不定形な文字が空を這う路地裏

ディーンの死を待ち続けている物陰のお粗末なヒーロー













ジェームス・ディーンを待ち続けているんだろう、自意識ばかりで能のないおまえの代わりに
鮮烈なフレーズをつぎつぎと吐いてくれるジェームス・ディーンを
おまえが何か鬱々とした気分を抱えて無力な涙を流しそうになったとき
おまえの代わりにリスクを背負って馬鹿な真似をやってくれるジェームス・ディーンを
違反の切符を怖がるおまえの代わりに、高速道路を200キロで走ってくれるジェームス・ディーンをおまえは待っているんだろう
そしておまえの一番いい時期に、不幸な死を遂げてくれるジェームス・ディーン、おまえはここぞとばかりに涙を流して、しばらくの間何も手につかない振りをする
そうしていつの間にやらおまえは大人になり
いろいろなことについていっぱしに語れるようになる、どっかで聞いたようなフレーズ、どっかで聞いたような決意、おまえの言葉はうわっつらの社会だけで見事に評価される
そうしておまえは卒業の証として、若き日のアイドルを執拗にこき下ろすのさ、おまえが憧れたすべてを―おまえ自身の虚栄心を満足させる、そのためだけに
社会的意識、社会的意識、社会的意識ってやつだ、あんなに嫌がってた社会的意識とやらにおまえはどっぷりと浸かってる―得意になって中身のない理論を延々と展開する、おまえのアイドルだったディーンをもっと確かに知っているやつらの前で
気分がいいだろう、まるで、そう―高速道路を200キロで走っているみたいな気分だろう、そしておまえは言うのさ、「交通ルールも守れないやつは駄目だ」って
おまえはそれがしたくてしたくて一度も出来なかったくせに
そうしておまえの一日は終る、得意になるための一日、ジェームス・ディーンはもういない、だけど、おまえはもう悲しむことはない
よかったじゃないか、おまえに取っちゃディーンは、おまえの主張を輝かせるだけの道具に過ぎない、好きだったなんてもう嘘だろ、校庭に隠れて煙草を吸うみたいなドキドキをおまえは味わいたかっただけさ、所詮は思春期から大人への定番コース―お前は定番でしか居られない男なんだ、志なんて見せかけでいい世界
ディーンが死んだ、おまえは笑う、ディーンが死んだ、おまえは笑う…そうやっていろんなものを利用してきたんだろう、おまえがおまえをでかく見せるためには、足元にいろんなものを積み上げるしかないもんな
さて、おまえが人生の材料にしたディーンの事を、俺はもう少しよく知っている、あいつが残したものともう少しよく向かい合ってみる事が出来る
俺には本質以外にいろいろと気にしなければいけないものなんてないから
リアルな感覚じゃない、リアルな感覚じゃない、ちっともリアルな感覚なんかじゃないぜ、おまえが口にしているイデオロギーは
電車の中吊り広告程度の薄っぺらさしか感じない
そしておまえはまた待っているんだ、おまえを救ってくれるのではなく―自分の価値を吊り上げるのにちょうどよい無謀なジェームス・ディーンを
まるで獣のようだ、まるで獣のようだぜ…と言っても、ライオンやトラやヒョウや―もちろん飢えた狼なんかじゃないぜ、おまえの目付きは
まさにおこぼれを待っているハイエナさ、ただで上手いものにありつこうとしてるんだ、誰かが必死で追いかけたものを横取りする事で―それが自分の手柄であるかのように見せかけるのさ…自分で手に入れたイデオロギーのように見せ付けるんだ…そこにはおまえ自身の血は一つも流れていないというのにな
ジェームス・ディーンを待っている、ジェームス・ディーンを…ジェームス・ディーンの事をおまえは待ち続けている、おまえの目はランランとえげつなく輝いて―
よう、息巻いているな
標的は見つかったかい?そうだよおまえはヒーローだ、血を吐く思いで人生を駆け抜けた誰かに―





影から唾を吐くだけの輝かしいヒーローだよ

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