駒澤大学「情報言語学研究室」

さる【猨】と【猿】

2023/03/18~19更新
 さる【猨】と【猿】―通字と俗字そして正字に―
                                                                          萩原義雄識

 はじめに
 平安時代の古辞書で動物(毛獸)門に分類される和語「さる」は、漢字表記するときに「猿」と「猨」の単漢字が用いられ、二字熟語漢字での表記は、「猨猴」乃至「猿猴」と用いていて、この字音訓みが「ヱンコウ」と記述され、軈て転音化して一般に於いても「えてこう」と呼称される。和語の方は、「さる」のほかに「ましら」とも呼称されていて、この人に近い「さる」は、関東では、同音語「去(さ)る」、関西では、「去(いぬ)る」として、寄席芝居などの観客を集めて興行する楽屋には、かたや「猿(さる)」、かたや「犬(いぬ)」をと忌み嫌う動物とされてきた。とは言え、「さる」は、日枝神社の守り神として祀られ、日本神話の『古事記』には「猨」「猿」を冠字とする「猨田彦大神(さるたひこのおおほかみ)」〔世界大百科事典の見出し〕、「猿(さる)田(た)彦(ひこ)大神(のおほかみ)」〔『古語拾遺』〕が登場する。
 ※猿女(さるめ)、猿楽(さるがく)などの〈猿〉は〈戯(さ)る〉で、「猿女(さるめ)」とは宮廷神事の滑稽なわざを演ずる俳優(わざおぎ)を意味する。
  さて、単漢字A「猨」とB「猿」の漢字はどのように用いてきたのだろうかを考えてみようと思う。そこで、先ずは、字典類から見ていくと、白川静著『字通』を基盤に繙いてみることする。
  『字通』
 常【猿】13画 4423
《異体字》  
 [蝯]15画 5214
 [猨]12画 4224
《字音》エン(ヱン)
《字訓》さる

《説文解字》

《字形形声》
声符は袁(えん)。正字は〔説文〕十三上に蝯に作り、爰声。「善く援(よ)づ。禺(ぐ)(母猴)の屬なり」とみえ、字はまた猿・猨に作る。
《訓義》
[1] さる、ましら。
《古辞書の訓》
〔名義抄〕猿 ワカサル/猨猴 サル
《語系》
 袁・爰hiuanは同声。袁は死者の襟もとに玉を加える形、爰は瑗玉を以て相援(ひ)く形。ともにまるい玉を用い、援引・攀援(はんえん)の意があり、声義が近い。猨は攀援の意をとるものであろう。
《熟語》
【猿引】えんいん  攀援。
【猿鶴】えん(ゑん)かく  猿と鶴。〔宋史、石揚休伝〕揚休、閑放を喜ぶ。平居猿鶴を養ひ、圖書を玩(もてあそ)び、吟詠自適す。
【猿戯】えんぎ  五禽戯の一。
【猿吟】えんぎん  猿嘯。
【猿嗛】えんけん  さるのほほ。
【猿肱】えんこう  猿臂。
【猿猴】えんこう  さる。
【猿酒】えんしゆ  猿ざけ。
【猿愁】えんしゆう  猿が哀しく鳴く。
【猿嘯】えんしよう(ゑんせう)  さるの声。唐・杜甫〔九日、五首、五〕詩 風急に天高くして、猿の嘯(な)くこと哀し 渚清く沙白くして、鳥飛び廻る
【猿心】えんしん  世俗の心。
【猿声】えん(ゑん)せい  さるの声。唐・李白〔早(つと)に白帝城を発す〕詩 朝(あした)に辭す、白帝(城)彩雲の閒 千里の江陵、一日に還る 兩岸の猿聲啼いて住(とど)まらざるに 輕舟已に過ぐ萬重(ばんちよう)の山
【猿猱】えんどう(ゑんだう) さる。てなが猿。唐・李白〔蜀道難〕詩 黄鶴(くわうかく)の飛ぶも、尚ほ過ぐることを得ず 猿猱、度(わた)らんと欲して、攀援(はんゑん)を愁ふ
【猿臂】えんび  猿の長い手。
【猿鳴】えんめい  猿の声。
《下接語》
哀猿・巌猿・窮猿・狂猿・吟猿・犬猿・猴猿・山猿・愁猿・心猿・蒼猿・啼猿・巴猿・飛猿・暮猿・夜猿・野猿・林猿・嶺猿・老猿

