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(小説)美月リバーシブル ~その17~

2012-12-28 18:50:56 | 美月リバーシブル (小説)
2010年12月22日(水曜日)
この日は終業式であったので、何日かぶりに学校に向かった。冬休みは自転車で遠くまで行って出来る事なら一緒に初日の出を見たいと思ってハッとした。
「ああ。夜の美月さんは日の出には人格が違ってしまうんだった。じゃぁ見られるとしたら今年最後の終(しゅう)日の入り?って、日没後に人格が変わるだから、その時も朝の方か・・・」
学校に着くと、他の友人オタ3人組は近寄るなオーラを全開にして、彼を遠ざけた。
「だからと言ってあっち組に入れるわけもなく・・・」
男同士でアニメの話をしているどんよりと淀んだ空気を発する3人組とは対照的でもある男女仲良く話をしているグループ内に入れるわけもない。
『学校生活。別れるまではこんな感じなのか?俺って』
そこへ、美月が少し遅めに入ってくるとすぐに男女グループが騒ぎ始めた。
「どうしたの?みっちゃん!」
「ちょっと昨日、はしゃいでいたら転んじゃってさ」
美月が登場するのだが彼女の脛には包帯が巻かれていた。
「大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫。ちょっと捻っただけだから。お父さんったら松葉杖持っていくか?なんて慌てちゃって面白かったし、歩くぐらいなら問題ないからみんな気にしないで」
美月はチラッとこちらを睨み付けて来て一瞬だけ目が合った。光輝は申し訳無さそうな顔をすると美月の方からプイッと顔をそらした。美月はすぐに周りの友人達と合わせて話し始めた。
『お前の所為だと言わんばかりだなぁ・・・』
松葉杖の件を聞く限り、美月の両親は相当心配しているように思えた。夜の美月の態度を見る限り大丈夫だと思って何もいわずに帰ってきてしまったのはまずかったかと思えた。そして・・・
『いくら人格が違うとは言っても、同じ顔で睨まれると精神的に来るな・・・特に今回は』
ホームルームを終えると、校庭で校長からのお話がある。全員、外に移動しようと廊下に出ると前に美月がいた。しまったと思う。すぐに声をかけられた。
「全く。どうしてくれんの?アンタのせいで足が痛くて痛くて仕方ないじゃない」
「ご、ごめん」
それ以外に言葉は見つからなかった。
「やる事全部、下手よねぇ」
「・・・。ごめん」
「ああ~。足が痛い。それにしてもあの子は自転車に乗らなくたっていいの。その所為で怪我なんかされたらこっちが迷惑よ」
乗らなくてもいいという言葉は引っかかったが、まずは謝る事に専念する。
「ごめん。ごめん。本当にごめん」
彼女が黙るまで謝るしかないが、今の彼女の言葉は光輝には少し引っかかった。
「自転車に乗れるようになったからと言ってどうするのかしらねぇ。行く場所なんてないのに。あ、そういう事。自分のうちに来てほしいって事であの子に自転車の乗り方を教えてんでしょ。どーせ、アンタの考える事なんて下心しかないもんねぇ」
自分の事がいくら言われても構わなかった。だが・・・
「別にそういう訳でもないけど・・・で、でも、彼女の気持ちを思ってあげてもいいんじゃないかな?」
「はぁ?アンタが口出せる立場だと思ってんの?赤の他人の癖に」
「それは・・・」
「あ~。足が痛い。校庭に行くまでの間に足が折れちゃったらどうするのかしらねぇ」
「お前、そんなに悪いのか?」
「あ。アッキー」
大和田がそこで現れた。どこから話を聞いていたのかは知らない。明人という名前だから『アッキー』というあだ名というのはおおよそ想像がつく。
「そんなに辛いなら辛いってさ。ほい」
大和田は美月の前で背を向けてしゃがみ込む。負ぶされという事のようだ。
「だ、大丈夫だって。そこまでしなくたって少し痛むだけで歩けるって」
