不定形な文字が空を這う路地裏

飛翔




冷めた夜の景色の中へ、僕は駆け出す
説明出来る事柄など、指先ほども無かった
だから踵を返して、君の前から踵を返して
こんなにも遠い夜の中へ駆け出していくんだ
恋人、哀れに思うのは止めてくれ
君を満足させる為に道化を演じた訳じゃない
ああ、いつの間にか
世界は冷たい風が吹き始めたんだな
寝苦しいほどの熱は
いったい何処へ逃げてしまうんだろう
走り出すことなど長いこと忘れていたのに
信じられないほどに膝はよく動いた
悲しみから逃げるための羽根を手に入れた
そんな気がして
いつしか僕は笑い始めていたんだ
ああ、恋人
別れは不幸ではない、きっとそうだ
足りないものを知る為に一人に戻るんだ
街の魂の様にネオンが歪んでいく
余計なフィルターが多分
さっきから僕の目を覆っている
恋人、君は鮮やかに駅へ向かうだろう
それが大人の態度だときっと信じて
街の魂はますます増してゆく
君が僕を引き止めないで良かった
ピエロ、何処まで飛んでゆく
勇敢な振りをしたピエロ、明日は
ステージ・メイクの必要が無いな
素敵だろう、その悲しみを
僕は自由と名付けていたんだぜ
自由になれたら素敵だなんて
盲目な夢をよくもよくも
君はきっと呆れた様に笑って
僕をリストから削除するだけだろうさ
走る、走る、走る
夜のリズムを変える様に懸命に
どうしてこんなふうに走ることが出来るんだろう
君の姿はとうの昔に雑踏の中へ消えただろうに
僕はいったい誰から逃げているんだろうと思いながら
真夜中の雑多な雑踏の中を不似合いな必死さで走り続けた
街の魂は次第に消えてゆく、どうして
どうしてそれは流れてしまったのだろう
歩道から車道へ、車道から歩道へ
動きを止めないことだけがすべてだった
疲れないことに気付いた時そのことが分かった
自由だ、僕は叫んだ
それが夢でも現実でもどうでもよかった
僕のことを知らない誰かが
僕の思いを知らない誰かが
僕を奇異な目で見つめていたって
そうだよ、他人
僕のこの回転は
君の何十年にも相当するよ、分かるかい?
移動することがすべてだ、動き続けることだけが
君は何処にいる、君は何処にいる、君は何処にいる、君は何処に
まさか今でも
僕の知っている番地に住んでいるんじゃあるまいね?
叫ぶことが出来なくなっても走ろう
出来るだけ無様な姿を晒せるようになるまで
僕は走る、僕は走る
君の移動など僕の足元にも及ばない
どれだけ泣いても足りないほどに僕は身軽になったんだ
畜生、この街は狭過ぎる!
横断歩道を叩き割って新しい道を歩いた
クラクション!せいぜい鳴らすがいい、僕は怖がらないぜ
お前のタイムスケジュールなんて
僕の犠牲に比べたらゴミ屑みたいなもんさ
降りろよ、降りて隣を走ればいい
煩わしいことなんか多分無くなるぜ、生きてる分だけ地面を叩くんだ
アクセルがとうに錆付いてしまったことに気付けないなんて!哀れだ!
ああ、哀れだよ!お前!
長い坂道の下に見える停電の様な世界、僕はそこを目指して走る
あそこに行けば眠れる気がするんだ、誰のことも恨んだりしない
あそこに行けばきっと眠れるような気さえする

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