眠ったのかどうなのか覚えていなかった。ベッドに横たわり時間が経ったという気しかしていなかった。
ドンドン
部屋の戸が叩かれる音がしていた。起き上がる気も声を出す気もなかったので無視していたがそれでも戸を叩く音はなりやまなかった。
「早く出てきなさい。お客さんが来ているよ」
母の声がした。
『うるせぇな・・・』
「いる事は分かっているんだから早く出てきなさい!」
「うるさい!今、誰にも会いたくない!」
「せっかく、女の子が来てくれたっていうのに」
『女の子?村上 小春か。何でうちを知っているんだ?ああ。住所は美月さん知っているんだもんな。アンタの軽率な行動で全ておしまいだと責めに来たのか?わざわざ・・・』
だったら尚更出たくなかった。もうこのまま何もかも自分が知らないところで過ぎ去ってしまえと思っていた。鍵はかけていたが合鍵はあるので開けられてしまった。
「わ!真っ暗!まだ明るいのに、雨戸まで閉めちゃって!」
母親は電気をつける。それだけでまぶしく感じる。もう光があるような場所にはいたくなかったから雨戸を閉めたのだが今の母親の言葉は引っかかった。
「まだ明るい?」
時計を見るとまだ3時ごろであった。
『まぁ、ぶたれたって事で夜の美月さんが来るわけないしな・・・幻滅しているだろうし』
「ホラ!お客さんが来ているんだから顔ぐらい見せなさい!アンタ、こんなの一生に一度あるかないかかもしれないんだから!」
そのように促されて玄関まで向かう。泣いて目が真っ赤だったがそんな事気にしていなかった。玄関に来るとあり得ない人がそこに立っていた。右手には包帯が巻かれていた。
美月だった。勿論、日中の美月である。母親がいなくなると微妙な顔をやめ何やら不服そうにしてこちらを見ていた。
「さっき、酷い事言ってごめん。じゃ、謝ったから私、帰る」
「ハッ?」
「だからごめんって謝りに来ただけ。だから私、帰る」
「謝るって。俺の方が酷い事をしたけど」
「アレは私が酷い事言ったから手を出したんでしょ。別に怒ってないよ」
という割にこちらを睨み付けて来ているので本心は怒っているのだろうという事は分かったが何故謝りに来たのかなどは分からなかった。
「じゃ、これで何もかもチャラだからね。それじゃ」
「え?ちょ、ちょっと・・・」
「来なくていいから。一人で帰れるから」
そのまま彼女は玄関を出て行った。それからすぐに母親がやってきた。
「何、やってんの!コウちゃん!早く彼女を追いなさい!」
「いや、何の事だかサッパリ分からないし・・・」
「こういう時、考えるより先に行動するの!彼女だって一緒に帰るのを待っているはずだから!腕を怪我している中、うちに来てくれるなんて普通ないよ!」
「本当かな。俺は、彼女に嫌われて」
「嫌われてる?だったら、それを今から確かめに行きなさいって言っているの!行かないとこれからずっと小遣いなし!」
「でも、今、来なくていいって」
「全く女心が分かってないねぇ!いいから行きなさい!!全速力!!」
玄関を出た。何が起こっているのかサッパリ分からない中。自転車に跨る。
「コウちゃん、酷い事って彼女に何かしたのかしらね」
母親に言われるや日中の美月を追う事になった。気持ちの整理はついていないし、彼女が来た理由も分からなかった。
『何もかも一編に起きているから何のことだか・・・』
彼女は歩いていたのですぐに追いついた。
「ちょっと待って」
「来ないでいい。今、一人で帰りたいし」
また断られた。いつもならここで怖気づいているところだが追いついたのだから何を言われようとこれから小遣いなし回避できたが、それよりも彼女が謝りに来た理由が気になった。
「ちょっとだけ話をさせてよ」
「だからもういいでしょ。アンタと一緒にいるところを見られたらみんなに何を言われるか・・・」
「それだったら妹だって言っちゃえばいいじゃない。だから少しだけ話をさせてよ。俺、全然、何が何だか分からないんだからさ。このままじゃ気になって夜も眠れないよ」
「だったら死ぬまでずっと起きてなさいよ」
悪態はつくが少なくとも、拒絶されているわけじゃないから一緒に歩く事にした。
「改めてごめん。痛かったでしょ?」