「今、足が折れそうだって言っていただろ?足だってそんな包帯巻いているし、無理すんなよ」
「それは言葉の綾よ。ホラ」
美月はピョンピョンとジャンプしてみせた。
「だから無理すんなって。それで悪化なんかしたって元も子もないだろう」
「う、うん」
美月は渋々、おんぶされていった。流石の美月も恥ずかしいのか背中で縮こまっていたのが印象的ではあったが見えなくなりそうな所でこちらを睨んでいった。
『はぁ・・・おんぶされて何故に俺を睨むんだよ。それはそうとやっぱり夜の美月さん。相当な無理をしていたんだな。それに気付いてあげられなかった』
外に出て、並んで校長の話を聞く。大抵、くどくどと長話になるものだが、ここの校長は手短に済ませた。ただ単に校長自身、寒い中、話すのが嫌なのだろう。それから再び、教室に戻るのだがそこでも、美月はおんぶされながら教室に戻っていった。周囲で見守る生徒達も『見せ付けてくれるね』などと冷やかしの言葉を入れていた。
「さて、通知表を配るわけだが、その前に、まぁ何年も長期の休みを経験している君達だ。自分達が未成年で学生であるという自覚は忘れぬように。例えば飲酒したりとか無免許で車に乗ったりなど法律に反するような行為を軽はずみな気持ちするなよ。この中で既に自動車免許を持っている奴もいるだろう。それで事故でも起こせば、即ネット上で嘲笑の種になる。『ざまぁみろ』『他人の不幸で飯が旨い』などと罵詈雑言が飛び交う事になる。そういうのを書き込む連中は人の若さに嫉妬する奴、自分達が何もせずパッとせずゴミみたいな青春を送って来たようなどうしようもない奴らばかりだ。そんな奴らを喜ばせるような事はするな。分かったか?」
「はーい」
「車に乗っても、調子に乗らず運転しろ。車は人を殺すし、乗り手も簡単に殺せる乗り物だからな。それと、ネットでそんな事を書き込みたくなるようなちっぽけな人間にならんように。案外、同級生が書き込んでいる可能性もあるからな」
そのような年長者からの忠告を担任がした。普段、遊んでいる連中が、岸達や自分をチラッと見てきた。その中に美月も含まれていた。
『こっちは書き込む方かもしれないけどこっちを見てくる君らは書き込まれる方だろ』
そのように思っていると通知表が配られ始めた。受け取った光輝は恐る恐る通知表を広げた。
『相変わらずだ・・・出来るに○が付いていたあの頃に戻りたいよ』
小学生の時のような項目が並び○での評価ではなく5段階の数字評価であるが、補習をやった為ギリギリという状態であった。1度見てそっと静かにカバンにしまった。
帰り際、廊下に出ると大和田が待っていた。
「よう」
「何かな?」
嫌な予感が頭を過ぎった。付き合えなどと言われて人気が無いようなところに呼び出されてというような学園アニメにありそうな展開を思い出した。
「今から、帰るんだろ?話がある。と言っても時間はかけねぇから歩きながら聞いてくれ」
意外だった。歩きながら彼は話しかけてきた。
「明後日はイブだったな。本来であれば俺が夜の美月に会えるが逆にしないか?」
「へ!?」
美月の怪我の事を責められると思いきやまるで別の事を言われたので驚いてしまった。
「だって俺だってイブに朝の方の美月に会えないんだぜ。ここは逆にしようぜ」
一応、そのような約束にしていた。大和田は日中の美月とは毎日会っているものだと思っていた。日中の美月と全く会っていない光輝の思い込みだった。しかし、こちらが会ってないと言うのにちゃんと約束を守る律儀さには軽く恐れ入った。
「そうだね。うん。名案。そうしよう」
スポーツマンとは言えこの潔さは異常だという風に思えた。マンガやアニメなどに出てくる誰からも憧れられる主人公はこういう風に輝いているのだろうなとちょっと彼がまぶしく感じた。
「別にお前に貸しを作った訳ではねぇぞ。お互いに利益があるほうを選択した方が良いからな。じゃ、お前も上手くやれよ」
この心の余裕は何かと思った。もはや眼中にさえないというのだろうか?
