猥雑な今日が
冬に凍りつき
床に転がされている
意味など
求めなくなった
そのほかの
どんなものにも
そんな気づきが
人を
どこかへ連れて行ってくれるなんて
寝言も
いいとこだ
午前零時は
死体の心情を染み込ませる
ゆっくりと横になると
寝床からは
解剖室のにおいがする
(待っているのか?切り込まれ、取り外され、引きずり出され、まさぐられた挙句、昨日の新聞のように捨てられるのを)
いつかその刃先が
この皮膚を突き破る気がして
乾いた唇を舐めた
生は
そのときの唾液の味くらいだった
浴室で思い出した歌が
眠りに落ちる直前まで頭の中で流れていた
いつからだろう
古い歌を思い出すとき
そのとき自分が幾つだったのかと探るようになったのは
(それは文字すら読めなくなったページのようなものだ…そこになにを見つけようとしている?)
そんな夜に見る夢からは
色褪せたヌーヴェルバーグの燃えかすが散る
最後の小節が終わる前に
脳味噌に突き刺した文節は放電するだろうか
魂の重力が無くなる丑三つ時に
圧縮されて隅へ追いやられた思考のなかへ潜り込む
おぞましい感情の成れの果てを掻き分けながら一番奥へと辿り着くと
死の予感のようなものに脅かされて目を覚ましてしまう
尿意の有る無しに関わらず便所に立ち
搾り取られた今日を垂れ流して
もう一度横になると
解剖のあとそのまま残されていたおれの内臓のなかに飛び込んでしまう…冷やかで
それでいて熱を秘めたふしぎな器官の感触
(直接的な死のイマジネイション)
飲み込むにせよ飲み込まないにせよ
今夜安らかな眠りぐらいは与えてくれないかい
分解されて要らなくなって
詰め込まれた特殊なビニールのなかでも構わないから
結露する窓には
選択されなかった言葉たちが張り付いて下手な詩を作っている
目障りなので拭き取ったが
少し経ってみるとまた現れていた
おれの気に食わないやつら
ことさらに詩と叫ぶ連中が
好んで書き殴りそうな言葉たち
悪いな、この部屋じゃお前たちに意味を与えてくれるものなんて
絶対に
居ないんだ
やつらは遺言のように
水滴と一緒にささやかな流れになった
許可されなかった文面のように
幾つかの筋で消し去られた
選択されなかった言葉たちが遺言を残すときは
それまでの意味合いをすべて反故にしてしまうものだ
おれは、目を閉じ、呼吸に耳を澄ましながら
自分が幾つかの部品の塊になって
しかるべきところへ廃棄されることを想像してみる
同じようなもの…ざっくり言えば
ほかの誰かの臓腑と仰々しい車の荷台にぎゅうぎゅうに詰め込まれて
専門の処理場に送られる、そんな場面を
そのとき、弐台のなかで隣り合わせたおれとその誰かは
果たして挨拶ぐらいは交わすだろうか
あるいは
どちらかが喋り始めるのを
待って
結局すべてのタイミングを逃してしまったりするのだろうか
細切れ死体になったってたぶん変わりゃしないだろう
コミュニケートすることに積極性を持ち始めると
後々集団性の盲目になること受けあいだ
そうしてそのまま
処理場のコンベアに乗せられ
赤々と燃える火のなかへ落とされるだろう
焼失の予感に取り巻かれながら
部品となったおれはなにを思うのだろう
これまでの人生を思い返したりなんてことは
もう、とっくに、済んでるだろうし
ただただ当てもない旅を続ける旅人のように
流れに委ねて揺れているだろうか
不意に、激しい炎が踊る音を聞いた気がした…想像の中ではない、目を閉じていた現実の世界での出来事だ
おれは音のもとを探した、そんなふうに聞こえるかもしれないあらゆる物音について検証してみた、睡魔はその間にまた逃げ出してしまった
炎のように踊りそうなものはこの部屋にはなかった
だいいち炎のように聞こえそうなものなんてこれまでに見たことがない…目を覚ましていても想像は続いていた
部品となったおれはそのまま燃え盛る火のなかに投じられ
なにを思うでもなくただ燃えていった
あちこちでおれが焼けるにおいがした、凄く強烈なにおいだ
じりじりと人体の脂が燃えていく音をおれの耳は確かに聞いていた
そうして想像は終わった
なにかが視界の隅で発光したような気がしてそちらに目をやると
選択されなかった言葉たちが赤々と燃えていた
おれは椅子を持ち上げ
窓に叩きつけた
派手な音を立てて窓ガラスは砕かれ
椅子は缶ビールの空缶のように空地に落ちて行った
一瞬愉快な気分になったが
吹き込んでくる冷たい風にあっという間に正気になった
ちくしょう
今夜はとても眠るどころじゃないぜ
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