「勿論、痛かった。今も痛い。事故でのこの傷よりも更に痛い。超痛い。死ぬほど痛い」
「ごめん」
謝るにしても蒸し返したのは失敗だった。
「私はね。ただ父さんや母さんがアンタに謝ってきなさいって言ったの。だから来ただけ。そうじゃなければ誰がアンタのうちなんか・・・死んだって行きたくない」
死んだら来られないよというツッコミは入れようと思えなかった。
「美月さんのご両親が?」
「アンタね。まず、私のこと、名前で呼ぶのやめて」
「ごめん。比留間さんのご両親?」
「そうよ。手を出すのは悪い事だけど手を出させるような事を言うのはもっと悪いって」
「そ、そうかな?やっぱり手を出す方が悪いと思うけど」
自分で考えてみて手を出すほどの事だったかと冷静に思った。
「私も、そう思う。何を言っても手を出した方が悪い。ほら。疑問は解けたでしょ。もう帰りなさいよ。いたってしょうがないでしょ?」
「でも、一昨日の怪我もあるし、今日の事で重傷になっちゃったし、夕暮れも近いしさ」
「ふん。そうね。その方が夜の私に会えるからアンタにとっては好都合よね」
相変わらず嫌味を言う。だが拒絶されなかっただけでも幸いだった。
「だから違・・・もういいや。そう思いたければ思ってくれていいよ。ただ、俺は君に着いていくよ。もう嫌ってくれてもいいや」
「あっそ。もう怒るのも疲れるし痛いから勝手にすれば・・・」
半ば呆れと諦めが混ぜあった感情で言う。ちょっと根競べで勝ったと思えた。
だが、話題を作らなければならないが、5秒間の沈黙の後、彼女が喋った。
「話すこともないのなら着いていくなんて言わなきゃいいのに。重苦しいしキモイ」
「あ、ごめん」
「私に興味が無いんだからあの子のことでも聞けばいいのに。何が好物なのかとかどういう事をすれば喜んでくれるのかとかね。17年も一緒にやって来ているんだから色んな事知っているのに」
「そ、そういうのは本人から直接、聞くよ。うん」
確かに言われて見て聞きたいところだがここで聞くわけにもいかなかった。
「アンタさ。何で、あの子の事好きなの?」
小春の時もそうだったがまだ両者付き合うという事も確定する前に好きかどうか言われると妙にドキッとしてしまう。それに、顔は美月という事もあって心拍数が上がっているのが実感した。
「そ、そうだな。俺みたいなオタクを分け隔てなく接してくれたからかな?」
「へぇ。私は完全に対象外ね。良かった。本当に良かった」
「いや、そういう訳ではぁ・・・」
浅く否定しようとしたが彼女は構わず続ける。
「そういう事なら、普通に接してくれたら女の子なら誰でも好きになっちゃうんだ」
「いや、そう簡単じゃないけど」
「じゃぁ、他に何か理由があるの?」
尋問されているようだ。小春と同じようなパターンだった。みんなこういう物の聞き方が好きなのだろうか。
「俺に対して優しいところとか・・・」
「あの子は別にアンタだけ特別に優しいわけじゃないよ。誰にでも優しいよ」
「・・・」
「別に私がチクる訳じゃないんだから言っちゃえばいいのに。顔が好みでもいいし、性格が合うでもいいしさ。それにチクられたっていいじゃない。別にあの子に嘘を言うつもりもないし、というか、あの子、嘘言っても簡単に信じてくれないしさ。アンタのいう事ってさ。いつも当たり障りのない事ばかり。すっごい他人行儀。全然、アンタ自身がまるで見えないのよね。色々と隠しているのがバレバレだから気持ち悪いんだよね」
「それは、確かに・・・言えてる」
美月がいうように質問に対して何事にも無難な答えばかり言っていたような気がした。それは、相手に対して嫌われないようにという配慮があったからであったが同時に自分自身を見えづらくしているともいえた。
「あ。でも、怒っても殴らないでね」
「そんな事しないって」
美月は自分の左頬を指差した。
「本当、傷だらけ。足は痛むし、左手も痛いし、ここも痛い。今度殴られたら私、死んじゃうかもね」
『そんな事あるか』思いつつ反射的にごめんと言い掛けてやめようと思う自分がいた。