「そんじゃな」
「ちょっとさ」
光輝は思わず大和田を引き止めた。
「あ?何だよ。忙しいんだよ俺は」
「比留間さんを怪我させた事について何か言いたい事はないの?」
態々、掘り起こすんじゃねぇと怒られるかもしれないだろうがこれは避けて通ってはいけないと思ったから聞いた。
「別にねぇよ。お前自身、故意に怪我させた訳じゃねぇんだろ?自転車の練習で転ぶのは当たり前だろ?俺がやったって怪我させてしまったかもしれないしな。その点ではちょっとした捻挫だったのは運が良かったのかもしれねぇ」
この男は自分と同い年なのにどれほど人として大人なのかと呆れた。
「凄いな。俺なら嫌味の一つでも言っていたと思うのに」
「そりゃ、俺だって最初は話を聞いてむかついた。軽く殴ってやろうかと思っていたんだぜ。でも、さっきよ。アイツからお前に対しての愚痴を嫌と言う程、聞かされたよ。バカとかアホとか、それはもう酷いのったら。それを聞いていたら俺の怒りも失せたんだよ。それに本人も至って生き生きと陰口言っているんだからな。あ、こりゃ元気だってな」
生き生きと陰口を言うというのもなんともおかしな話ではある。それから彼は一言言って、練習に向かっていった。
『本人には許されていないけど謝った事は謝った。だけど、両親にも謝るべきだったんだよな』
大した事はないからとそのまま返したのが間違いだった。だから、美月のうちに電話をかけさせた。放課後間もないから日中の美月は帰っておらず、母親が出た。
「珍しいわね。こんな時間に倉石君からうちに電話をかけてくるなんて」
「美月さんではなくご両親とお話したい事がありましてので今、電話をかけたんです」
「私達に?何か重大な話なの?」
「はい。昨日、美月さんを怪我させてしまった事についてです」
「ああ。そのことね。気にする事なんてない。ない。包帯なんてしていたけど、本当はみんなから気を引きたいだけだったはずだから」
「ですが・・・」
「そうね。それだけじゃあなたの気が済まないっていうのなら・・・今日の夜いらっしゃい」
「今日の夜は、ダメなんですよ」
「知っている。大和田君との約束でしょ?ヨミちゃんに会うのがダメって言うだけで私達ともダメって事はないでしょ」
確かに、会う対象は美月のみだから、両親に制限はない。だが同じ屋根の下に1人の少女を巡って男が二人。しかも別々の部屋にいて、異なることをしている。その状況はあまりにも異常である。
「それはダメではありませんけど」
「それともあなた自身の都合?」
「いえ・・・」
「なら、今日いらっしゃいよ。気持ちが乗らないのなら別の機会でもいいけれど、早いほうがいいと思うよ」
「いえ、今日行きます」
「分かった。じゃ、待っているわ」
父親が帰ってきているであろう『20:00』に行くという事を伝え、電話を切った。完全に、手のひらの上で弄ばれていると感じた。こんなにも扱いやすくていいのかと自分自身に危機感を覚えた。
「おばさんの方はあまり気にしてないようだけどおじさんの方はご立腹かもしれないしな。『うちの愛娘をよくも傷物にしてくれたなぁ!』とか・・・土下座も考えておかないとなぁ」
光輝は傷物の意味を履き違えていた。19:30ぐらいに家を出た。手ぶらである事を不安にさせた。花でも買っていこうかと思ったがお金はない。親に小遣いを前借しようとすれば理由を聞かれる。それで美月が怪我をさせたなどという事を言えば、両親も出て行く大事になってしまうのでいえなかった。それを言わずに前借をするのはバレてしまうのではないかという事で言わせなかった。
美月の家の前に立つ。いつもとは違うオーラに包まれているように見えてしまう。
『何でこんな事になっているんだろうか。俺』
インターホンを押すのが躊躇われるが近くを人が歩いてきたのであまり家を見つめていると不審者扱いされると思って押した。
「はい。倉石君ね。いらっしゃい。お父さんも帰っているから入って」
ドアを開けると、美月がいて招いてくれた。大和田のものらしき靴はなかった。
「倉石さん。こんばんは」
「こんばんは」
「それじゃ、倉石君はこっちね。みっちゃんは部屋にいなさいね。そうそう倉石君、今日は大和田君忙しいから来られないんですって。良かったね」
「そ、そうですかねぇ?」
