美月も終わったようで教室から出て行った。最終的に、課題にも関わらず眠ってしまっていたDQN野郎と彼の二人が残された。先生は起きて、ノートパソコンで何か打っていた。
ようやく終わって先生に、課題を提出した。
「お前も寝てたのか?」
「そういうわけではなかったんですけど、少しボーッとしていて・・・すみません」
「しっかりしろよ。アイツみたいな明るいだけが取り得なタイプはアホでも人付き合いを最大限に活かせばやっていけるだろうが」
そのDQNはビクッと反応して話に入ってきた。
「アホはないっすよ~。生徒をバカにすると俺、グレちゃいますよ先生~。俺、見た目よりずっとか弱いんですから」
「うるさい。お前は黙って課題をやれ居眠り地獄耳。授業は俺の話を何も聞いてないくせに何でこうやってお前の話をしている時は耳ざとく聞いているんだよ」
「そりゃ、俺の名が世間に知れ渡っているとなればそれが間違いじゃないか確認する為に」
先生はDQN野郎のいう事は無視していた。
「お前みたいな人見知りが激しくて自分から人間関係を築こうとしないタイプは真面目に物をこなしていかんと完全に取り残される。そして自分の殻に閉じこもって社会から外れて引きこもるしかなく、そのまま人生終了だぞ」
「はい」
最後にまた軽く説教を食らって終わった。そんな説教の事よりも日中の美月が言っていた彼氏の存在であった。
『本当なのだろうか?俺に対して当てつけたかっただけなのかもしれないけど、考えてみれば彼女みたいな明るい人に彼氏がいない事の方がおかしいんだよな。何人か秘密を知っている男がいるって言っていたし。でも、どうして今まで彼氏を作らなかったんだろうか。やっぱり美月ちゃんの事で悩んでいるからか。しかし、これが本当なら俺は人生終了だなぁ・・・どうするかなぁ・・・』
漠然と考えていたら辺りも暗くなってきた。すると美月の自宅から電話がかかってきた。
「倉石君?まだ美月、学校から帰ってきてないのよね。悪いんだけど学校に行って見に行ってくれない?あなたも学校にいるんでしょ?今はもうヨミちゃんになってしまって困っているかもしれないから」
美月の母親も補習の件は知っているらしかった。更にテンションが下がった。
「わ、分かりました。探してきます」
光輝は、学校に戻って駐輪場に自転車を置いて美月を探す事にした。
「本当に学校にいるのかな?俺より早くに課題を終わらせていたけどさ。一応、探してみて少ししたらまた家の方に連絡をしよう。携帯の番号知らないんだよな。朝の比留間の方は・・・。絶対教えてくれないだろうし、仮に番号知っても着拒されるだろうけど」
しかし、探している主はすぐに見つかった。体育館の方から走ってくるところを見つけた。
「お、美月さんだ」
すぐに大きな声を出せばいいのだが光輝は駆け寄る事にした。大きな声を出すのが苦手なのだ。すぐに追いついて声をかけた。
「美月さん。どうしたの?お母さんが心配しているからって探しに来てくれって」
「あ。倉石さん。え?あ・・・その・・・」
美月は俯き加減でこちらを見ようとしてくれなかった。顔は真っ赤に高潮していた。先ほど走っていたからだろうか。
「どうしたの?」
「ごめんなさい!今は、ごめんなさーい!」
そのように言うと美月は正門の方に走っていった。
「何故、逃げるんだ?今はって、どういう意味?」
美月の不可解な行動と言動に困惑しながらもこのまま放置しておくわけにもいかないと追いかける事にした。すると、タイミングが悪く彼女はバスに乗り込んでいた。走って追いかけるわけにもいかず、自転車を取りに行き彼女のうちへ向かうと家の直前で電話が鳴った。
「倉石さん。美月が帰って来たわ」
「そうですか?良かった。僕も校門近くで会ったんですが走って行っちゃって・・・」
「それでね。美月、今日はちょっと疲れたって言っていたんだけどどうするの?」
「そうですか。分かりました。あまり無理をさせるわけにはいかないと思いますから今日は控えます。美月さんはゆっくり休んでくださいと伝えてください」
「分かった。そうするね。ごめんね。倉石さん」
嫌われた訳ではないだろうだからあまり接近してはいけないだろうと思った。少しすれば事情も話してくれるだろう。何があったのか気になった。
12月16日(木曜日)