「本当、アンタ、つくづくダメだよねぇ。話していても全然楽しくないもの。何かこっちがイライラするだけでさ。普通、聞かれてばかりじゃなくて逆に聞くよね。さっき自分が夜の美月の事どこが好きなのか聞いたから、アッキーの所、どこが好きなのかとかってさ。話として自然な流れじゃない?」
「え?まぁ。うん。うん。」
何故、そこを気にしなければならないのかと思ったが話の腰を折るのも何だから頷いておいた。
「それを聞いて自分に出来そうなところがあればそれに対して努力出来るじゃない」
「成る程。それは言えてる」
言われてみて納得できた。関係無さそうな事でも吸収できる事はあるのだと感心した。
「何、完全にお勉強モード入ってんの。少しは自分のやっている事を恥じたらどうなの?」
「恥じる前に、本当、ためになるなって思ってさ」
「はぁ・・・ホント、疲れるなぁ・・・で、私に何か聞きたいことはないの?」
「じゃぁ、敢えて、一番聞きたい事を」
「何?」
「アイツのどこが好きなの?」
敢えて、例えに出された事を聞くことにした。一つの賭けであったが、聞いてみたかった。と言うより、他に聞きたい事を咄嗟に思いつかなかった。目を瞑り、完全に呆れ顔になってからため息を一つ吐く。
「そうね。アンタと違って私の事を想ってくれるし、アンタと違って話していて楽しいし、アンタと違ってスポーツマンだし、アンタと違って頭は悪くないし、アンタと違って元気だし、アンタと違ってオタクじゃないし、アンタと違って楽しいしそれからね・・・」
「『楽しい』?それってさっき」
「!?アンタと違ってそうやって人のミスを指摘して喜ばないし!」
慌てて追加する。ちょっと顔が赤くなっていた。それにしても、良く自分と比較するような内容を思いつくものだなと思う。
「それに何より、私に好きだって言ってくれるからね」
「!?」
当たり前の事であるが実際に言われているのだと思うと衝撃だった。
「アンタはどうせ、好きなあの子にだって言えないでしょ。言える訳ないよね。アンタだもん。ふふふっ」
図星過ぎた。軽く嘲笑された。
「全く、バカだよね。アンタってさ。女って直接的な言葉を待っているのにさぁ」
「へぇ。そうなの?」
「あたりま・・・いやいや、待ってない待ってない!あの子に限っては待ってない!普通の女なら嬉しいけど、あの子はそういうの大嫌いだから!気安くそういう言葉を口にするような軽薄な奴は大っ嫌い」
一瞬見せた失敗したという表情。その直後、話が早くなった。
「なぁ~んだ。そうなんだ。ためになるな~」
ちょっと空々しく言ってみた。
「そうよ。そう。私が言うんだから間違いない」
「ためになるな~」
「何、その嘘っぽい言い方。私のいう事を信じてないんでしょ?」
「信じているよ。一番、夜の比留間さんの事を知っている君が言うんだからさ」
「言い方が何かむかつく。ニヤついているし。何にも出来ないオタクのアンタの癖に。ちょっとした事でチクチクいやらしく突いてくるのが本当に嫌。粘着質」
罵倒されているのが慣れているから気にならなかった。それよりも必死に否定する美月が面白いと思った。普段と違う一面を見た気がした。
「本当、疲れた。アンタと一緒にいると疲れるわ。体中痛いのに」
「俺が代わってやれればいいんだけど」
「そうよ。この痛み全部肩代わりしなさいよ!全部アンタのせいなのに」
腕の怪我は違うんじゃないかと言いたかったがまたミスを指摘するなといわれるので黙った。
「それじゃ、もうここで良い。ここまで来れば少しで家だから」
後1分も経たないで彼女のうちである。
「分かったよ」
一応、夜、美月に会いに行く必要があるのだが、一旦、家に帰ったほうがいいだろう。
「バイバイ」
「あ、バイバイ」
彼女が手を振るのに対して光輝も手を振った。夜の美月とも手を振ったものだと思い返していた。
「あ!今のなし!今のなーーーーーし!今のなしだからね!本当に今のはなし!ちょっとしたミス!ただの事故!」
彼女はハッとしてそのように否定して家に向かって走っていった。足の方は大丈夫のようだと思ったがその直後
「え?あ?まさか、今の・・・デレ・・・来た?」
最後に余計なを考えた。
「非処女だけど・・・」
ここからまた別の何かの始まりなのかもしれない。
NEXT→→→→→→→→→??????????
