今𦳓茨也、苗似龍鬚一而細、正青色、根黑如指大輔仁訓爲久呂久和爲是也、然本草統言藉姑烏芋一名陶注說二物、蘇所說亦是藉姑、故源君久和爲也、其實藉姑久和爲、烏芋訓久呂久和爲、爲允、久和爲、钁藺也、其莖似莞、其葉似钁鑱、故名之、烏芋根似藉姑、而黑、故名久呂久和爲、其葉不钁鑱也、又輔仁烏芋或訓於毛多加、按於毛多加、其葉如人仰見之狀、故有是名、當以東醫寶鑑野慈姑、草花譜慈姑花之、其草頗似藉姑、則知輔仁於毛多加、以訓藉姑、非烏芋也]
【語解】
○「允」に爲り、「久和爲」は、「钁藺」なり〈也〉。
○故に、『本草圖經』に云く、「烏芋」は今、「𦳓茨」なり〈也〉。
烏芋 烏芋味苦甘微寒無毒主消渴痹熱温中益氣一名藉姑一名水萍二月生葉如芋三月三日採根暴乾 圖經曰烏芋今𦳓茨也。舊不著所出州土 苗似龍鬚而細正靑色根黑如指大皮厚 有毛又有一種皮薄無毛者亦同田中人 并食之亦以作粉食之厚人腸胃不饑服 丹石人尤宜蓋其能解毒爾又爾雅謂之
芍 陶隱居云今藉姑生水田中葉有椏狀如澤瀉不正似芋其根黄似芋子而小煮之亦可饌疑其有烏者根極相似細而美葉乖異狀如莧草呼爲𦳓茨恐是此也。
○椏 烏牙/切 唐本注云此草一名槎牙一名茨菰主百 毒産後血悶攻心欲死産後難衣不出搗汁服一升生水中葉似錍箭鏃澤瀉之類也。[卷三五・39ウ]

○當に『東醫寶鑑』には「野慈姑」、『草花譜』には、「慈姑花」を以て之れに充るべし。
『東醫寶鑑』「野慈姑」
 李氏朝鮮時代の医書。廿三編廿五巻。許浚著。一六一三(慶長一八)年に刊行。
 湯液編(全三巻)薬物に関するもの
 巻一  湯液序例、水部、土部、穀部、人部、禽部、獣部
 巻二  魚部、蟲部、果部、菜部、草部(上)
 巻三  草部(下)、木部、玉部、石部、金部
江戸時代の將軍徳川吉宗公は、此の湯液編(全三巻)にとりわけ関心を示し、棭齋は此の内容を以て備忘参考資料書を元に記述したものと見る。
実際、「野慈姑」の標記語では見えず、「野茨菰」で記載する。
『草花譜』「慈姑花」
飯室庄左衛門著、一八〇〇(寛政一二)年刊〔写本で国会図書館蔵〕
実際、「慈姑花」の標記語では見えない。

新井白石『東雅』三冊〔享保四年成、明治三十六年刊〕
烏芋クワヰ 白地栗 剪刀草 槎丁草 雨久花
烏芋クワヰ 倭名鈔に、澤寫一名芒芋、ナマヰといふ、烏芋はクワヰ、生水中、澤寫の類也と註せり、ナマヰといひ、クワヰといふ。義不詳。
ヰといふはイモといふ語の急なるなり。二物幷に芋の名ありて倭名鈔に、亦芋類に収載せし卽是也。ナマとは生也。クヮとは鍬也。その莖葉をつらね見るに、鍬の形に似たる故也。鍪の飾に鍬形といふものを古語に相傳へてオモタカの葉のひらけたるに、かたとれりなどいふも此義なる也。《注略》それをシロクワヰといふは、倭名鈔に見えし烏芋、彼俗に葧臍なといひ、此にクワヰといふものに、紫黑二種あるに對しいふなり。其慈姑は、三瓣の小白花を開くなり。慈姑の如くにして深藍色の花を開きぬるをも、雨久花などいふなり。〔卷十三○穀蔬第十三、三七八頁~三七九頁〕
※白石は『和名抄』を引用し、此語を記載し、俗用に「葧臍」の語を示す。