この日も補習があって学校に行く。すると、一人の男子が近付いてきた。半そでに短パン。運動部員のようだ。結構、汗をかいていて肩にタオルをかけていた。顔をうっすら覚えている程度で名前は知らなかった。
「お前が倉石だよな?」
「そうだけど、君は?」
「俺?俺は、大和田 明人(あきひと)。ちょっと話がある。補習の後、体育館に来い」
「え?」
光輝が困惑した。昔の漫画などであった呼び出しという奴だろうか?この人に何かした訳でもないのに何故そんな事になるのかと理解できなかった。それとも、自分に告白とか?考えただけで恐ろしくなったので頭の中で否定した。
「あ。別に、呼び出してボコろうとかじゃねぇよ。普通に話がしたいだけだ。他に誰もいねぇ。俺一人だけだし。俺は練習があるから、お前は補習頑張れよ」
彼に何かしたかは身に覚えは無かったが、あるとすれば
『アイツがまさか、処女強奪犯?』
日中の美月の彼氏なのかという事よりも先に思考が働く。光輝にとっては強奪犯なのだろう。だがそれは、自分のものであるという前提のものだ。知らず知らずのうちにそのような勝手な思考を持ってしまっている光輝であった。
その直後、美月が教室に補習を受ける為、入ってきた。こちらには視線を合わせようともしなかった。それから補習を終えて、言われたとおり体育館に行く。
『ヨミちゃんの方も頂きますという宣言をするつもりか?』
もはや、彼の思考は止められなかった。一方的に思い込むだけだった。
体育館に入った。すると、汗まみれでバタバタとかけながらバドミントンをやっている彼の姿があった。数人の部員と共にバドミントンをやっていた。邪魔してはいけないと思って端で見ていることにした。
「すごいな・・・」
右、左とせわしく駆け回り、ラケットをブンと空を切る音をさせながら振り回す。休む間もなく、動き回る。バドミントンなんて、幼い時、公園で遊びとしてやる程度で今、見ているような競技ではなかった。10分ぐらいすると休憩の合図が出た。
「はぁ・・・はぁ・・・お。お前、来てたのか。全然気付かなかった。待ったか?」
「そんなには」
「先に外の階段に行っててくれ。すぐ行く」
そのように言って、更衣室の方に行ってしまったので言われたとおり体育館前の階段に出た。ビュゥっと外の冷たい風が通る。
「さっぶぅ・・・」
それからすぐに、彼のほうもやってきた。タオルで汗を拭いた。
「うう~。いい風だ」
そう言って、すぐに上着を着込み、水筒に口をつけてゴクゴクと飲んでいた。
「それで話って?」
「・・・ぅぷ。比留間の方から話は聞いた。お前が夜の方の比留間と付き合っているって事をな」
「夜の!?何故、それを・・・」
「そりゃ、知っているさ。俺だって昼の比留間と付き合う事にしたんだからな」
やはり、昨日本人が言っていた事は本当だったようだ。そして、こいつは美月の秘密を知っていると。
「一昨日から付き合う事になったんだ。それで、昨日、日が沈むと別人だって事を知ったんだ。今朝、その事を話したら色々と教えてくれたよ。ずっと身内以外の人には言えず隠すのが大変だったってな。それと、お前が夜の比留間と付き合っていて何とか別れさせたいってな」
「言うほど、付き合っているわけじゃないけど・・・」
「でも、比留間のうちに行っているんだろ?一昨日は遊園地にデートに行ったって話しだしな。それはもう付き合っているのと言えるだろ」
どこまで知っているのか分からないがテンポよく、大和田は話を続ける。
「ずっとこのままって訳にはいかないだろ?美月の心は二つでも体は一つなんだから。今は姉妹だって事にしているけどそれだっていつバレるか分からねぇ。それで思ったんだよ。俺も夜の比留間と会って良いか?」
「な!?」
「そんなに驚く事はねぇだろ。別にお前とはもう会わないって言っている訳じゃねぇよ。俺も会っても良いかって話。お前だって以前と同じように会えばいいだけだよ。だってよ。よく考えてみろ。比留間はお前の私物じゃねぇんだから、本人が拒否らなきゃ俺だって会う権利はあるだろ。最終的には両方の比留間がどちらかを選ぶ事になるんだからな。今、俺がお前に言おうと思ったのは何も言わず勝手に会うっていうのは後ろめたい事をしているみたいで嫌だしよ、後々面倒くさい事になるだろうし前以て言っておこうと思ってな」
「・・・」
「何か不都合でもあるか?」
「・・・」
反論できる余地はない。