隣の部屋でいちゃついていたらどうしようなどと少し考えていたので良かったと思ったが、横の部屋で両親と会っている中、いちゃつける奴などいるわけがないだろう。こちらを見送る美月はとても心配そうな顔をしていた。力なく笑顔を送る。それで居間の方にいくとボスとも言える父親がソファに腰掛けて足を軽く震わせていた。貧乏揺すりという奴だ。イラついているのかと少し引いてしまう。
「いらっしゃい。用件は母さんから聞いているが、君の口から聞こう」
「ええっと、この度は・・・」
考えていた口上を言おうとしたら父親に止められた。
「ちょっと・・・、取り敢えず座ろうか?」
相手を見下ろしているような状態で、謝罪するのは論外というものだろう。謝って座る。美月の母親はどうぞと言ってテーブルにお茶を出してくれた。ただ、声を殺すようにして笑っているように見えた。
「この度は、美月さんを怪我させてしまい、申し訳なく思い・・・参上仕ったわけです」
一瞬、何をいっていのか飛んでしまい、仕る(つかまつる)などと外れた事を言ってしまった。
「本当、今回の事はすみませんでした!」
深々と頭を下げた。それで怒っているようなら土下座をするつもりだった。
「うん。気持ちは分かったから頭を上げてくれ」
「それでは、許していただけるのですか?」
「許すという事はないね」
真顔で激怒されているのかと思うと体がガタガタと震えた。一体どんな事を言ってくるのか、最悪もう会うななどと言ってくるのではないかと一瞬で顔が青くなり血の気が引いた。
「許すとか許さないとか言う以前の問題だよ。そもそも怒ってないのだからね」
「え?」
「自転車の練習で怪我は付き物だ。気にする事はないよ。多分、朝美月が痛い痛いって騒いだからこそ君も悪気を感じて私に謝たんだろう?」
「そ、そういうわけではありませんけど」
美月の事も自分の事も良く分かっている人だと思った。
「本当かい?それはそうとこの用件がもう済んだからといってこのまま帰ってもらうのも何だから少しばかり話でもしようか?」
気にしてないのなら一刻も早くここから立ち去りたいところだったが先手を打たれた。
「本当の所、君には謝ってもらうどころかこちらから感謝しなければならないと思っていたんだよ。夜美月は、どうも、控えめが過ぎてね。自分が何かの登場人物の1つじゃないかと思わせるような素振りがあってね。『どうせ』とか『私なんて』という言葉が目立っていたんだが、君と会ってからは以前よりは積極的になってきたんだよ。目に見えて分かる変化だったよ。いくら大事な娘と言ってもいつまでも私達の手元において置けないからね。本音を言えば寂しいが・・・」
「は、はぁ」
どうリアクションをしていいか迷った。こういう父親トークに対して笑うのは変だし、同意するのもおかしい。とりあえず真剣な顔をして小さく頷く。
「だから、君には夜美月が自転車に乗れるようになるまで責任を持って最後まで面倒を見てもらいたいんだ。出来るかい?」
「今度は美月さんを決して転ばせないようにしっかりと見守ります」
「ほう。大した自信だ。だが、人がやる事に対して『決して』なんて事はあり得ない。そばにいても君の手から離れる可能性もある。それでもし転んだらどうする?」
「そ、それは・・・」
「だったら、無理な事を言わない。相手からつまらない事で足元を掬われるぞ。『頑張ります』ぐらいでいいんだ」
「はい。頑張ります」
「それで良い。それで夜美月はいいが、朝美月はどうだい?」
父親から最も突いて欲しくない所だったが、決して避けては通れない道だろう。
「あまり快く思われていないようです」
「だろうな。話をするたびに君の愚痴を良く聞かされる。耳にタコが出来るぐらい。例えば、もう家に入れないように追い払ってくれとね」
「そ、そうですか・・・でしたら、私は」
ゆっくりと立ち上がると、父親はこちらを見上げて言う。
「それ聞いて帰るのかい?」
「帰れとおっしゃられるんでしたら・・・」
それを聞いて座る光輝に再び母親は笑っていた。
「朝美月の意見は、そうだろうが、夜美月の意見もある。それに娘だからといってそんな事を通せる権限はない。ここは私のうちだからね。朝美月にも伝えてある。愚痴を言うだけなら自由という事だね」