『康煕字典』
【蝯】[唐韻]雨元切[集韻]于元切並音袁[説文]禺属[広韻]蝯猴五百歳化為玃[爾雅釈獣]猱蝯善援[前感江都王建伝]繇王閩矦遺建荃葛珠璣犀甲翠羽蝯熊奇獣[玉篇]或作猨[説文徐鉉註]蝯別作猨非○按長箋言攀援如虫故入虫部然書冊所載或从虫或从犭不可偏廃今伹載爾雅漢書二条余从犭者別詳犬部
【猨】[広韻]雨元切[集韻]于元切並音袁[玉篇]似獼猴而大能嘯[蕣雅]猨猴属長臂善嘯便攀援故其字从援省或曰猨性静緩故从爰爰緩也論衡曰猨伏於鼠今人取鼠以繋猨頚猨不復動[史記李広伝]広為人長猨臂其善射亦天性也[司馬相如子虚賦]赤猨蠷蝚[後漢方術伝]五禽之戯四曰猨又[司馬相如子虚賦註]象俗呼為江猨又[玉篇]亦作蝯[集韻]本作蝯亦作猿𤝌𧳭
【猿】[広韻]雨元切[集韻][韻会]于元切並音袁[玉篇]俗猨字[戦国策]猿獼猴錯木拠水則不若魚鼈
『説文解字』
【蝯】善援禺屬从虫爰聲〈臣鉉等曰今俗別作猨非是兩元切〉

 A「猨」『古事記』『日本書紀』は、「猨田彦」「猨女」と表記する。
 B「猿」『日本書紀』に、人名「巨勢猿臣」、「猿晝」、「猿猶合眼歌」、「猿歌」と四種の語に用いる。
   C「蝯」『古事記』『日本書紀』未記載。

 1,『古事記』『日本書紀』に見える「さる」の漢字表記。
 2,『万葉集』は、諸写本のなかで、元暦校本『万葉集』だけが「猨」字を以て表記していて、後の書写本は、「猿」字を用いている。このなかで、訓みを助動詞「まし」に宛てているなかにあって、卷三の三四四番の大伴旅人の歌に「さる」の訓みを用いている。次に示す。
  ○痛醜 賢良乎為跡 酒不飲 人乎熟見<者> 二鴨似
      あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
  3,『古語拾遺』〔龍門文庫蔵〕
 
    「猨女(サルメ)」、「溯女ノ君」「溯田彦」と両用表記にて記載する。

  観智院本『類聚名義抄』   
    猨猴 音園 サル[]/下ヱムコ[○・] 猨 通  猿 俗猨或/禾カサル 溯 音表又㽵〔佛下本一二七8〕
と云う、標記語熟字「猨猴」の次に単漢字「猨通」、「猿俗猨或/ワカサル」と此の単漢字二語を注記語を各々に記載する。此の両標記語を「通」と「俗」として明確に記述する。
  此の通と俗と識別は、『干禄字書』にも
    猿猨蝯  上俗中通下正今不行 〔平聲〕
とある箇所が「猿」俗字、「猨」通字として見合う。そして正字「蝯」、「今行わず」とあることで敢えて記載をしていない。

  室町時代の古辞書
  『要略字類抄』〔駒澤大学図書館蔵〕
  (エン)  サル俗云エン
     コウ  合呼猿
       侯ヲ也猨(エン)愨(エン)
       並同                         並同

 『運歩色葉集』に、
    ○(サル) ー曰山父一馬曰二山子一故畫掛厩別又有二故事一也。猴(同)。獼(同)。狙(同)。猱(同)。獱(同)。〔元亀二年本・獣名三七一8・9〕〔静嘉堂文庫本・獣名四五四5・6〕
    【訓読】
    ー(猿(サル))(猿)、山父曰く、「馬山子」とと曰ふ。故に畫を厩に掛け、別に又、故事有るなり〈也〉
とあって、字音語標記「猿猴」の語としては採録していない。