「黙っていたら分かんねぇだろ。何か不都合でもあるのかって聞いているんだよ」
「・・・。ないよ・・・」
苦虫を噛み潰すかのように声を押し殺して言った。
「うん。それで色々と考えたんだよ、お互いフェアじゃなければならないって事でな。で、よ。交互に比留間に会うことにしようじゃないか?今日は俺が夜の比留間に会って、明日はお前が会う。それで逆に昼間の美月は今日、お前と会って明日は俺と会う。その繰り返し。勿論、本人の意思や都合は尊重しなけりゃならないけどな。嫌がっているのに、無理に会うって訳にもいかねぇからな」
「うん」
もはや言われるままだった。というより独占など出来る訳がなかった。
「じゃ、決まりな。いや昨日はビビッた。比留間が急に眠いって言って倒れるんだもんよ。で、少しして目が覚めたら別人なんだもんな。夜の比留間の方の反応が新鮮だったな。ものすげぇテンパッてた。いつもとは違ったからそのギャップが凄かった」
『昨日、慌てていたのはそのためか。ってまさか!?』
「夜の比留間さんの方には何か」
最悪の事態を軽く想定した。ただ想定したとしてももし事実だとしたらショック死するかもしれないと思えた。
「何かって・・・ちょっと抱きとめてあげてやっただけだよ。『あんまり驚かないでね』つって眠っちまったからさ。それで夜の美月が飛び起きて逃げるようにしていったよ」
キスでもしていたらどうしようかと思っていたが、抱きしめていたらしい。昨日の夜の美月の慌てぶりはそこから来たのかもしれない。ホッとした。心底、ホッとした。
「そんじゃな。俺は、これから練習の続きだ。今なら、昼間の比留間と会うのは・・・駄洒落じゃねぇぞ。で、今の比留間は自由だから、好きにやってくれ。と言うか、お前は補習で一緒だろうがな」
そう言って彼は体育館に戻っていった。彼のこの余裕は不愉快だった。日中の美月が自分を心底、嫌いだというのを知らされているからだろう。こうなると逆転させてみたくもなるが、そんな事など思いつくはずも無かった。
しょんぼりして帰る。日中の美月は既に帰ってしまったようでいなかった。
「終わったな~。ほぼ、終わったぁ~」
家に帰って風呂に入っている時、アイツと夜の美月が仲良くなっているのではないかというイメージが浮かんだ。何もしていないと嫌な事を思い出しそうだから、絵でも描いて気を紛らわせる事にした。しかし、集中など出来ず、眠る事にした。
『あの夢、相手の顔は出てこなかったが今度はアイツの顔で出てくるとか?勘弁してくれ』
夜間の美月が引き込まれる夢。その相手の顔が出てくるなど考えたくなどなかった。
12月17日(金曜日)
幸い、夢は見なかった。ただ、それほど眠った実感がなかった。気だるい疲労感が残る中、朝食を取って学校に向かう。
補習3日目。一応、彼の補習は今日で終了だった。クラス内の美月が不自然なぐらいニヤニヤして近付いてくる。昨日の話の事を朝の美月も知っているのだろう。こういう時は決まって嫌味を言いに来ると予想出来た。
「あの子も仲良くしているらしいよ。あの子もアンタと話すのより楽しいってさ」
それだけ言うとこちらの反応をチラッと見ただけで自分の席に見せ付けるかのように戻って行った。
『やっぱり言いに来たか。しかし、事実ではなぁ・・・』
嘘かもしれないと思った。それから補習の最中にずっと考えていた。
『今度こそ、このまま俺はフェードアウトしていった方がいいのかもしれないな』
そのような結論を出していた。彼と自分を比較すれば分かる事だ。彼はスポーツマン、性格も明るく人受けも悪くない。頭は決していいとは言えないが自分よりは上だろう。一方の自分は運動音痴で根暗で人から敬遠されている。頭も悪い。そして、オタクである。元々、ダメ人間である事は自覚していたがそれは自分の立ち位置というものであり、世間の隅っこにいればいいという認識であるがすぐ近くに比較対象があると更に痛感させられるものだ。そのような自分と美月が一緒にい続ければ美月自身も趣味が悪いとか悪評を立てられに違いない。今までは夜の美月と仲がよければ言わせておけばいいと思ったがライバルが現れると自分とどうかと考えざるを得ない。本当に美月の事を想っているのであればここは潔く身を引くのもまた選択肢の一つだろうと思った。
悲しい事だが自分がアイツと張り合えるぐらいに努力すればいいという発想は微塵も生まれなかった。
