今年のパリ行きは「クルマで行ってみよう」と考えていた。でも地図を見るとパリは遠い。僕の体力で可能なのだろうかと思ってしまう。
昔、ストックホルムに住んでいた頃はそれこそピレネーであろうが、アルプスであろうが、東欧、トルコ、モロッコまでもクルマで走っていった。スカンジナビア最北端ノード・カップにも。フォルクスワーゲンのマイクロバスを改造して、クルマに寝泊り、どこに行くにもお構いなしだった。僕たちも若かったのだ。
今のクルマ、シトロエンを新車で買ってまもなく十年になる。日々の買い物とポルトガル国内旅行が殆どでスペインに入ってもポルトガル国境付近。遠出という遠出ではない。
今年の車検ではタイヤも四本新しく替えたし、クルマも適度に古くなって絶好のチャンスかも知れない。
クルマでパリまで行くのだったら、パリからは遠くて行きにくいミディ・トゥールーズあたりを途中見学もできる。スペインからピレネーを越えフランスに入ってすぐのあたりだ。
その周辺の美術館を検索してみると、モントーバンのアングル美術館で「アングルと現代作家たち」という企画展が行われていて、期間は10月4日(日曜日)までとあった。
モントーバンのアングル美術館には前々から絶対に行きたいと思っていたのだが、これは又とないチャンス。
パリにはサロン・ドートンヌの期間中ではなくても前もって作品を預けることもできる。
半月ほどは迷いに迷った。
世界中クルマは増えてどこもここも街なかは駐車禁止。それに犯罪に会った話もよく聞く。バスクのテロに巻き込まれる危険も無きにしも非ず。スペインは広い。スペインは広いし、フランスも大きい。パリはフランスの北の端っこだ。途中の宿代、ガソリン代、食事代、おおまかに見積もっても飛行機で行くほうが遥かに安上がりだ。
同時にイージージェットのパリ行きを検索してみると、これがまた安い。往復二人で188ユーロ。早いし、自分で運転することはない。
モントーバンは諦めざるを得ない。
サロン・ドートンヌの時期(11月中旬)に合せてイージージェットの航空券をネットで買ってしまった。
でも先月のサイト更新を済ませて一気に気持ちが動いたのだ。やはりモントーバンは諦めきれない。パリと切り離して考えることも可能だ。
2009/10/01(木)晴れたり曇ったり/ Setubal - Elvas - Badajos - Madrid - Triueque
走ってみることにした。今日の出発を逃せばそのチャンスは二度とない。幸い週間予報でトゥールーズあたりの天気はおおむね晴れ。セトゥーバルを朝8時に出発。きょうはどこまで走れるかが勝負だ。エルヴァスから無料の高速に乗り国境の手前で初めて休憩。コーヒーを飲む。ポルトガルとしばしの別れ。国境を通過。
バダホスを過ぎたドライヴインの駐車場で朝出かけに作ってきたおにぎりで昼食。ドライヴインで食後のコーヒー。
メリダ、トルヒーヨと町には入らずに外環高速で通過。そこまでは以前にもこのクルマで来た地域だ。やがてトレドの標識。そしてもうすぐマドリッド。
マドリッドには五重の外環道がありM5に入れば簡単に目的のサラゴーサ方面に入ることが出来る筈。
ところがM5を逃してしまった。M4は見つからず、M3もうっかり逃してしまう。道と標識は複雑でとにかくクルマが多い。そして最悪のマドリッドの街なかへ。右も左も判らない。でも少し迷っただけで<トゥート・ディレクション>(全ての行き先)の標識を見つけてM3へ。
少し時間のロスはあったが巧くサラゴーサ方面行きの高速に再び乗ることが出来た。お陰で大都市を走る自信が少し付いた。
グアダラハラあたりを過ぎたころから今日の宿探し。目的地フランスまでは高速から離れずに高速沿いのホテルに泊るつもり。ホテルの看板を辿ってそこまで行くが「今はやっていない。」というのが三軒。四軒目でようやくホテルにありつく。120キロ以上のスピードを出しきょう一日で750キロを走った計算になる。