  『大廣益會玉篇』坤〔寛永八年版、架蔵本〕
    猱(ダウ)ナウ 乃刀切/獣ノ名サルノタグヒ〔玉廿三犬部三百六十四、七ウ3-2〕
    〓(タウ)〔犭+揀〕同上又/女交切サルノタグヒ〔玉廿三犬部三百六十四、七ウ3-3〕
    猴(コウ) 乎溝切/獼猴サル〔犬部三百六十四、七ウ3-4〕
    玃(カク) 居縛切/狙(サル)也〔犬部三百六十四、七ウ8-4〕
    𤣓 同上〔犬部三百六十四、七ウ8-5〕
    猨(エン) 于元切似(ニテ)レ猴(サル)ニ/能(ヨク)嘯(ウソフク)亦作蝯〔犬部三百六十四、八オ3-5〕
    猿(サル) 俗〔犬部三百六十四、八オ3-6〕
    
    獼(ミ) 武移切/獼猴サル〔犬部三百六十四、八オ6-3〕
    猕 同上〔犬部三百六十四、八オ6-4〕
    狙(ソ) 且余切玃属(サルノタグヒ)/犬暫齧人〔犬部三百六十四、八ウ3-1〕
    𤟠(シヨ) 音胥/猨属(サルノタグヒ)〔犬部三百六十四、八ウ6-6〕
    猻(ソン) 思昆切/猴猻(サルナリ)〔犬部三百六十四、八ウ7-5〕
    𤣓(タク) 徐卓切似レ獼/猴ニ而黄(キナリ)又作耀〔犬部三百六十四、九オ1-1〕
    狖(イウ) 羊就切/黒猿(クロキサル)〔犬部三百六十四、九ウ1-3〕
    㺠 同上〔犬部三百六十四、九ウ1-4〕
    獑(サン) 仕咸切獑猢/獣名似(ニタリ)レ猨(サル)ニ〔犬部三百六十四、九ウ2-1〕
    猚(ルイ) 音壘又音/袖似(ニタリ)レ猕猴ニ〔犬部三百六十四、九ウ3-1〕
とあり、十七種の単漢字が和語「サル」に関わるものとなっている。

 まとめ
  ここで、『干禄字書』、観智院本『名義抄』における「猨」通字、「猿」俗字という位置づけがどのように見定められ、こうしたなかにあって、三巻本『色葉字類抄』〔前田本〕が俗字の「猿」字を標記字にして編纂が行われ始め、あとの字類抄系の古辞書に受け継がれていって、その一種『要略字類抄』〔駒大図書館蔵〕を以て示しておいたが、世俗系の古辞書から現在の国語辞書の動物「さる」の見出語に「猿」字が定着していることを検証した。言わば『字類抄』以前の『和名抄』を原点とする古辞書には、やはり、「猨」字を標記字にすることもあり、この『和名抄』がずっと使用され、江戸時代には隆盛を極め、狩谷棭齋が世に『倭名類聚鈔箋注』を送り出すことがその頂点ともなっていたこともあり、この「猨」通字と「猿」俗字の使用頻度の均衡を保持しつづけてきていると考えている。
 このあと、両用漢字表記の現行実態を探ることにも努めたい。

