微量の電流がひっきりなしに身体中を駆け巡っているような違和感が続いて、痒くもないのに腕の同じところを掻きむしっていた、寝たり起きたりを繰り返した朦朧とした頭では現在時刻を確認することも容易ではない、この部屋には時計がない、携帯電話か腕時計を覗き込む以外にはそれを確認することは出来ない、そしていまはどちらを覗きたい気分でもなかった、放出されるべき熱が外気に触れることが出来ぬまま肉体の中で泡となっている、そんな感覚があった、本当の欲望はかたちを持たない、それをそれだと思わぬまま認識されることを望んでいる、いつかならなんとかなった、まだそのことがはっきりと判らなかった季節だったら―知り過ぎた、それはしかたがないことだ、闇雲に泳ぐ時代、歩をとめて考え込む時代、そのあとには、それらすべてを理解しようとする時代がやって来る、人生のほとんどを掛けてそこに辿り着いた以上、大いなる矛盾と真理の渦に巻かれ飲み込まれる日々に足を踏み入れるのは当然のことだ…心理のすべては流動的に変化していく、昨日の悟りは今日の過ちに思え、いつか傷だったものから生命力とでも呼べそうな光が溢れ零れてくる、真っ暗な闇の中に放り込まれたと思ったら瞬きの間に光の中に立ち尽くしている、すべての道がすべて以上のことを語りかけてくる、それらすべてを拾い上げることは到底不可能だ、自分で選択するという意思だ、なにを選んでなにを捨てるのか、なにをマークしてなにをスルーするのか―実際のところ、そのとき選択するものが、あるいは選択しなかったものがなんであろうと大した問題ではない、重要なのは選択するという行為そのものに注ぎ込む集中力だ、闇雲になってはいけない、これは雲を掴むような話だ、本当の静寂が心の中にあることを知らなければならない、血眼になってはいけない、なんなら目を閉じてみたっていい、身体の力を抜いて、呼吸以外のいっさいの動きを止める、呼吸とともに繰り返されるインプットとアウトプットを正しく理解することだ、一秒一秒の間に様々なことが起こっている、言葉を使う連中はとにかく大きな話をしたがる、でもそうじゃない、小さなものを正しく見つめなければならないのだ、地球の話をするなら、それを構成するすべてのものを語らなければ地球というものは正しく伝わらない、夢見心地の子供にならそれでもいいかもしれない、だけど近い将来いつか必ず死を迎えるだろう人間がそんな真似をしていてはいけない、現実とは、ひとつの大きな流れに乗ってのんびりと漕ぐものではない、どんな流れの上に居ても、自分がなぜそこに居るのかということにひとつの指針を持たなければ、それはどこかで紛れ込んだごみや木片と同じ程度の意味しか持たない、そして驚くべきことに、ごみや木片のように生きている連中はこの世界にはごまんといる…他人の生活に首を突っ込んで判ったような口をきいている連中のことさ―あいつらはきっと退屈過ぎるんだ、自分について考えることをとっくの昔にやめてしまったからさ―考えるべき時間にポカンとしているからまるで関係のないものが気になって仕方がないんだろう…そうやって延々と同じ時間を繰り返して皺だけが増えていく、まったくぞっとする話だぜ、どうしてそんな人生を生きられるのか俺には理解出来ない、つま先の形の良し悪しを比べてる連中なんかに関わっている時間なんかないよ、俺が欲しいのはいつだって俺のことだけさ、いま立っているこの場所のことさ、いまこの時、いまこの場所にどんなものを残せるのか、俺はいつだってそんなことを考えて生きているんだ、吐き出す時間が足りない、それはどれだけあっても足りない、いつだって言葉を並べているわけにはいかないし、ときには下らないことで中断を余儀なくされる、そんな中でも電流は身体を巡り続け、無意識の思考が生み出す不定形のイメージは脳味噌の中に次々と放り込まれる、俺はイマジンに喰らわれている新種のいきものだ、さあごらん、枠を持たないものはどこまでも走ることが出来る、俺のようなもののひとときをもしか君が目に止めてくれるなら嬉しいね、挨拶程度の熱意で構わない、俺のようなやむにやまれぬ気持ちを、他の誰かに押し付けようなんて思わないよ―こんな俺を不幸なやつだと思うかい、なにかにとり憑かれた異常者だって…そう思われてもべつに知ったこっちゃないけどね―俺にとっちゃそれはなんの関係もないことだから―だけどひとつだけ言わせてもらうなら、俺、こんなことをやり続ける人生がこの上なく楽しいんだ、だから、そう―こんなことが頭の中で起こっている限りは、くたばることはないんじゃないかって、俺、そう思うんだよな―。
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