未だ明るかったので村まで歩く。古い石造りのアーケードの広場があり趣のある村。ベンシャーンの絵にある様なコンクリート壁の運動場で少年たちがサッカーに興じていた。それを写真に撮ろうとすると同時に、その中でも年少の少年がけんかを始めた。写真を撮っているのを見て、年長組少年にからかわれて、恥かしそうに照れたのが可笑しかった。
01.トリウエクのマヨール広場
02.少年たちがサッカーに興じていた
宿は44ユーロというのを40ユーロに値切ったところ「42ユーロならいい」と言うことになった。
夕食はワイン一本。前菜、主菜、デザートまで付いて一人10ユーロ。安いけれどそれなりの内容。でも地元ワインは旨かった。旨かったけれど一本は呑みきれずに三分の一は残した。
2009/10/02(金)晴れ/ Triueque - Serra Pirenees – Pau
朝はトラック野郎たちで店は満杯だった。
部屋は取らずに前の駐車場のトラックの中で一夜を明かした様だ。カウンターに寄りかかって早々から強い酒を引っ掛けている運転手もいる。
朝食を頼むとカフェ・コン・レーチェと焼いてバターを塗ったクロワッサンを手際よく作ってくれた。それに手作りジャムも添えられていた。
カウンターの中ではおかみさんが一人で大忙し。常連客が僕たちの席まで朝食を運んでくれた。
昨日は予定より距離が稼げたので今日中にピレネーを越えることができそうだ。
サラゴーサは巧くすり抜け、やがて高速道も終り一般国道へ。対面交通になるが道は良い。前方にピレネーの山々が立ちはだかる。
03.前方にピレネーの山々が立ちはだかる
04.ピレネーの山はすぐそこまで
1972年、ポンコツVWマイクロバスでアンドラをまたいでピレネー越えをしたのを思い出す。ピレネーを越えたスペイン側の登り坂でトラックを追い越そうと、対向車線に入って加速したところ、前のトラックが更に前のトラックの追い越しにかかった。トラックは尻を振って僕のクルマのバックミラーを壊した。バックミラーだけで済んで良かったものの一歩間違えば僕たちは谷底だった。
きょうはトラックが少ない。このルートはあまりトラックは走らないのかもしれない。
立ちはだかるあの高い山を越えるのかと覚悟を決めていたが、七キロもある立派なトンネルが出来ていて難なくピレネーを越えることができた。
紅葉を期待していたが、そのあたりは針葉樹ばかりであまり紅葉はなかった。時々、蔦が紅く色づいている程度だった。
フランスへの国境を越えると風景は一変していた。緑が豊富なのだ。
スペインの荒涼とした茶褐色の世界に対して本当にフランスは緑豊かだ。
フランス側からピレネーを越えると確かに「そこはもうアフリカ」という言葉がうなずける。
それと同時にフランスに入れば道は狭くなる。
道のど真ん中で国境警察に停止を命じられる。パスポートの検査だ。
事務所に持って行って検査をしたのだろう。スタンプを押してくれたのかなと思ったが、新たなスタンプはなかった。
たまにしか走らないクルマを止めて、暇で暇でしょうがない。といった感じの警官たち。
「バカンスですか?ビジネスですか?バカンス。いいな~。楽しんで下さいね。」などと言ってくれる。その間、後ろからは一台のクルマも来ない。
山道なのであまり距離は稼げない。
ポウの町でホテルの看板を見つけたので聞いてみると「今はやっていない」とのこと。
もう少し走った町外れの国道沿いに広い駐車場のある平屋のホテルを見つける。立派なレストランも併設されていて、夕食はお勧め定食にした。街からも常連客が食事に来ていた。
ダイニングの大型モニターに厨房の様子が映し出されていたが、その夜のお客は僕たちを含めて三組五人だけで暇そうであった。
05.鴨の生ハムサラダ
06.子羊のステーキ