《補助資料》
 小学館『日本国語大辞典』第二版
    さる【猿】〔名〕(1)霊長目のうちヒト科を除いた哺乳類の総称。動物学的には霊長目を総称していう。ヒトにつぐ高等動物で、大脳のほか色覚を含む視覚、聴覚が発達し知能の高いものが多い。顔が裸出し、目は前方に向かい、手と足で物を握ることができる。森林などで群をなしてすみ、木の葉、果実、昆虫などを食べる。ゴリラ、ヒヒ、クモザル、キツネザルなど一二科五八属一八一種がいる。原猿類と真猿類とに分けられ、後者はさらに広鼻猿類(新世界サル類)、狭鼻猿類(旧世界サル類)、類人猿類に区分される。日本にはニホンザル一種だけで、ふつうこれをさしていう。*日本書紀〔七二〇(養老四)〕皇極三年六月(北野本南北朝期訓)「人有りて、三輪山に猿(サル)の昼睡るを見る。竊に其の臂を執(とら)へて、其の身を害(そこな)はず」*万葉集〔八C後〕三・三四四「あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿(さる)にかも似る〈大伴旅人〉」*二十巻本和名類聚抄〔九三四(承平四)頃〕一八「猨 風土記云猨〈音園 字亦作猿 和名佐流〉善負子乗危而投至倒而還者也 兼名苑云一名獼猴〈彌侯二音〉文選云猿狖〈音友〉失木 唐韻云猴猻〈音孫 楊氏漢語抄云胡孫〉」*平家物語〔一三C前〕一・内裏炎上「山王の御とがめとて、比叡山より大きなる猿どもが二三千おりくだり」*観智院本類聚名義抄〔一二四一(仁治二)〕「猨猴 サル」*名語記〔一二七五(建治元)〕六「けだもののさる、如何。答、さるは、猿也。獼猴ともかけり」*虎明本狂言・靫猿〔室町末~近世初〕「『やい、あれはさるではなひか』『中々さるで御ざる』」(2)(1)を、すばしっこくずるいもの、卑しいもの、落ち着きのないものなどと見て、それに似た人をたとえていう語。(イ)ずるくて小才のきく者、またはまねのじょうずな者などを、あざけっていう語。*随筆・胆大小心録〔一八〇八(文化五)〕五五「今きけば、客は小ぬす人で、おやまは猿で、きき合せてあふ事じゃげな」*滑稽本・浮世床〔一八一三(文化一〇)~二三〕初・上「来る。あの野郎ァ達入(たていり)のねへ猿だぜ。見付けたら面の皮ァ引めくって呉べい」(ロ)野暮な者やまぬけな者をあざけっていう語。*歌舞伎・桑名屋徳蔵入船物語〔一七七〇(明和七)〕五「よい人質。あの海とんばうめを屋敷に留め置き、彼奴(きゃつ)めを猿にして紛れ者の詮議いたさう」*洒落本・文選臥坐〔一七九〇(寛政二)〕北廓の奇説「初会の座敷は廓通でもてれるもの、況んや山家の猿(サル)にをいてをや」(ハ)言語、動作の軽はずみで落ち着きのない者。*新撰大阪詞大全〔一八四一(天保一二)〕「さるとは ちょかちょかする人」(ニ)主として小者(こもの)、召使いなどを卑しめていう語。*浄瑠璃・傾城酒呑童子〔一七一八(享保三)〕三「どいつぞこい、さるめ、先へいて善哉餠いひ付よ」*浄瑠璃・本朝三国志〔一七一九(享保四)〕三「ごくに立たずののら猿の猿め猿めと異名を付け」(3)(浴客の垢(あか)を掻(か)くところから)江戸時代、湯女(ゆな)の別称。風呂屋女。垢かき女。*俳諧・大坂独吟集〔一六七五(延宝三)〕下「をのづから書つくしてよひぜんがさ 猿とゆふべの露は水かね〈未学〉」*浮世草子・好色一代女〔一六八六(貞享三)〕五・二「風呂屋者を猿といふなるべし。此女のこころざし風俗諸国ともに大かた変る事なし」*雑俳・三国市〔一七〇九(宝永六)〕「けいせいに・三すじたらいでさると成る」*随筆・異本洞房語園〔一七二〇(享保五)〕抄書「吉原を贔負(ひいき)する人は、風呂屋女に仇名つけて猿と云ひける也。垢をかくといふ心か」*浮世草子・渡世身持談義〔一七三五(享保二〇)〕五・二「或は廓より茶屋風呂屋の猿と変じて、垢をかきて名を流す女郎あり」(4)岡っ引き、目明しをいう江戸時代、上方の語。