夕方になって一応電話を入れようかとも考えた。
「また同じ事を繰り返そうとしているんだな。俺は」
日中の美月に言われて会うのをやめようと考え、夜の美月の行動で思い直した時の事を。今回は、前回と違って頑なに会わないという方法ではなく、自然と夜の美月から去っていくという形を取ればいい。そうすればお互いの関係が拗れる(こじれる)事無く自分よりも大和田に流れていく事だろう。それで、美月のいとこに嫌われたと知れば岸達も『お帰り。お前はがんばった』と言って慰めてくれるだろう。それで全てが元通りになると確信していた。電話を入れると、夜の美月は快く応じてくれたように思えた。
「こんばんは。お邪魔します」
「いらっしゃい」
美月の母親が微笑んで答えた。昨日はアイツにもその微笑を与えたのだろうなと想像してしまう。歪んだ独占欲というところだろう。
「こんばんは」
「こんばんは」
返事は前と変わらない。が、それからの会話が止まった。たった1日だけ間に別の男と会っていただけだというのに、奇妙なぐらいお互いソワソワしていた。
「一昨日は本当にごめんなさい!あの日は気がついたらすぐ近くに大和田さんが目の前にいたものですからどうしたらいいのか分からなくなってしまいまして・・・」
「別に気にしなくていいよ。俺も美月さんの立場なら1日中動揺していたかもしれないし何だか、アミさんが彼に秘密を教えたかったらしくて」
「はい。それで受け入れてくれて安心したって言っていました。とてもいい人だからアンタもちゃんと会って話してみろって。そうしたら必ず気に入るって」
そのように強調しているのは自分の事を指しているのだろうと思った。
「大和田って人はどんな人だった?俺、全然知らないからさ」
本当は何があったのか何を話したのかが気になったが、それはプライバシーに関わると思ってやめた。それに言いたければ美月のほうが口を開くだろうと思ったからだ。
「とても一生懸命な人だと思いました。会ってすぐに自己紹介をされて、これから倉石さんと交互に会ってみようって言われて、ちょっと戸惑ったんですけどお父さんやお母さん、コハちゃんも見聞を広げる意味で、色んな人と話した方がいいって言われて、本当は光輝さんに聞いてからにしようって思ったんですが、光輝さんも良いって言われたそうだったので」
「うん。その方がいいね。俺と話してばかりだと偏ってしまうだろうし、世の中には色んな人がいるよ。良い人とか悪い人とかね」
「そうですか?それなら安心しました。光輝さん、別の男性と話をするのって嫌なんじゃないかと思いまして」
嫉妬という感情は自分から見てちょっと高いぐらいの人か自分以下の人にしか抱かないものだなと思った。相手が見えないぐらいの遥か先では、何も起きなかった。
「そんな事、ないない。美月さんにとって本当に良い事だと思うんだったら俺に聞かずにどんどん決めちゃって良いよ。決めるべきだね」
「そ、そうですか?」
「うんうん」
「それでいろいろな話をしました」
「へ、へぇ。例えばどんな事を話したの?」
「大和田さんはバドミントンが得意で今度一緒にやらないかって事を」
「バドミントンかぁ。子供の頃、少しやったなぁ~」
特技を活かした話題作り。一緒にやるとなればかなり接触も増えるだろうし、何より、男の自分でさえ彼の動きには感心したぐらいだ。美月が見たらコロッと行ってしまうかもしれない。
「はい。でも、やっぱり男性と話すのは慣れて無くってやっぱり緊張してしまいます」
何を聞かれたのか気になったが自分にとって良くない事だろうと思ったので聞こうとは思わなかった。
「緊張するんだ。俺と話すときも緊張する?」
「いえ、光輝さんとはもう慣れましたからいつも通り、話せますよ。ふふ」
穏やかな微笑み。アイツとの話が慣れたらその時こそ、俺はおしまいかもしれないと考えた。この微笑みも他の男に向けられるのだから・・・それからあいつとは関係ない他愛ない話をした。帰り道、いつもより風が冷たく感じられた。光輝には冬が更に深まっているだけだと思った。
12月18日(土曜日)
この日は補習がなく、外は1日中冷たい雨が降っていたので家にいるしかなく、毎週、自動で録画するようにセットしたアニメを見ようとしたがかなり溜まっていたし、それほど面白そうに思わなかったので見ずに消去した。
