血の海に、沈み
まといつく生体という粘りを
掻いて
己の意味を知る
人が嘘をつくようになったのは
言葉と、血を
切り離したせい
息を継ぐたびに
錆の味がする
生温かさは
すなわち厳しさだ
もう少し先へ行け
もう少し先へ行け
何のためにそうあろうとするのか
真理は
諦めさせてくれない
身体は軋み始める、泳ぐほどに
果てしなさばかりが明らかになる
一秒を背にし、一秒が通過し
一秒の、未来がある
すべての生業に、それらがまといつく
まといつく
生体という粘り
泳ぎ着かれると浮かぶ
仰向けになり
背骨をあるべき形にすれば
身体は、沈むことはない
漬かりながら、揺れながら
もはや追うことをやめた、理由について考える
答えを出すための思考ではない
焦りを取り去るための、遊びのようなものだ
たとえばおれがあなたに、そのことについて伝えようとすれば
一日二日じゃ足りないだろう、たとえばそれが千夜一夜でも
語り尽くすことなど出来はしないだろう、しかも
それは空のように日々変化していて、昨日と同じ言葉では語れはしないのだ
修正しながらほんの少しの変わらないものについて
語り続けようとする試み、執拗に続く念押し
たとえばあなたがそのことについてまったく理解出来ないとしても
おれは全然かまいはしない、おれは
おれは何らかの手段としてこれをやっているわけではないのだ
血にまみれていると母親を思い出すだろう
その中を泳いでいると父親を思い出すだろう
血まみれの世界で懸命に泳ぎ続けていると
おれであることを思い出すだろう
おれは常に忘れ去られようとする
おれそのものと日常はリンクすることはないからだ
朦朧とした肉体が移動するあいだ
おれそのものは嵐に耐えるようにどこかにしがみついている
一度はぐれたら終りだ、一度はぐれたらそれでお終いだぜ
そこに残された肉体はおれがもっとも忌嫌うものでしかなくなる
おれはしがみついている、懸命に
懸命に血の海を泳ぎ続けるために
そう、あえて理由というものがそこにあるとすれば
それはおれそのもののようなものだ
生存しているという事実が求めるもののところへ懸命にたどり着こうとする
それ以上の能書きはもう何も必要ないだろう
おれは語り尽くしはしないのだ、語り尽くせるものでもないし
語ることそれ自体にもきっと意味などはないものなのだから
答えを出すための生業ではない
むしろそこが答えになってしまわないように
懸命に結論であることを拒否するのだ
一度はぐれたら終りだ、一度はぐれたらそれでお終いなんだぜ
一秒を背にし一秒が通過し一秒の未来がある
おそらくはそれが一秒のままであることを感じ続けるために
出し惜しみするなよ、どうせすべてなど夢のまた夢だ
いま語れることはすべてさらしておかなけりゃ
明日にはきっとどこか信用の置けない代物になっちまう
おれやあなたにどんな確信があろうとなかろうと
それだけが語るわけではないのだから
血の海を泳ぎながら
もう少し先へ、もう少し先へ
おれやあなたのままでありながら
いま話せることのすべてを言葉にしておくのだ
一秒一秒に遺言を残すのだ
一秒と同じように、背に、そこに、未来に存在する遺言を
少なくともそのことだけは、おれは信じ続けていくだろう
たとえばそれが嘘だろうと本当だろうと
そのことだけは信じ続けていくだろう
血の海に浮かびながらときどきは夢を見る
たとえばそれは結論でありながら進行し続けているおれであったりする
それはたぶんおれが望んでいるもののかたちのひとつなのだろう
泳ぎながら望んでいるものの、かたちのひとつなのだろう
生温かさは確かな厳しさだ
最後まで生体である為のパスポートだ
血の温度と匂いの中で成就するもの
おれそのものであることを忘れてはならない
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