07.木の実のクレープ
08.オーヴェルニュ・フロマージと杏ジャム
2009/10/03(土)晴れ/Pau - Montauban - Albi
朝食を済ませひたすら田舎道をモントーバンへ。
モントーバンの街なかに入り、判らないまま徐行していたが、巧くアングル美術館の真後ろの駐車場にクルマを入れることができた。しかも土曜日なので駐車料金は無料。
早速ホテルを探すがなかなか見つからない。仕方がないので先にアングル美術館を観ることにする。
09.アングル美術館入り口
10.アングル美術館カタログ
ここモントーバンのアングル美術館にも、もともとアングルの代表作が数点はある。
企画はアングルの作品をヒントに或いはモティーフにしてピカソ、ピカビア、マチス、グリス、ラウル・デュフィ、マルセル・デュシャン、ダリ、キリコ、アンドレ・マッソン、ミロ、アンドレ・ロート、フランシス・ベーコン、デイヴィッド・ホックニー、ラウシェンバーグ、などの作家が作品を作っていてそれらがオリジナルのアングルと一緒に並べられている。贅沢な企画だ。
11.モントーバンの「オダリスク」と現代作家の作品
12.アングルの「泉」とその部屋
アングルの「泉」の部屋には色んな画家の「泉」が。
「泉」はこの企画の為にパリのオルセーからモントーバンまで運ばれてきていた。
その他にルーブルの「オダリスク」とは違うモントーバンの「オダリスク」がある。
勿論モントーバンでしか観る事が出来ないアングルは全て展示されていて満足であったが、何か、もう一つ、すっきりしない企画でもあった。
アングル自身がこの企画を見たらどう思うだろうか?などと思った。やはりアングルはアングルだけで観たほうが良いような気もする。
13.アングルの作品と奥のマルシャル・レイスの1964年の作品
午前中に入場した時は空いていた会場も出る時には入場券売り場から表の門まで長い行列が出来ていた。
14.アングル美術館切符売り場は長い行列
たまたまか?僕たちが観ていた時は空いていて良かった。
スペインを走りに走ったので予定より一日早い最終日前日に観ることができたわけだ。明日、日曜の最終日にはもっと長い行列が出来るのかも知れない。
ホテルを探したが手ごろなのが見つからないし、アングル美術館も観てしまったので、少し走って駐車場の心配のいらない昨夜の様な郊外のホテルで泊るのも悪くない。
ゆっくり走ったが、あいにく次の目的地アルビまでの途中にホテルは見当たらなかった。
アルビにはホテル・イビスがあるのでそこでも良いと思っていた。
ホテル・イビスの前の道路にちょうど一台分の駐車スペースがあった。
ホテル・イビスはあいにく満室だが、ホテル・エタップなら空いているとのこと。イビスとエタップは同列のホテルだが、イビスはちゃんとフロントがあって従業員も居るのに対して、エタップは自動販売機の無人ホテル。そして少し安い。
フランスにはあちこちにあり、以前から存在は知っていたが無人では不安だし、どのようにして泊るのか判らない。
でもここでは二軒が併設されているから、イビスの従業員が手続きを全てやってくれた。
初めて利用したがなかなか機能的で使いやすい。部屋はロフト風の作りになっていて、子供のいる家族連れなら特に便利だろう。路上駐車は土曜日なので明後日朝まで無料。
街では「EKIDEN」が行われていた。
ゆっくりカフェに座ってビール。アルビではやたらピッザレストランが目に付いたので、今夜はピッザ。
077. アングルとフォーヴィズム -モントーバン旅日記-(下) -Montauban-へつづく。
(この文は2009年11月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)
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