ドンドン
部屋の戸が叩かれる音がしていた。起き上がる気も声を出す気もなかったので無視していたがそれでも戸を叩く音はなりやまなかった。
「早く出てきなさい。お客さんが来ているよ」
母の声がした。
『うるせぇな・・・』
「いる事は分かっているんだから早く出てきなさい!」
「うるさい!今、誰にも会いたくない!」
「せっかく、女の子が来てくれたっていうのに」
『女の子?村上 小春か。何でうちを知っているんだ?ああ。住所は美月さん知っているんだもんな。アンタの軽率な行動で全ておしまいだと責めに来たのか?わざわざ・・・』
だったら尚更出たくなかった。もうこのまま何もかも自分が知らないところで過ぎ去ってしまえと思っていた。鍵はかけていたが合鍵はあるので開けられてしまった。
「わ!真っ暗!まだ明るいのに、雨戸まで閉めちゃって!」
母親は電気をつける。それだけでまぶしく感じる。もう光があるような場所にはいたくなかったから雨戸を閉めたのだが今の母親の言葉は引っかかった。
「まだ明るい?」
時計を見るとまだ3時ごろであった。
『まぁ、ぶたれたって事で夜の美月さんが来るわけないしな・・・幻滅しているだろうし』
「ホラ!お客さんが来ているんだから顔ぐらい見せなさい!アンタ、こんなの一生に一度あるかないかかもしれないんだから!」
そのように促されて玄関まで向かう。泣いて目が真っ赤だったがそんな事気にしていなかった。玄関に来るとあり得ない人がそこに立っていた。右手には包帯が巻かれていた。
美月だった。勿論、日中の美月である。母親がいなくなると微妙な顔をやめ何やら不服そうにしてこちらを見ていた。
「さっき、酷い事言ってごめん。じゃ、謝ったから私、帰る」
「ハッ?」
「だからごめんって謝りに来ただけ。だから私、帰る」
「謝るって。俺の方が酷い事をしたけど」
「アレは私が酷い事言ったから手を出したんでしょ。別に怒ってないよ」
という割にこちらを睨み付けて来ているので本心は怒っているのだろうという事は分かったが何故謝りに来たのかなどは分からなかった。
「じゃ、これで何もかもチャラだからね。それじゃ」
「え?ちょ、ちょっと・・・」
「来なくていいから。一人で帰れるから」
そのまま彼女は玄関を出て行った。それからすぐに母親がやってきた。
「何、やってんの!コウちゃん!早く彼女を追いなさい!」
「いや、何の事だかサッパリ分からないし・・・」
「こういう時、考えるより先に行動するの!彼女だって一緒に帰るのを待っているはずだから!腕を怪我している中、うちに来てくれるなんて普通ないよ!」
「本当かな。俺は、彼女に嫌われて」
「嫌われてる?だったら、それを今から確かめに行きなさいって言っているの!行かないとこれからずっと小遣いなし!」
「でも、今、来なくていいって」
「全く女心が分かってないねぇ!いいから行きなさい!!全速力!!」
玄関を出た。何が起こっているのかサッパリ分からない中。自転車に跨る。
「コウちゃん、酷い事って彼女に何かしたのかしらね」
母親に言われるや日中の美月を追う事になった。気持ちの整理はついていないし、彼女が来た理由も分からなかった。
『何もかも一編に起きているから何のことだか・・・』
彼女は歩いていたのですぐに追いついた。
「ちょっと待って」
「来ないでいい。今、一人で帰りたいし」
また断られた。いつもならここで怖気づいているところだが追いついたのだから何を言われようとこれから小遣いなし回避できたが、それよりも彼女が謝りに来た理由が気になった。
「ちょっとだけ話をさせてよ」
「だからもういいでしょ。アンタと一緒にいるところを見られたらみんなに何を言われるか・・・」
「それだったら妹だって言っちゃえばいいじゃない。だから少しだけ話をさせてよ。俺、全然、何が何だか分からないんだからさ。このままじゃ気になって夜も眠れないよ」
「だったら死ぬまでずっと起きてなさいよ」
悪態はつくが少なくとも、拒絶されているわけじゃないから一緒に歩く事にした。
「改めてごめん。痛かったでしょ?」
「勿論、痛かった。今も痛い。事故でのこの傷よりも更に痛い。超痛い。死ぬほど痛い」