珍しい父親だと思えた。大抵の父親は娘に嫌われまいと要求を呑んでしまうかしまう事だろうから突き放すような事はまずしないだろう。もしそんな事をしたら美月はぐれたりとか家出をしたりするかもしれない。だがそんな事がないのは互いに信頼感があるという事なのか、父親の権力は絶対なのか。
「それで、娘との交際の条件は覚えているかい?」
「はい。朝と夜、どちらの美月さんからも好かれるって事でしたよね」
「そう。くどくどと何度も言いたくないからね。覚えているならそれでいい。それ以上いう事は無いね」
そう言って父親はこちらを見て来た。目を逸らしたかったが、軽く歯を食いしばり、握ろうとした手を硬直しつつ耐えた。
『は、激しいプレッシャー』
光輝はもはや小動物といった感じで小さくなっていた。喉元に刃物を突きつけられ、生かすも殺すも父親の自由と言ったところだろう。
『あれこれしろって言ってくれた方が遥かに楽だ・・・』
語らずこちらを見るだけの無言の圧力に押されていた。嫌な汗が止まらない。思わず出してくれたお茶を飲んだがすぐに飲み干してしまった。
「それで、君から見て、夜美月は後どれくらいで自転車に乗れそうだい?」
「美月さんは覚えが早いですから後2~3日も続ければ乗れるようになると想います」
大体、バランスが取れるようになってきたから後はペダルをつけて漕ぐ練習だけだ。だからそれほどの時間は必要としないだろう。
「そうか。母さん。親子で夜のサイクリングというのはどうかな?」
「いいんじゃないかしら?でも、高校生の娘と父親が夜にサイクリングに行くなんて聞いた事ないわよね」
「敢えて、それをやるのがいいんじゃないか」
「でも場合によったら援助交際とかって風に見られるなんてあるかもね」
母親はなかなかキツイ事をいうものだと思う。確かに、年頃の娘と一緒の中年男性はそのように疑われかねない。
「あぁ?どこの変態親父が女子高生とサイクリングするんだ。会ったらホテルに直行だろう」
「それもそうね」
娘の友達がいる前でよくもそんな話が出来るものだと思う。緊張を解くつもりなのかもしれないが逆に緊張を高めた。
「で、君もどうだい?」
「き、機会があれば・・・是非」
社交辞令的に答えて見たが夜に娘とそのボーイフレンドと中年男性とでサイクリングする。客観的に考えてあまりにも怪しすぎる光景である。親子として考えても無理があるだろう。それからは、父親は母親と交えて話をしていた。光輝は相槌を打ちった。手持ち無沙汰だから湯のみに口をつけた。とっくにその中は空だったが、話の腰を折るのもなんだから振りをしていたが、暫くしていたら流石に気付かれた。
「あら、倉石君、ごめんなさいね。遠慮しないで言ってくれればいいのに」
「あ、すみません」
それから再び話が始まり、時間は21:30を回っていた。
「お話の途中、すみません。そろそろ、帰らないとご迷惑になるんじゃないかと・・・」
「もうそんな時間か。あまり遅いと君のところのご両親も心配するだろうからね」
ようやく立ち上がることが出来た。ホッとしたところで父親がこう言った。
「くれぐれも娘の事を頼むよ」
「それは、勿論です」
今の言葉は父親からの信頼を受けていると確信した。今日の中で何より嬉しかった。
「そうか。これは大和田君にも言ったからそのつもりで頼むよ」
ガクッと転びそうになった。その光景を見て再び母親が笑う。父親はリビングに残り、母親が着いて来て玄関で靴を履いていると美月が部屋から出てきた。
「光輝さん。もう帰ってしまうんですか?」
「それもそうね。少しぐらい二人で話をしていったらどう?」
時間が遅いから帰るというのに母親は何を言い出すのかと思った。
「いえ、約束は約束ですから」
「いいじゃない。バレないって私達も大和田君に言わないから。どう?」
本気なのか、試しているだけなのか、からかっているのか色々と思案する。
「それでも、約束は約束ですから帰ります。それでは、美月さん、おばさん。お休みなさい」
「お休みなさい」
母親は微笑みながら手を振り、美月も手を振るが少しばかり寂しそうだった。
「何とか乗り切ったかぁ・・・何とか・・・」
しかし、父親の目はずっと頭の中から離れそうになかった。


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