『聖徳太子傳』における「種」字
萩原義雄識
はじめに
イタリア、ローマ法王立サレジオ大學に、マリオ・マレガ師の所蔵した日本語文献資料がマレガ文庫に収められている。此の文庫に所蔵する文献資料の悉皆調査を二〇〇三(平成一五)年四月から二〇〇四(平成一六)年三月の一年間の研究調査によって得たことは云うまでもない。
この資料の情報をいち早く、教えていただいたこととその機会に恵まれたことに改めて感謝する。
このなかで、MM0113に所蔵する『聖徳太子傳』〔版本十冊〕を用いて、二〇〇三(平成一五)年に、本文の翻刻を行っておいた。
そして、此の本文資料を一文データテキスト化し、そのデータ資料を元に語解を行うことが出来るようにしておいたが、なかなかその内容を活用するまでに至らなかった。
漸く、今日そのゆとりを得て、その出来映えを多くの方に利用してもらえるよう努めていきたいと模索することをはじめておくことにした。
いま、その検索した作業データの一端を茲にお示しすることにする。
二、単漢字「種」について
「種」字の用例總数は纔か三三例に過ぎない。
そのなかで「種」字の特徴の一つに、⑴数詞として「―種」という表現があり、ここでも数量名詞としての「種」が見えている。
次に、最も多い⑵畳字「シユジュ【種々】」の語表現が見えている。
そうしたなか、⑶二字熟語「種因」といった複合語として用いていることを茲で明らかにしておく。
⑴数詞①「一種」一例。②「一千余種」二例。③「五種」三例。
④「三種」三例。⑤「六種」一例。⑥「十九種」一例。
⑦「十万種」一例。⑧「十六種」二例。⑨「八十種好」一例。
[計一五例]
⑵畳字「種々」一七例。
畳字「種々」は、『日国』第二版が示すように、【一】〔名〕(形動)(1)(2)と」【二】〔副〕との二種になり、このうち「種々の」が最も多く一四例、「種々」一例、「種々なり」一例、「種々に」一例となっている。
⑶二字熟語①「種因」一例。
○大福分の種因(しゆいん)も彼栴檀(せんたん)の舛(ます)乃因縁(いんゑん)なり。
〔第六冊・通番一七九七〕
この最後の⑶「しゆいん【種因】」の語は、『日国』第二版の見出し語としては未載録の語となっている。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
しゅ‐じゅ【種種】(古く「しゅしゅ」とも)【一】〔名〕(形動)(1)種類の多いこと。また、そのさま。さまざま。いろいろ。*万葉集〔八C後〕八・一五九四・左注「終日供二養大唐高麗等種々音楽一爾乃唱二此歌詞一」*保元物語〔一二二〇(承久二)頃か〕上・法皇熊野御参詣「権現すでにおりさせ給けるにや、種々の神変を現じて後」*名語記〔一二七五(建治元)〕五「種々を、くさぐさといへり」*滑稽本・風来六部集〔一七八〇(安永九)〕放屁論「種々(シュジュ)に案じさまざまに撒わけ」*読本・椿説弓張月〔一八〇七(文化四)~一一〕続・四〇回「二頭(にひき)の木獅子(つくりしし)を狂して、種々(シュジュ)の曲をなす事甚牘(きょう)あり」*小学読本〔一八七三(明治六)〕〈榊原芳野〉一「硯は墨を觧く器にして、形種々に作る。深き処を海といひ浅き処を岡といふ」*落語・王子の幇間〔一八八九(明治二二)〕〈三代目三遊亭円遊〉「此野郎、予(おれ)が家に居ないと思って種々(シュジュ)な言(こと)を云やアがったなア」(2)髪の短く衰えたさま。*寛斎先生遺稿〔一八二一(文政四)〕四・歳杪縦筆「振二起頽風一不レ難レ為、吾髪種々君莫レ笑」【二】〔副〕さまざまに。いろいろに。*玉塵抄〔一五六三(永禄六)〕一四「智恵を以ていつわり種々うかがい計略する者をも手のわに入たと云心か」*藤樹文集〔一六四八頃〕五・吾「世間種々顛倒迷乱、皆自二此一誤一発出」*珮川詩鈔〔一八五三(嘉永六)〕四・山路秋夕「秋山一路経過夕、種種花開種種鳴」【発音】〈標ア〉[シュ]〈京ア〉[シュ]【辞書】日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【種種】ヘボン・言海【種々】書言