「『妖精の守り人』って知ってる?」
「知ってますよ。女用心棒バルサが水の妖精を宿した皇子チャグムを追手から守る古代東洋風ファンタジーでしょう?ちょっと前にドラマ化していましたよね」
「そう。学生時代にいくつかシリーズを読んでたんだけど途中で放り出してたんだよね。ただそのドラマ化をきっかけに改めて読み返したらはまってさ。シリーズ一気読みした」
「おもしろいですよね。地域に残る風習、伝承を物語の核心に絡めていく展開は民俗学研究者の著者ならでは、です。完全なファンタジーでありながら地に根差したリアリティーが感じられます」
「物語もそうだけどキャラクターも魅力的だよ」
「はい、皇子として数々の試練を乗り越えてたくましくなるチャグム、それを支える若き星読博士シュガ、当代一の老呪術師で弟子に愛情を寄せるトロガイ。そして女主人公タバサ」
「DQ5主人公の娘じゃねえか。タバサじゃない、バルサだ。短槍使いのバルサ」
「失敬、バルサ」
「襲いかかる追手、怪物どもを守る槍さばきの描写にはほれぼれしたね。ただ格好いいだけじゃなく血肉が通った骨太のキャラクターだ」
「確かに。そもそも序盤で既に30歳の女主人公を物語が進むごとにガンガン年をとらせていくのは男の作者にはなかなかできないような気がします。うがった見方かもしれませんが」
「でさ、その短槍使いのバルサに憧れて、買ってみた訳だ」
「・・・何をです?」
「短槍」
「・・・」
「と言っても本当の槍じゃないよ?現代社会で槍買うのって難しいから。なのでこれで妥協した」
「・・・ただの棒ですよね」
「うん、140cm位の棒。樫の木でできてる」
「30近い男が木の棒持ってめちゃくちゃ目をキラキラさせないでくれません?」
「どうよこれ?」
「どう、じゃないでしょう。てかあれですか。今日の話のメインはこれですか」
「はいその通りです。この棒について話したいがためのこれです」
「はぁ・・・。一応貸してもらえます?」
「ご随意に」
「う~ん、・・・これ以上無くただの棒ですね」
「そのただの棒がいいんだよ」
「いくらしたんですか」
「Amazonで4000円」
「高っ。何に使うんですか。物干しざおの代わりにしかならないでしょう」
「とりあえず素振りとか。あと空を突いてみるとか。『ソェッー!』って声を上げながら力いっぱい突くと結構汗かくんだこれが」
「その訓練は、何か役に立つんですか」
「馬鹿だなあ役に立つわけないじゃないか」
「ですよね」
「気分の問題ってやつだよ。あ、けど町中で暴漢に襲われた時とかいいかもね。さっそうとコンビニのノボリを引き抜いて先端で男ののど元を一突き!とか」
「襲われませんから」
「山中で熊に襲われたらさっそうと山岳用のステッキで一突き!」
「登らないでしょう、山」
「否定するなぁお前は。ロマンがわかってない。実用性の話をするなら、これ肩甲骨のストレッチにも使えるんだよ。両手で掴みながら棒を背中にまわしたり。これを使って座ったまま遠くのものを引き寄せたり」
「怠惰の道具になってるじゃないですか」
「棒の本来の使い方としては正しいだろうに」
「『棒の本来の使い方』が何を指すのかいまいちわかりません」
「あ、俺の部屋引き戸だからつっかえ棒にできるじゃん」
「正しく用心棒ですね」
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