「1月20日にさ、平泉の二十日夜祭に参加してきた」
「そうなんですか?二十日夜祭ってあれですよね。その年の厄男達がふんどし姿で2m弱のたいまつを抱いて、平泉駅前から毛越寺まで約1kmを練り歩く献膳上り行列ですよね」
「おお、不自然なまでの説明台詞」
「それとなく説明するのは諦めました。しかし大変でしたね、雪の中ふんどしで」
「あ、ごめん。参加したと言うと語弊がある。写真を撮ってきた」
「まぎらわしい。やっぱり写真撮る側でしたか」
「夜の7時位、平泉駅から一団が出発するから待ち構えて」
「ふんどしはいた男の集団を待ちわびていたと」
「駅前中央のたき火にあたりながらね。何人くらい来たんだろ、200人くらいかな。ハチマキつけて、ふんどし履いて、でっかいたいまつを振り回すんだね」
「よーいやさーっと」
「雪が降る中でストロボを使ったから、ちょうどよく雪がきらめいてかっこいい写真になりました。参加者の皆さんは大変だったけど」
「でっかいたいまつを振り回すって大変ですね。こけないんですか?」
「そりゃこけるよ、雪の中だもの。で、行列も撮影も毛越寺の境内に入ってからが本番なんだ。たいまつの先に火をつけて、助役の小刀にたいまつをぶつけて。かっこいいというか、荘厳というか、絵になるんだこれが。で、迷ったのがストロボを使おうか使うまいかだ」
「夜7時ですもんね、暗いです」
「普通に撮ったら真っ暗になるからストロボ使わなきゃいけないんだけど、せっかく炎の明かりがあるんだからそれを光源にして撮った方が炎の赤さが目立って雰囲気が出るんだよね!ストロボだと白い光がぶち当たって魅力半減になる。でも、ストロボ無しでやってみるとどうしても光源が足りなくてさ。泣く泣くストロボを使って撮影です」
「痛し痒しですね」
「そしたらさ、境内を進むと、ゴールの手前にあるでっかいたき火があってだ。ストロボ無しで余裕で撮れるんだよ!そこが一番の撮影スポットだった。気付くの遅かったぁ。あそこで最初から張ってたらもっといい写真撮れたのに」
「下調べが甘かったですね。来年リベンジです」
「ところでさ、帰り道に我が身を省みる事態に遭遇したんだけど、聞いてくれる?」
「なんですかヤブから棒に」
「当日屋台もあってさ、腹が減ったからたこ焼きかったのね」
「はい」
「店員さんが若い女性でさ、『一箱ください』って言ったら『こちらのお父さんにひとつ!!』って言われたんだよね・・・」
「・・・」
「そう見られるんだな俺」
「カメラを持ってると余計家族づれっぽい感じしますし」
「当方彼女もいないのですが」
「プラスに考えましょう。そういう思し召しですよ多分。毛越寺の初詣で引いたくじもほら、『待ち人来る』じゃなかったですか」
「お父さんか、お父さん・・・ぁぁ」
「自分から切り出した話題のくせにずいぶんショックを受けてますね」
「思いだしショックってやつだ」
「そんなの言わないですから」
「甥っ子に『おじちゃん』と言われるのも悲しいのに」
「そこはいい加減受け入れましょう。ところで撮った写真はいずこに」
「持ってるけどさ、ここで見せるのはちょっと」
「何ですかもったいぶるようなものでもないでしょう」
「個人を特定できる写真ってブログに載せていいものか」
「ああ。そこらへんは難しいところですが、祭り関連の写真は肖像権に関しておおらかだと言いますよ?」
「いや、特定されるのは俺なんだよね」
「だからどんな写真を撮ってるんですか毎回」
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