展覧会やコンサートなど、パッケージ化されたイベントが多い。パッケージ化されたものなら、ひとつひとつの手作りや演出などを考える必要もなく、また調整や稽古にほとんど時間をかけないですむ。「○○展」などという展覧会も、パッケージ化されて全国を回る。コンサートもほぼ同じ。
その点、落語家の師匠たちは偉い。噺はどこで演っても同じだが、その町にやって来て、会場までの町の様子を観察し、高座に上がって客席の様子や客の顔を見、話し始める。その「枕」は実にその日の、その町の、その客席の様子で異なり、しかも面白い。「枕」はパッケージ化されておらず、出たとこ勝負なのである。
イベントでもパッケージ化されたものをそのままやるのは、何となく味気ない。私はひねくれているので、パッケージ化されているものでも、つい弄りたくなる。
中山競馬場のイベント提案であった。場イベントであったか場外イベントであったか、その記憶は曖昧である。あまり予算もなかったように思う。イベントアイテムのひとつに、馬場内子どもの広場の特設ステージのために、キャラクターショーを仮押さえした。
「帰ってきたウルトラマン」である。ウルトラマンシリーズなら、そのままでも来場の子どもたちをステージ下に集めることはできるだろう。「帰ってきたウルトラマン」も人気があった。
しかしイベントはコンペである。競合他社と何かしらの違いを示したい。キャラクターショーでも何か差異を示したい。またお客様をニヤッとさせたい、喜ばせたい。私は仮押さえしたイベントアイテムのタイトルをずっと眺めていた。…そうだ、たった一文字で印象を変えることができるのだ。
私は仮押さえしたキャラクターショーを運営する会社に、お願いの電話を入れた。中山競馬場、そして当日限定で、タイトルを「帰ってきちゃったウルトラマン」と変えさせてもらえないかという相談である。
当然円谷プロはダメだと言うだろう。ダメもとでお願いに行きたい。企画趣旨は私が話すから、一緒に円谷プロに同行してもらえないかとお願いした。私たちは成城の円谷プロにお願いに行った。
円谷プロはOKしてくれた。「いいですか、今回だけですよ。今回だけ」と微笑みながら念を押された。「帰ってきちゃったウルトラマン」はイベント当日のその日限定。そのタイトルの露出する看板は中山競馬場内限定、チラシも地域と場内限定である。
そして私たちのイベント提案は決定をもらった。
当日来場した親子がイベントの案内看板の前で立ち止まった。子どもが指差した。「パパあれ! 『帰ってきちゃった』だって!」「ほんとだ」と父親が笑った。「これ見たい!」「うん、見よう」
みんな看板を指差して笑う。にこにこする。「見ようよ」「見たい」と言う。
馬場内子どもの広場の特設ステージ前の客席はすぐに一杯になり、立ち見が後ろまで広がった。私がそれまで競馬場でやったキャラクターショーでは、一番人が集まったのではなかろうか。みんな始まる前からニコニコしている。
出演者の方たちが驚きの声を上げた。「すごい、ずいぶん集まりましたね」
ショーが始まると、司会のお姉さんがいつもよりハイテンションになっていた。悪漢が二、三人登場し、「おい、まずいぞ。ウルトラマンが帰ったきちゃった。」…客席が笑いで沸いた。キャラクターショーの登場人物の声も、効果音も音楽も録音済みのものである。しかし司会のお姉さんと、二、三の登場人物はマイクを使う(あるいは上手もしくは下手の袖で使う)。この方たちが台本にないアドリブをどんどん繰り出して客席を沸かす。
「帰ってきたウルトラマン」を「帰ってきちゃったウルトラマン」と、たった一文字変えただけで、子どもたちが喜び、つられて親たちも笑う。客席が沸き、出演者が愉快がり、パッケージ化されたショーを超えたのだ。そしてそれらが大いに受けたのである。
イベント企画は、たった一文字の工夫で、変わるのである。