くくさ【鬼皂莢】
萩原義雄識
慶安元年板『倭名類聚抄』〔棭齋書込み宮内庁書陵部蔵〕
鬼〓〔艹+皂〕莢(クヽサ)楊-氏漢-語-抄ニ云鬼-〓〔艹+皂〕-莢ハ[久々散造-恊ノ二-音]
一ニ云鬱-茂-草[辨-色-立-成ニ云鬱-萠-草今案ニ本-文未レ詳]
鬼皂莢(クヽサ) 『楊氏漢語抄』に云はく、「鬼皂莢〈造協の二音、久々佐(くくさ)〉」は一に「鬱茂草」と云ふといふ。〈『弁色立成』に「鬱萠草」と云ふ。今案ふるに本文は未た詳かならす〉
此の二十卷本標記語「鬼〔艹+皂〕莢」は、十巻本では「鬼皂莢」と草冠を記述しない。真名体漢字の表記も「久々散」と「久ゝ佐」と第三拍の漢字表記を「散」字と「佐」字で記載し異なりを見せている。 字音は「造恊(ザウキヤウ)」で合致する。そして、『弁色立成』記載の「鬱萌草」を記載するが、その本文は未詳と源君は唱えている。
これらの事象を用いて、棭齋は『倭名類聚抄箋註』のなかで如何見定めて行くのかを見ていくと、
鬼皂莢(クヽサ) 楊氏漢語抄ニ云鬼皂-莢ハ[造-恊ノ二-音、久々佐、○下總本有和名二字、」本草和名同訓、按久々佐未レ詳、]一ニ云鬱茂草、[弁色立成云、鬱萠草今案ニ本-文未レ詳]○按本草和名、本草外藥引二新撰食經一、載二鬼皂莢云、如二皂莢一高一二尺、證類本草皂莢條、引二陳藏器一云、鬼皂莢生二江南澤畔一、如二皂莢一高一二尺、則知食經本二于本草拾遺一也、源君引二漢語抄一載レ之、非レ是、」鬱萠草又見二内膳司式一」按鬼皂莢鬱茂草不レ詳、依皂莢之名與一レ云二高一二尺一、疑是今俗呼二草合歡一者是也、」伊勢廣本無二今案以下六字一、
とその記載を見る、ここで、棭齋は『本草和名』を引用し、
以下食経 鬼皂莢即水茸角 ○鬼皂莢 如皂莢高一二尺 和名久々佐
次に『證類本草』卷九木部にして、どの書冊からの引用なのかはもう少し見極めていくことになる。
だが今、早稲田大学本にて便宜的に引用した。茲には次に示した『陳臓器』を引用して記載する。
その次には、『陳臓器本草拾遺』乾卷〔国会図書館蔵〕に、
皂莢、鬼皂莢作浴湯去風瘡疥癬挼葉去衣垢沐髪長
頭生江南澤畔如皂莢高一二尺
とあって、正しくその内容をここに引用する。
さて、此の「くくさ」なる樹木が現在でいうところのどの樹木名で呼称され、いつ頃までこの古名が継承されいたのかをもう少し見ておく必要があると考える。
古辞書では、観智院本『類聚名義抄』に、
〓莢 造協二音 〔僧上四六8〕
鬼〓ー〔僧上四七1〕
皂莢 カハラフチ[上上上平平濁]/俗云虵結[平濁入]〔僧上四七1〕
鬼ーー クヽサ[平濁上濁上] 草 正〔僧上四七1〕
といった、『和名抄』に於ける標記語と語註記を用い、さらに「俗云」という別の資料『醫心方』にも及ぶ標記字「虵結」を引用する。ここでの和訓は、『和名抄』に依拠する「くくさ」だが、標記字「鬼皂莢」〔十卷本系統『倭名類聚抄』〕の和訓には差声点が見られ、「ぐぐさ[平濁上濁上]」と第一拍と第二拍の仮名を濁音化している点には注目しておきたい。実際、小学館『日国』第二版には、濁音表記のことはない。これに対し、後先が逆で示すのだが、標記語「〓莢」と「鬼〓莢」〔廿卷本系統『倭名類聚抄』〕だが、茲には和訓を敢えて記載せず、前の標記語の語注記に、音注「造協(ザウキヤウ)=漢音」が記載されている。何れにせよ『和名抄』を引用する語群収載の箇所ということになろう。此の点については、棭齋は天部景宿類「牽牛」の語註記で『字類抄』と『名義抄』とを「二家」として共に註記引用しているのだが、此の標記語については触れずじまいとなっていることからして、徹頭徹尾、漏れなくに渡って『倭名類聚抄箋註』の編纂実行に利用されていたわけでないことが伺えよう。『日国』には、『伊呂波字類抄』を語用例として収載しているので参照されたい。
《補助資料》
『古事類苑』
鬱萠草(ククサ)搗
〔延喜式 三十九内膳〕
漬年料雜菜
鬱萠草搗三斗〈料鹽四升五合〉
右漬二秋菜一料
〔倭名類聚抄 十七野菜〕
鬼ra067623.gif莢 楊氏漢語捗云、鬼ra067623.gif莢、〈久々散、造協二音、〉一云鬱茂草、〈辨色立成云、鬱萠草、今案本文不レ詳、〉
〔箋注倭名類聚抄 九菜蔬〕
按本草和名、本草外藥引二新撰食經一、載二鬼皂莢一云、如二皂莢一、高一二尺、證類本草皂莢條、引二陳藏器一云、鬼皂莢生二江南澤畔一、如二皂莢一、高一二尺、則知食經本二于本草拾遺一也、源君引二漢語抄一載レ之非レ是、鬱萠草又見二内膳式一、按鬼皂莢鬱茂草不レ詳、依二皂莢之名一與レ云二高一二尺一、疑是今俗呼二草合歡一者是也、
(「ra067623.gif」(http://base1.nijl.ac.jp/~kojiruien/inshokubu/frame/f001048.html 参照 2022年10月24日))
小学館『日本国語大辞典』第二版
くくさ【鬼皀莢】〔名〕植物「さいかち(皀莢)」の一種か。薬用として、古くから用いられていた。*本草和名〔九一八(延喜一八)頃〕「鬼皀莢 如皀莢高一二尺 和名久々佐」*十巻本和名類聚抄〔九三四(承平四)頃〕九「鬼皀莢 楊子漢語抄云鬼皀莢〈造協二音久々佐〉一云欝茂草〈弁色立成云欝萠草今案本文未詳〉」*伊呂波字類抄〔鎌倉〕「鬼遑莢 クモメクサ ククサ」【語源説】漢名の転〔東雅〕。【発音】〈ア史〉平安○●●【辞書】和名・色葉・名義【表記】【鬼皀莢】和名・名義【蕛】名義
小学館『日本国語大辞典』第二版
くもめ‐ぐさ〔名〕サイカチに似た樹とするが未詳。
*伊呂波字類抄〔鎌倉〕「鬼遑莱 クモメクサ ククサ」