「再び競馬と相撲の話」は2004年7月14日に書いた一文である。
その頃19歳の力士は、いまその晩年を迎えようとしている。
二ヶ月程前、私は競馬と相撲に詳しいと書いた。覚えているだろうか。
競馬に関しては、キングカメハメハという馬に注目して欲しいと書いた。我々は近年稀なる名馬を目撃することになるだろうと書いた。…ほどなくキングカメハメハは第71回日本ダービーを、驚異的なレコードタイムで楽勝した。それまでのダービーレコードは1990年にアイネスフウジンがつくった2分25秒3で、キングカメハメハはこれを2分23秒3で駆け抜け、あっさりと2秒も短縮したのである。競馬の1秒は5~6馬身差に相当する。つまり彼はスピード馬アイネスフウジンを、10馬身以上の大差でぶっちぎったことになる。…レースはまさに横綱相撲だった。
後方から2着に突っ込んで来たのは、ハーツクライ(Heart's Cry)という名の馬で、善戦したと誉められながら名前の通り心では泣いていたのである。ハーツクライは凄まじい追い込み馬である。それまでの戦績とレースパターンを分析すると、上がり3ハロンのタイムが平均33秒台、34秒台という驚異的な馬である。しかし2着も多い。つまり騎手にとって追い出しのタイミングが最も難しいタイプの馬なのである。
秋に京都競馬場で行われる三冠レース最後の菊花賞(3000メートル)には、キングカメハメハは出走しないだろう。この馬の適性距離は1600から2000メートルであって、限界距離はダービーの2400メートルだと思われるからである。したがって彼の次なるG?レースは、ジャパンカップ(2400メートル)か秋の天皇賞(2000メートル)なのだろう。
ハーツクライは菊花賞で勝つかもしれない。33秒台の上がりタイムで勝てば、あのダンスインザダークを彷彿とさせるだろう。あるいはまた2着かもしれない。しかし最も心配なのは彼の脚である。彼が持つ、この一瞬の爆発的なスピードの才能に、彼の脚が耐えられるかが心配なのだ。かって菊花賞でダンスインザダークが一瞬のスピードを爆発させ、上がり34秒で他馬を抜き去り優勝した時、私は胸をかきむしられた。
これでこの馬の競走生命が断たれたと確信したのだ。彼は表彰式の記念撮影も無事に済ませた。しかし案の定、翌朝の新聞には「ダンスインザダーク故障発生!レース後判明」「競走馬として再起不能の重傷、このまま引退か」と出た。屈腱炎を発症したのだ。ダンスインザダークは二度と競馬場のターフを走ることはなかった。
さて相撲である。まだ19歳のモンゴル出身力士、白鵬の素質が凄い。宮城野親方はこのモンゴルから来た少年に、大横綱・大鵬の素質を見て、この四股名を付けたのだろう。今場所11日目までに3敗しているが、そのうちの二番は、勝ったと思い込んで土俵際で力を抜き逆転されたものである。まだ詰めが甘いのだ。
白鵬はまさに第二の大鵬の素質を持つ。相手力士がどんなに強く当たっても突いても、その力を全て吸収してしまうのである。だから後ろに下がらない。土俵際でも余裕を持って逆転する。全体の柔らかさ、足腰の柔らかさ、膝の余裕、強靱さ、大きくなりそうなバランスの取れた身体、相撲勘の良さ、巧さ、安定感…もの凄い素質である。
この柔らかな体質は怪我もしにくい。かって横綱・旭富士は「なまこ」と呼ばれるほど柔らかだった。双葉山を知る往年の相撲ファンたちは、旭富士の体質は双葉山にそっくりだと証言していた。しかし旭富士は技巧相撲に偏り、力強さを持たなかった。彼は双葉山になれなかったのである。しかも内臓を患い、短命の横綱に終わった。
まだ23歳の朝青龍は、このまま優勝回数を重ねて千代ノ富士の31回、大鵬の32回に肉薄するだろうと思っていたが、おそらく無理だろう。来年の秋頃に白鵬は大関に駆け上がり、再来年の春から夏には横綱になっているだろう。その時点で、白鵬は朝青龍を凌駕するようになっているに違いない。彼の素質こそ、まさに大横綱・大鵬の再来なのである。大鵬や双葉山の大記録をも塗り替える可能性を秘める者は、この底知れぬ19歳に違いない。
