不定形な文字が空を這う路地裏

六月の間の抜けた錯乱






フロアーに突っ伏して嗅いだ、マイナスの圧力の臭い
上手にやり過ごすには手持ちの駒は足りなすぎた
数時間前から頬に張り付いたままの汗の粒が壊れたとき
二度と思い出したくないと思っていた様々なものが溢れた
救われるために追い求めているのに
見たくも無いものばかり目の当たりにする
本当のことに嘘だと注釈をつけ続けていたら
誰も寄り付かない笑顔を浮かべる人間になっていた
口下手は病の断層に手を掛け、言葉は音にならず痛む歯の隙間から零れた
懐かしく思うのはいつも行ってしまった人のことさ
あの時上手い言葉が言えたならなんて思ってしまうのはどうしてなんだろう
繋ぎとめたところで生活はきっと色を変えたりなどしなかった
結局は対面の無いキッチン、上手にやり過ごすには手持ちの駒は足りなすぎた
仕方が無いので胡椒と対話をする
「明日は雨になるらしいよ。」「やだなぁ、蓋をちゃんと閉めといてくださいね。でないと湿気て使い物になりませんよ。」昔そんな朝があったことを彼女は責めているのだ
上手く彼女の目を見れなくなったので醤油に話しかけた
「この前冷奴を食べたのはいつだったっけ?」
気が向いたときだけ優しくするのは辞めて、と彼女はすげなくそう言った
そんなにも醤油が傷ついていたのだということを知って愕然とした、孤独はすべての声を聞く
いつの間にか箸を握る手が震えていた
こいつは俺のことをどう思っているんだろう?
「まあ、折れるかなんかするまで使ってくれればそれでいい。ほかに何も望んだりしない。」「本当に。」「だって、面倒くさいんだもの。箸供養に連れてってくれ!…なんて言い残すのはさ。」
それでどうにか朝食を食い終わることは出来た
なんとなくうしろめたくてすぐに全部洗った、醤油はまだ不満そうな顔をしていた、ソースがそんな彼女を鼻で笑っていた
携帯プレイヤーのインナーフォンを耳に突っ込んで録りためた唄を窓辺に座ってずっと聴いた
「あなたもいつか私を忘れてしまうんでしょう」と誰かが歌った、それが真実なのだということを
ひどく強く思ってめげた
「お前はハッピーか?」と問いかけ続ける曲の途中でぷっつりと途切れた
忌々しいので充電は後にすることにした
誰かと繋がりたくてパソコンのスイッチを入れたが
そこにはほしいと思えるような温もりは無かった
せいぜいHDDが熱を持っただけだ
クーラー買わないと故障しちまうな、そしたらこいつも俺を見限るのかな
ああ、初めて知ったよ、意気揚々といろいろ綴ってみちゃ居たけれど
ショックなんて言葉に出来るようなものじゃないんだ
みんな
俺が本当に醤油と話が出来るのかどうか
きっと
そこのところばかりを知りたがるのだ、孤独はすべての声を聞く
見上げた太陽が楕円に歪んだ、梅雨も間近だというのに



やけにすっきりと晴れた六月の初めのことだった

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