三宅貴夫医師(老年科)・「認知症の人と家族の会」顧問60代,男性
認知症の妻のさまざまな行動は認知機能障害で、おおよそ理解できることが少なくないのですが、介護する私を戸惑わせたことは頻繁に現れる怒りの感情でした。しかも、その感情のきっかけがはっきりしないことが多く、突然怒り出すのです。怒っていることに戸惑いながらその理由を問うても、認知症の妻が答えてくれるわけではありません。当初、傍にいてなだめすかしてみましたが、穏やかになるどころか怒りの感情が続き、強くなることもあったのです。こうした不思議で不愉快な感情の急変は、通い始めたデイサービスセンターでもあり、スタッフは「スイッチが入った」などと表現していました。
怒った認知症の妻を観察してみると、本人もなぜ怒っているのかわからなくなるようです。私が傍に座ったり部屋の見える範囲に居ると、あるいはテレビ画面が見えていると、その感情が消えることなくいつまでも続くようなのです。試しに、テレビを消してその場から離れ、私の姿が見えないようにすると、長くても30分以内に怒りの感情が収まることを知りました。
きっかけらしいことがなく生じる怒りの感情は、私や他人の姿、あるいはテレビの動画が刺激となって持続しているようなのです。誰も居ない、テレビもない部屋にいる状態に置かれると、妻の感情が鎮まるのです。こうした観察から、怒りの感情が現れると速やかにその場を離れることにして、うまく介護できるようになりました。
こうした感情を鎮静化するのに効果があるかもしれない、と向精神病薬(注1)を服用させたことがありますが、無効でした。それ以来、現在にいたるまで向精神病薬や睡眠導入薬など、向神経薬を一切使ってはいません。
次のページは・・ 幻覚・妄想
次のページへ
わが母は ラッキーなことに 怒ることは ほとんどありません
退屈すると どこかへ行こうとするだけなのですが・・・
それに・・お腹がすくことだけは 忘れませんから
認知度合いも 人によってさまざまなのだなぁって感心しています。
それより ↓
vol.10 成年後見制度
申立に要する費用は、申立料が800円、後見人を登記した場合の料金が2,600円、医師の鑑定が必要となればさらに10万円ほどが必要になります。さらに郵便切手代として2,980円が必要でした。この切手代は家裁が必要な聞き取りなどを郵便で行う場合に要する切手代のことです。例えば私の一人娘が後見についてどう考えているかの情報を得るために書類を家裁が郵送した場合に充てるそうです。その他、診断書や戸籍謄本を得るための費用も申立人の負担となります。(注2)
急を要する手続きではなかったので約1ヵ月かけて介護の合い間、証明書や資料を集め、書類を作成し、家裁に持参しました。後見センターの事務官は書類がそろっているか確認したのち、「申立」を受理したとして後日の詳しい聞き取りのため来所するように言われました。
申立の取り下げ
指定された日に再び家裁を訪れ、事務官から聞き取りと説明がありました。そのなかで後見人には裁判官は私ではなく弁護士を選任する可能性が高いと聞きました。申立を受理した後の裁判官の意見として事務官が伝えたもので最終的な決定ではないが、ほぼ間違いないだろうと説明がありました。(注3)
この話を聞いて迷いました。人生の最期を送っている私たち二人の生活に、まったく知らない弁護士という他人が突然に介入するということは受け入れ難かったのです。弁護士という後見人は、私たちの資産管理に止まらず、金銭にからむ私たちの生活まで覗くことになるのです。赤の他人の弁護士に生活が監視される恐れがあります。さらに資産価値の田舎の不動産―建物と土地―の処分のために選任された弁護士に家裁が認めた額の報酬―月額5,6万円―を後見が終了するまで支払うことになるのです。これもまたとうてい受け入れられません。
私は、その場で申立を取り下げたいと事務官に伝えました。受理されるとは限らないが、とりあえず「取り下げ書」を提出するよう言われたのです。数日後、事務官から「受理された」と電話で伝えられ、ほっとしました。
無駄で長い作業でしたが、「成年後見制度」の一端を見た思いです。
現状維持の不動産「空き家」
認知症の妻に後見人を立てないことにした結果、「空き家バンク」の登録はできなくなり、妻名義の不動産はどうすることもできなくなり、現状維持となったのです。
田舎とはいえ人が住まない「空き家」は庭の樹木は伸びるにまかせ、火災の危険も皆無ではありません。「空き家」状態は近隣に迷惑をかけるのです。更地にすることも考えましたが、これも不動産処分であり、私の一人の判断でできるかどうか確かめませんでした。それ以上に、更地にするための経費も高く、躊躇しました。また更地にすると固定資産税も高くなると言われています。
次のページは・・ 転居後