その頃19歳の力士は、いまその晩年を迎えようとしている。
二ヶ月程前、私は競馬と相撲に詳しいと書いた。覚えているだろうか。
競馬に関しては、キングカメハメハという馬に注目して欲しいと書いた。我々は近年稀なる名馬を目撃することになるだろうと書いた。…ほどなくキングカメハメハは第71回日本ダービーを、驚異的なレコードタイムで楽勝した。それまでのダービーレコードは1990年にアイネスフウジンがつくった2分25秒3で、キングカメハメハはこれを2分23秒3で駆け抜け、あっさりと2秒も短縮したのである。競馬の1秒は5~6馬身差に相当する。つまり彼はスピード馬アイネスフウジンを、10馬身以上の大差でぶっちぎったことになる。…レースはまさに横綱相撲だった。
後方から2着に突っ込んで来たのは、ハーツクライ(Heart's Cry)という名の馬で、善戦したと誉められながら名前の通り心では泣いていたのである。ハーツクライは凄まじい追い込み馬である。それまでの戦績とレースパターンを分析すると、上がり3ハロンのタイムが平均33秒台、34秒台という驚異的な馬である。しかし2着も多い。つまり騎手にとって追い出しのタイミングが最も難しいタイプの馬なのである。
秋に京都競馬場で行われる三冠レース最後の菊花賞(3000メートル)には、キングカメハメハは出走しないだろう。この馬の適性距離は1600から2000メートルであって、限界距離はダービーの2400メートルだと思われるからである。したがって彼の次なるG?レースは、ジャパンカップ(2400メートル)か秋の天皇賞(2000メートル)なのだろう。
ハーツクライは菊花賞で勝つかもしれない。33秒台の上がりタイムで勝てば、あのダンスインザダークを彷彿とさせるだろう。あるいはまた2着かもしれない。しかし最も心配なのは彼の脚である。彼が持つ、この一瞬の爆発的なスピードの才能に、彼の脚が耐えられるかが心配なのだ。かって菊花賞でダンスインザダークが一瞬のスピードを爆発させ、上がり34秒で他馬を抜き去り優勝した時、私は胸をかきむしられた。
これでこの馬の競走生命が断たれたと確信したのだ。彼は表彰式の記念撮影も無事に済ませた。しかし案の定、翌朝の新聞には「ダンスインザダーク故障発生!レース後判明」「競走馬として再起不能の重傷、このまま引退か」と出た。屈腱炎を発症したのだ。ダンスインザダークは二度と競馬場のターフを走ることはなかった。
さて相撲である。まだ19歳のモンゴル出身力士、白鵬の素質が凄い。宮城野親方はこのモンゴルから来た少年に、大横綱・大鵬の素質を見て、この四股名を付けたのだろう。今場所11日目までに3敗しているが、そのうちの二番は、勝ったと思い込んで土俵際で力を抜き逆転されたものである。まだ詰めが甘いのだ。
白鵬はまさに第二の大鵬の素質を持つ。相手力士がどんなに強く当たっても突いても、その力を全て吸収してしまうのである。だから後ろに下がらない。土俵際でも余裕を持って逆転する。全体の柔らかさ、足腰の柔らかさ、膝の余裕、強靱さ、大きくなりそうなバランスの取れた身体、相撲勘の良さ、巧さ、安定感…もの凄い素質である。
この柔らかな体質は怪我もしにくい。かって横綱・旭富士は「なまこ」と呼ばれるほど柔らかだった。双葉山を知る往年の相撲ファンたちは、旭富士の体質は双葉山にそっくりだと証言していた。しかし旭富士は技巧相撲に偏り、力強さを持たなかった。彼は双葉山になれなかったのである。しかも内臓を患い、短命の横綱に終わった。
まだ23歳の朝青龍は、このまま優勝回数を重ねて千代ノ富士の31回、大鵬の32回に肉薄するだろうと思っていたが、おそらく無理だろう。来年の秋頃に白鵬は大関に駆け上がり、再来年の春から夏には横綱になっているだろう。その時点で、白鵬は朝青龍を凌駕するようになっているに違いない。彼の素質こそ、まさに大横綱・大鵬の再来なのである。大鵬や双葉山の大記録をも塗り替える可能性を秘める者は、この底知れぬ19歳に違いない。