*俳諧・西鶴大矢数〔一六八一〕第一三「頭は猿与力同心召連て 此穿鑿に膓をたつ」*浪花聞書〔一八一九(文政二)頃〕「猿(サル)。江戸の目明し也」*随筆・皇都午睡〔一八五〇(嘉永三)〕三中「京摂の猿など呼役人を、(江戸で)岡っ曳」*俚言集覧(増補)〔一八九九(明治三二)〕「猿 江戸にて、目あかし、又、おか引と云ふ者を、大坂にて、猿と云ふ」(5)扉(とびら)や雨戸の戸締まりをするために、上下、あるいは横にすべらせ、周囲の材の穴に差し込む木、あるいは金物。戸の上部に差し込むものを上猿(あげざる)、下の框(かまち)に差し込むものを落猿(おとしざる)、横に差し込むものを横猿という。くるる。*雑俳・柳多留-一五三〔一八三八(天保九)~四〇〕「戸の猿は手長を防ぐ為に付け」*歌舞伎・月梅薫朧夜(花井お梅)〔一八八八(明治二一)〕六幕「思入あって下手入口の戸をしめ、さるをおろし」*思出の記〔一九〇〇(明治三三)~〇一〕〈徳富蘆花〉四・九「雨戸は一々さるを落して猶其上を閂(かんぬき)で押へ」( )自在かぎをつるす竹にとりつけ、自在かぎを上げて留めておく用具。多くグミの木で作る。小猿(こざる)。(7)小さい紙片を折り返して括猿(くくりざる)のような形をつくり、その中央に穴をあけ、揚げた凧(たこ)の糸に通して、凧の糸目の所までのぼり行かせるしかけの玩具。*随筆・嬉遊笑覧〔一八三〇(天保元)〕六・下「のぼせたる凧の糸にとをし糸をしゃくり上れば凧の糸めの処まで上り行なり。是を猿をやるといふ」(8)ミカンの実の袋を糸毛でくくって、(1)の形をこしらえる遊び。*浮世草子・好色一代男〔一六八二(天和二)〕六・一「過にし秋、自が黒髪をぬかせられ、猿(サル)などして遊びし夜は」(9)江戸時代、針さしのこと。*雑俳・折句袋〔一七七九(安永八)〕「憎まれて居る針箱の猿」(10)「さるばい(猿匐)」の略。*俚言集覧〔一七九七(寛政九)頃〕「猿匐(サルハヒ) 碁勢にあり。又猿とばかりも云」(11)盗人仲間の隠語。(イ)囚人。〔隠語輯覧{一九一五(大正四)}〕(ロ)犯罪密告者。〔隠語輯覧{一九一五(大正四)}〕(ハ)私娼。〔特殊語百科辞典{一九三一(昭和六)}〕【方言】(1)密告者。《さる》奈良県675(2)額を受けるくぎに当てたり、幟(のぼり)の下隅に下げたりする三角形の小さな布の袋や人形。《さる》島根県725香川県与島014(3)鴨猟(かもりょう)に使う網の枠の竹に取り付けた網の滑りをよくするための竹の輪。《さる》新潟県蒲原364(4)おけ状の甑(こしき)でものを蒸す時、底の気孔を覆うのに用いる小ざる。《さる》長崎県壱岐島914(5)戸障子の骨。《さる》福島県中部155(6)手掘り石油井の側板。《さる》新潟県361(7)労働用の腰ばかま。《さる》島根県石見725(8)山仕事などをする時に着る上着。《さる》長野県飯田012(9)そでなし。胴着。《さる》愛知県北設楽郡062島根県益田市(ひも結び)725広島県賀茂郡782大分県大分郡941(10)樹木の皮。《さる》島根県石見725(11)槇(まき)の実。《さる》山口県吉敷郡・厚狭郡794(12)小豆など豆につく虫。《さる》奈良県678島根県那賀郡・江津市725(13)虫、てんとうむし(天道虫)。《さる》三重県飯南郡586兵庫県加古郡664神戸市665岡山県邑久郡(小児語)761大分県東国東郡940(14)虫、かまきり(蟷螂)。《さある》沖縄県宮古島975《さあるうぐゎあ》沖縄県島尻郡975【語源説】(1)獣の中では知恵が勝っていることから、マサル(勝)の意〔和訓栞〕。(2)「サ」は「サハグ」、「サハガシ」の意の古語。「ル」は語助〔東雅〕。(3)「サルル(戯)」ものであるところから〔大言海〕。