「来期のアニメはしっかり見られるのかなぁ~」
沈む気持ちでそんな事を思い、絵でも描いてみた。様々なキャラクターのデフォルメした姿であったが、どうにも気に入る出来にはならなかった。夕方になるにつれて不安感が高まってくる。家にいては心が沈むと思って本来は弟の仕事である犬の散歩に出かけた。思えば、夜の美月に出会ったのも犬と散歩したからであった。だから心中穏やかではなかった。まだ大和田と話す事に慣れていないから緊張すると言っていたが慣れてしまったらどうなるのか。良からぬ想像が進む。考えない方がいいと思うが、それは無理かもしれない。
12月19日(日曜日)
朝起きて、一人で過ごす。友人達に連絡するわけにもいかなかった。一通り『ドラゴンリング』も読み終えたのでサイトを巡回してネタなど調べていた。そこでため息を一つついた。
「楽しく過ごした日々の代償は重い・・・か・・・」
このマンガは『仲間』を強調した場面が良く出る。見れば見るほど岸達を思い出した。
「そしてその楽しい日も俺は終わらせようとしている。沢山のものを失って。残る物は思い出だけか。それだけを糧に送る学校生活。重いな」
漠然と考えながら自嘲気味に笑う。自分にはお似合いだと思っているのかもしれなかった。携帯を触っていると、糸居からのメールの返信をしてない事に気付いた。
「忘れてた。『そろそろ終わりそうだから、そっちに戻れそうだよ』っと」
メールを送ると糸居から5分程度で返信が来た。
『そうか。早かったな。もう少しゆっくりして来ても良いんじゃないか』
そのように書かれており少しガッカリする。『そんな事言わず頑張れよ』などという励ましの言葉を少し期待していた自分に気付く。
「まぁ、そうだよね。『でも、引き際は早いほうがいいよ。俺は場違いすぎたから』」
暫く、二人の短い間隔のメールのやり取りが続く。それならば電話するなり、会いに行った方が遥かに早い。
『岸も本島も喜ぶと思うぞ。お前が比留間と仲良くしていると知って嫉妬している反面、お前がいなくて本調子でなかったからな。今期のキャラのデフォルメ描いてもらいたいって口には出さないが、そんな雰囲気をかもし出していたしな。傷心のお前を温かく迎えてくれるはずだ。お帰りぃ!ってな』
光輝の心境としては内容を殆ど聞かず、美月と別れて糸居側に合流するのを歓迎しているように見えたのが少々、拍子抜けという気分だった。
「そうなんだ・・・『良かった。もう居場所がなくなっているんじゃないかって思っていたから』」
『何時だってお前のスペースは空いているよ。誰もお前の役割をやれる奴はいないからな』
「俺の役割・・・『やっぱり必要としてくれる人がいるってのは感謝しないといけないね』」
『そうそう。人には向き不向きがあるしな。お前自身、快適だと思える場所にいるのが一番だよ。無理して頑張ったってコケて痛い思いしたって何の価値もありゃしねぇ』
糸居に言われれば言われるほど心のモヤモヤは募っていった。心の中では戻って来いと言われているのだから乗っかればいいだけなのだが、どうもスッキリしなかった。
「・・・。『それに、相手のこともあるし、ズルズルと続ければ続けるほど辛いのが増えるだけだしね』」
『もうつまんない事考えるのをやめろよ。ちゃっちゃと綺麗サッパリ忘れて心を入れ替えろ!お前にはほのかがいるんだろ?』
少し前まで大好きだったアニメのキャラ。普段、まるで喋らない糸居から言われるとボディブローのように重い。
「『そうだった。大事な事を忘れていたよ。糸居。思い出させてくれてありがとう』」
『気にすんな。いつまでも未練たっぷりでいるのもお前も嫌だろうが、俺はお前が行きたい方向を見ているだけだ。後はお前自身が好きにすれば良い』
それから返信をするのをやめた。心の中の晴れないモヤモヤはウズウズとなって光輝の心を刺激する。ため息ばかりが増えた。時は過ぎて、夕方になったので美月の家へと動き始めた。
すると大和田が帰りらしくバッタリと出会ってしまった。
「うっす」
光輝は無言で会釈するだけである。
「夜の美月さんにバドミントン楽しかったって!言っておいてくれ!」
『俺は伝言板じゃねぇって。バドミントン!?』
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