「ごめん」
謝るにしても蒸し返したのは失敗だった。
「私はね。ただ父さんや母さんがアンタに謝ってきなさいって言ったの。だから来ただけ。そうじゃなければ誰がアンタのうちなんか・・・死んだって行きたくない」
死んだら来られないよというツッコミは入れようと思えなかった。
「美月さんのご両親が?」
「アンタね。まず、私のこと、名前で呼ぶのやめて」
「ごめん。比留間さんのご両親?」
「そうよ。手を出すのは悪い事だけど手を出させるような事を言うのはもっと悪いって」
「そ、そうかな?やっぱり手を出す方が悪いと思うけど」
自分で考えてみて手を出すほどの事だったかと冷静に思った。
「私も、そう思う。何を言っても手を出した方が悪い。ほら。疑問は解けたでしょ。もう帰りなさいよ。いたってしょうがないでしょ?」
「でも、一昨日の怪我もあるし、今日の事で重傷になっちゃったし、夕暮れも近いしさ」
「ふん。そうね。その方が夜の私に会えるからアンタにとっては好都合よね」
相変わらず嫌味を言う。だが拒絶されなかっただけでも幸いだった。
「だから違・・・もういいや。そう思いたければ思ってくれていいよ。ただ、俺は君に着いていくよ。もう嫌ってくれてもいいや」
「あっそ。もう怒るのも疲れるし痛いから勝手にすれば・・・」
半ば呆れと諦めが混ぜあった感情で言う。ちょっと根競べで勝ったと思えた。
だが、話題を作らなければならないが、5秒間の沈黙の後、彼女が喋った。
「話すこともないのなら着いていくなんて言わなきゃいいのに。重苦しいしキモイ」
「あ、ごめん」
「私に興味が無いんだからあの子のことでも聞けばいいのに。何が好物なのかとかどういう事をすれば喜んでくれるのかとかね。17年も一緒にやって来ているんだから色んな事知っているのに」
「そ、そういうのは本人から直接、聞くよ。うん」
確かに言われて見て聞きたいところだがここで聞くわけにもいかなかった。
「アンタさ。何で、あの子の事好きなの?」
小春の時もそうだったがまだ両者付き合うという事も確定する前に好きかどうか言われると妙にドキッとしてしまう。それに、顔は美月という事もあって心拍数が上がっているのが実感した。
「そ、そうだな。俺みたいなオタクを分け隔てなく接してくれたからかな?」
「へぇ。私は完全に対象外ね。良かった。本当に良かった」
「いや、そういう訳ではぁ・・・」
浅く否定しようとしたが彼女は構わず続ける。
「そういう事なら、普通に接してくれたら女の子なら誰でも好きになっちゃうんだ」
「いや、そう簡単じゃないけど」
「じゃぁ、他に何か理由があるの?」
尋問されているようだ。小春と同じようなパターンだった。みんなこういう物の聞き方が好きなのだろうか。
「俺に対して優しいところとか・・・」
「あの子は別にアンタだけ特別に優しいわけじゃないよ。誰にでも優しいよ」
「・・・」
「別に私がチクる訳じゃないんだから言っちゃえばいいのに。顔が好みでもいいし、性格が合うでもいいしさ。それにチクられたっていいじゃない。別にあの子に嘘を言うつもりもないし、というか、あの子、嘘言っても簡単に信じてくれないしさ。アンタのいう事ってさ。いつも当たり障りのない事ばかり。すっごい他人行儀。全然、アンタ自身がまるで見えないのよね。色々と隠しているのがバレバレだから気持ち悪いんだよね」
「それは、確かに・・・言えてる」
美月がいうように質問に対して何事にも無難な答えばかり言っていたような気がした。それは、相手に対して嫌われないようにという配慮があったからであったが同時に自分自身を見えづらくしているともいえた。
「あ。でも、怒っても殴らないでね」
「そんな事しないって」
美月は自分の左頬を指差した。
「本当、傷だらけ。足は痛むし、左手も痛いし、ここも痛い。今度殴られたら私、死んじゃうかもね」
『そんな事あるか』思いつつ反射的にごめんと言い掛けてやめようと思う自分がいた。
「本当、アンタ、つくづくダメだよねぇ。話していても全然楽しくないもの。何かこっちがイライラするだけでさ。普通、聞かれてばかりじゃなくて逆に聞くよね。さっき自分が夜の美月の事どこが好きなのか聞いたから、アッキーの所、どこが好きなのかとかってさ。話として自然な流れじゃない?」