《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
う-う【烏芋】〔名〕(1)植物「くろぐわい(黒慈姑)」の漢名。*異制庭訓往来〔一四C中〕「柏実椎榛栗烏芋芡生栗干栗」(2)植物「くわい(慈姑)」のこと。*十巻本和名類聚抄〔九三四(承平四)頃〕九「烏芋 蘓敬本草注云、烏芋〈久和為〉生水中、沢舄之類也」
からす-いも【烏芋】【方言】〔名〕(1)植物、からすびしゃく(烏柄杓)。《からすいも》長野県北佐久郡485静岡県524(2)烏瓜(からすうり)の実。《からすいも》栃木県西部198(3)植物、きからすうり(黄烏瓜)。《がらすいむん》鹿児島県奄美大島965
くわい[くわゐ]【慈姑】〔名〕(1)オモダカ科の水生多年草。中国原産で、古くから各地の水田で栽培される。高さ九〇~一二〇センチメートル。ほぼ球形で径三~四センチメートルの青色の塊状の地下茎から、長柄のある鏃(やじり)形で長さ二〇~三〇センチメートルぐらいの葉を叢生する。秋、葉間から花茎をのばし、白色の三弁花を円錐状につける。地下茎は食用になり、その液汁は、やけどに効くという。漢名、慈姑。しろぐわい。ごわい。学名はSagittaria trifolia var. edulis 《季・春》*堀河百首〔一一〇五(長治二)~〇六頃〕雑「種つ物み園にまきついさこ共外面の小田にくはひひろはん〈藤原顕仲〉」*俳諧・誹諧初学抄〔一六四一(寛永一八)〕末春「くはゐ はすの根ほる」*大和本草〔一七〇九(宝永六)〕五「慈姑(クワイ) 其子は根蔓の末より生ず。旧本はかれて、母子は、のこりて又来春生ず。水田に多くうゑて利とす。甚繁生す。味美し」*書言字考節用集〔一七一七(享保二)〕六「慈姑 クハヰ シロクハヰ」*日本植物名彙〔一八八四(明治一七)〕〈松村任三〉「クワヰ ゴワヰ スイダグワヰ アギナシ 慈姑」(2)植物「くろぐわい(黒慈姑)」の古名。*十巻本和名類聚抄〔九三四(承平四)頃〕九「烏芋蘓敬本草注云烏芋〈久和為〉生水中沢舄之類也」*色葉字類抄〔一一七七(治承元)~八一〕「烏芋 クワヰ 沢瀉之類也」*名語記〔一二七五(建治元)〕八「くはい 如何、答烏芋とかけり、くろはたやきの 反、くはいをくわいといへる也」【方言】【植物】(1)「くろぐわい(黒慈姑)」。《きわいつる》播州†034《ごや》阿州†039香川県037《ごよ・ごい》新潟県一部030(2)「おもだか(沢瀉)」。《くわい》香川県037《くわいぐさ〔─草〕》和歌山県690692《ごわい》能州†039《ごおわゃあ・ごわ》京都府竹野郡622(3)「あまな(甘菜)」。《ぐわい》広島県比婆郡773(4)「つるぼ(蔓穂)」。《くわい》西州†035(5)「ががいも(蘿藦)」。《くあい》山口県玖珂郡・都濃郡794(6)「あぎなし(顎無)」。《くわいぐさ》和歌山県新宮市692【語源説】(1)葉の形から、「クヒワレヰ(噛破集)」の義〔大言海〕。(2)「クリワカレヰ(栗分率)」の義〔名言通〕。(3)根は黒くて丸く、葉は藺に似ているところから、クワヰ(黒丸藺)の義か〔和字正濫鈔〕。(4)「クアヰ(顆藍)」の義〔言元梯〕。(5)味が栗に似ているところから、「クハヰグリ」の略。ハヰは若い意〔滑稽雑談所引和訓義解〕。(6)水生であるところから、「カハイモ(河芋)」の転略か〔和語私臆鈔〕。【発音】〈なまり〉カヰ〔福岡〕グアイ〔島根〕クアエ〔紀州・和歌山県〕クヮイ〔長崎〕グワイ〔愛知・島根〕クワエ〔徳島〕グワエ〔周防大島〕クヮヤー〔佐賀〕〈標ア〉[0]〈ア史〉平安○●●〈京ア〉(0)【辞書】和名・色葉・名義・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・言海【表記】【烏芋】和名・色葉・名義・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林【慈姑】書言・言海【鳬茈・沢瀉】色葉【鳬茈】天正【図版】慈姑(1)

補注「田烏子(くわゐ)」は、『庭訓往来』十月返狀に付載語で、同時代の『庭訓往来注』に引用されていて、拙論「『庭訓往来註』にみる室町時代の古辞書について―その十六 十月日の返状、語注解―〔駒澤大学総合教育研究部紀要第十号、二〇一六年三月刊の六八一頁~六八四頁に所載〕

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