(4)「サアリ(然有)」の約「サリ」の音便。物真似の意から転じた〔日本古語大辞典=松岡静雄〕。(5)怒った様子を表わすことによって、人を威嚇するところから、「シカレル」の反〔名語記〕。(6)「サトリアル(智有)」の義〔日本語原学=林甕臣〕。(7)食物などを「サラヘ取ル」から、「サラフ(凌)」の義〔名言通〕。(8)さわる所へ取り付くところから、「サハル(触)」の中略。また、木からぶらりとさがるところから、「サガル」の中略か〔和句解〕。(9)人を見ると立ち「サル(去)」ものであるから〔本朝辞源=宇田甘冥〕。(10)「サルダヒコ(猿田彦)」の神に似ているところから〔古事記伝〕。(11)馬と共に猿を飼えば、馬の病気を砕くことができるということから、マル(馬留)の転〔言元梯〕。(12)猴の義の「サン(猻)」の語尾変化〔日本語原考=与謝野寛〕。(13)アイヌ語で猿をいうサロ、または「サルウシ」からか。「サルウシ」は尻尾をもつの意〔国語学叢録=新村出〕。【発音】〈なまり〉サー〔鳥取〕サール〔新潟頸城・鹿児島方言〕サイ〔熊本分布相・鹿児島方言〕シャル〔熊本分布相〕サッ〔鹿児島方言〕サリ〔石川・鳥取〕サン〔大隅〕シヤル〔飛騨〕〈標ア〉[サ]〈ア史〉平安・室町・江戸○◐〈京ア〉[ル]【辞書】字鏡・和名・色葉・名義・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【猿】和名・色葉・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【猨】和名・色葉・和玉・易林・書言【獼】字鏡・和玉・文明【狙】色葉・和玉・書言【獼猴】色葉・名義【狖・猱】色葉・和玉【蝯】和玉・易林【猴】文明・易林【胡孫】色葉【猨猴】名義【猻・玃・㹳・𤠙・貁】和玉【猿猴】伊京【王孫・獮猴】書言【図版】猿(5)
    ましら【猿】〔名〕「さる(猿)」の異名。*古今和歌集〔九〇五(延喜五)~九一四(延喜一四)〕雑体・一〇六七「わびしらにましらななきそあしひきの山のかひあるけふにやはあらぬ〈凡河内躬恒〉」*御伽草子・猿の草子〔室町末〕「此猿〈略〉弓、まり、包丁、詩歌、管絃、ひとつもかくる事なく、器用のましら也」*日葡辞書〔一六〇三(慶長八)~〇四〕「Maxira (マシラ)。歌語。サル」*読本・椿説弓張月〔一八〇七(文化四)~一一〕前・一二回「盃の数もややかさなりて、顔をば狙猴(マシラ)のごとくなしつつ」【語源説】(1)梵語から〔和訓八例・嘉良喜随筆・名言通〕。梵語「マカタ(摩期吒)」の転か、また、猿の古名「マシ」に助辞「ラ」の付いたものか〔大言海〕。梵語マシラ(摩斯吒)から〔立路随筆〕。(2)「マ」は暦の「サル(申)」の字から、「シ」は助字。「ラ」は等の義〔関秘録・和訓栞(増補)〕。(3)「マサル」の転か〔外来語の話=新村出〕。他の動物よりすぐれているところから、「マサル(勝)」の義〔和句解〕。(4)「マシリアカ(真尻赤)」の義〔日本語原学=林甕臣〕。(5)「マシ(馬守)ラ」の義〔言元梯〕。(6)「マサル(真猿)」の転〔雅言考〕。(7)猿が人間に転生した伝説をもつ摩頭羅国の「マツラ」からか〔南方熊楠全集〕。【発音】〈標ア〉[0][マ]〈京ア〉[0]【辞書】日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【猿】書言・ヘボン・言海

〈その他〉
『猨山(ヱンザン)商売往来(シヤウバイワウライ)』周暁〔安永五年奥書〕
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100408434/manifest

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