「え?まぁ。うん。うん。」
何故、そこを気にしなければならないのかと思ったが話の腰を折るのも何だから頷いておいた。
「それを聞いて自分に出来そうなところがあればそれに対して努力出来るじゃない」
「成る程。それは言えてる」
言われてみて納得できた。関係無さそうな事でも吸収できる事はあるのだと感心した。
「何、完全にお勉強モード入ってんの。少しは自分のやっている事を恥じたらどうなの?」
「恥じる前に、本当、ためになるなって思ってさ」
「はぁ・・・ホント、疲れるなぁ・・・で、私に何か聞きたいことはないの?」
「じゃぁ、敢えて、一番聞きたい事を」
「何?」
「アイツのどこが好きなの?」
敢えて、例えに出された事を聞くことにした。一つの賭けであったが、聞いてみたかった。と言うより、他に聞きたい事を咄嗟に思いつかなかった。目を瞑り、完全に呆れ顔になってからため息を一つ吐く。
「そうね。アンタと違って私の事を想ってくれるし、アンタと違って話していて楽しいし、アンタと違ってスポーツマンだし、アンタと違って頭は悪くないし、アンタと違って元気だし、アンタと違ってオタクじゃないし、アンタと違って楽しいしそれからね・・・」
「『楽しい』?それってさっき」
「!?アンタと違ってそうやって人のミスを指摘して喜ばないし!」
慌てて追加する。ちょっと顔が赤くなっていた。それにしても、良く自分と比較するような内容を思いつくものだなと思う。
「それに何より、私に好きだって言ってくれるからね」
「!?」
当たり前の事であるが実際に言われているのだと思うと衝撃だった。
「アンタはどうせ、好きなあの子にだって言えないでしょ。言える訳ないよね。アンタだもん。ふふふっ」
図星過ぎた。軽く嘲笑された。
「全く、バカだよね。アンタってさ。女って直接的な言葉を待っているのにさぁ」
「へぇ。そうなの?」
「あたりま・・・いやいや、待ってない待ってない!あの子に限っては待ってない!普通の女なら嬉しいけど、あの子はそういうの大嫌いだから!気安くそういう言葉を口にするような軽薄な奴は大っ嫌い」
一瞬見せた失敗したという表情。その直後、話が早くなった。
「なぁ~んだ。そうなんだ。ためになるな~」
ちょっと空々しく言ってみた。
「そうよ。そう。私が言うんだから間違いない」
「ためになるな~」
「何、その嘘っぽい言い方。私のいう事を信じてないんでしょ?」
「信じているよ。一番、夜の比留間さんの事を知っている君が言うんだからさ」
「言い方が何かむかつく。ニヤついているし。何にも出来ないオタクのアンタの癖に。ちょっとした事でチクチクいやらしく突いてくるのが本当に嫌。粘着質」
罵倒されているのが慣れているから気にならなかった。それよりも必死に否定する美月が面白いと思った。普段と違う一面を見た気がした。
「本当、疲れた。アンタと一緒にいると疲れるわ。体中痛いのに」
「俺が代わってやれればいいんだけど」
「そうよ。この痛み全部肩代わりしなさいよ!全部アンタのせいなのに」
腕の怪我は違うんじゃないかと言いたかったがまたミスを指摘するなといわれるので黙った。
「それじゃ、もうここで良い。ここまで来れば少しで家だから」
後1分も経たないで彼女のうちである。
「分かったよ」
一応、夜、美月に会いに行く必要があるのだが、一旦、家に帰ったほうがいいだろう。
「バイバイ」
「あ、バイバイ」
彼女が手を振るのに対して光輝も手を振った。夜の美月とも手を振ったものだと思い返していた。
「あ!今のなし!今のなーーーーーし!今のなしだからね!本当に今のはなし!ちょっとしたミス!ただの事故!」
彼女はハッとしてそのように否定して家に向かって走っていった。足の方は大丈夫のようだと思ったがその直後
「え?あ?まさか、今の・・・デレ・・・来た?」
最後に余計なを考えた。
「非処女だけど・・・」
ここからまた別の何かの始まりなのかもしれない。
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