うち捨てたときの痛みをお前は信じ過ぎた、渇きの挙句ひび割れた生体の表面のごとく、ただあるというだけで約束された気になっていた理由が音もなく崩れる、死際の夏が悪い足掻きのように放つ胸のムカつくような熱をさばく術もなく汗にまみれる9月の初めのこと
その日俺の中にあったひとつの叫びは取るに足らないもの、多分お前の中にあった叫びだってちょっと似たようなもの、身につけたシャツはもう俺という生体に少し犯され始めていて…俺は脳みその記憶をごたまぜにして新しい語感を作り続ける、アナザー・サイド、真実なんて結構そっちにあるとしたもんだよ、確信なんて所詮は表層の出来事さ、確信なんかを振りかざしてはいけない、そんなものを強力なウェポンだと思いこんでしまったら、どんなに掘り下げても意識の器の底辺で行き詰るものさ…外壁に張り付いたツクツクボーシのうるさ過ぎる遺言状、もはや当たり前になってしまった甲高いフレーズを誰の心に植え付けようとしているんだ、どんな理由がお前の中には渦を巻いているんだ、「次も同じ」を繰り返すだけの果てのない輪廻、ノンストップでリピート再生されるレコーダーの記録映像、変わらないことこそが美徳だと言うのならなぜお前らは進化などしたのだ、焼けるような脳髄、アア、夏の走馬灯が俺の意識に入り込む、時に叫びというものが一瞬の間合いで遥かな沸点に喰らいつき心魂を屠らんとするその理由を俺に諭そうとでもするみたいに…夕立ちを告げている、夕立ちを告げている若い男のアナウンサー、だけどこのところ雨なんて見たことがない、雨はまぼろし、雨はまぼろし…流れ去っていくだけのものに誰が心など求めるだろう?
異常性欲者のように暴走したハロゲン・ライトを連想させるどこかの窓からの太陽光の反射、マシンガンで片端から跳ねるものたちをぶち割ってやろうか、物質に対する根源的な憎しみ、それに名前をつけるとしたら悲劇かそれとも喜劇か?撃ち抜きたい衝動なんてどこのどんな奴にでもあるだろう、聖者ほど長く誰かを殺し続けてるとしたものだし
鳴くだけ鳴いて飛び去って行った一匹のツクツクボーシ、あいつの小便が渇くまでに時間なんかそんなに要らない、判っているものは見届ける価値などない、どこかの隙間から潜り込んだアシナガバチをジェイ・マキナニーのハードカバーで叩き落としたとき、狂った夏は俺の中枢にそれの分解を命じた
細いドライバーで俺はそれを分解した、羽をむしり、針をもぎ、体液がデスクに小さな溜まりを作った、そいつのどこかしら淫猥な丸い腹がぴくりと震えてそれきり動かなくなったとき、死あるものの理由を知った、生命というのはそれだけでどうしようもなくエロティックなものなのだ、暑い、ちくしょう…
ドライバーの先端を見つめた、アシナガバチがそこに残したわずかな組織が
垂れるように
泣いていただけだった
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