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不定形な文字が空を這う路地裏

街のにおいを少しだけ嗅ぐ






ハイブリッドタイヤでアスファルトにプレスされた鳩が、赤い薔薇の刺繍のついたスカーフの様になって風になびいていた。眠り過ぎた瞼が熱を持っていて重たかったが、コンピューターでプログラムを書き換えたみたいにすぐになくなった。橋の上から川面を眺めると、雲間から太陽が覗いて小さな波の先端に光の粒を撒いた。住処からそう遠くない小さな本屋に雑誌を買いに行ったんだ…絶望みたいに冷たい風を正面から浴びながらね。本屋の近くに、ずいぶん昔に閉店した飲食店の廃屋があって、年端もいかない連中がしょっちゅうそこに忍び込もうとして窓やら壁やらに穴を開ける。近頃じゃバカでかい板で窓のほとんどを塞いでいる。その都度きちんと処置されているということは、管理してる人間が近くにいるらしい。その廃屋のすぐ隣にハイグレードマンションが建つことになって、何ヶ月か前から工事が始まっている。屋根に穴の開いた廃屋とハイグレードマンション。工事が完了すればそれはまるで、バランスの悪い双子みたいに見えることだろう。ミック・ジャガーがブレイク・ザ・スペルと歌っている。獣のような唸り声だ。それは俺の歩く速度にある種の呪いをかける。生きながら…ブルースに葬られ。その言葉がどんなことを語ろうとしていたのか近頃はよく判るような気がするよ。工場の機械のうねりがまだ耳に残る、自分の身体が溶解されたなにかの原料になったみたいな気がする、ドロドロに、溶けた、高熱の、なにか…それはなにを形作ろうとしているんだ?どんな製法でもって、どんなニーズに答えようとしている?タフで、ハードなものか?あるいは、順応性に秀でたものか…。本屋の前の小さな信号を渡る。本屋に入り、目当ての本を見つけるが、店の中には誰も居ない。小さな店の中をしばらくうろついていると、店主が戻ってくる。俺は気付かないふりをして、とある週刊誌の見出しを少しの間読んでいた。落ちぶれた元アイドルがアダルト・ムービーで痴態を晒したそうだ、ふぅん。きっと、なにをやったって追いかけて来てくれるヤツはいるんだろうな。そんなヤツらを最後まで大事にしたら、もしかしたらそれは彼女の勝ちってことになるのかもしれないな。拍手も、称賛も、スポットライトのひとつもない勝ちかもしれないけどさ。薄暗い店内の照明のなかで読むそんなニュースには、なにかいまの気分にしっくりきすぎるものがあった。本を閉じて、レジで精算してもらった。店を出た途端に強く冷たい風が横から叩きつけてくる。巨人の平手を喰らったような感じさ、コミックでよくあるだろう、人間離れしたサイズの悪役とかさ…あんな感じ。信号を待ちながら何事かを考えたのだけれどすぐに忘れてしまった。赤信号に変わるぎりぎりで突っ込んできた車のステレオから聞こえていたくだらないヒップ・ホップのせいさ。打ち込みのビートで身体を揺らすような真似だけは絶対にしないぜ。信号を渡って、特別用事もないがコンビニを覗く。まだ時間が早いせいか、あまり人気はない。オカルト雑誌とゴシップ誌をしばらく立ち読みして、なにも買わずに出た。まだ昼前だというのに学生の姿が目立つ、試験期間中かなにかだろうか?学生のスケジュールなんかにもうどんなリアルも感じることはない。ほんのわずかな距離を歩いただけなのに、もう身体が冷え切っている。ウンザリする。そして、寒波のせいに出来ることに少し安心する。少なくとも今日という日にはそういう拠り所がある。正しい、正しくないに関わらず、理由というのはあるにこしたことはないのさ。家の鍵を取り出して玄関を開ける。朝日以外はよく当たるこの家。少し身体を伸ばす。なにかを始めなければならないことは判っている。けれどそのためには、もう少し悪くない気分とやらを味わっておかなければならないのだ。

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