不定形な文字が空を這う路地裏

無味乾燥(フィルターごしの痛み)






ふとした瞬間に明日の自分がない気がして
薄ぼんやりとした目覚めに足元がぐらついた
何かが自分から逃げていった
そんなふうに感じる瞬間が確かにある




枕もとの古いデジタル時計で
時刻のほかに年号と日付を知ることが出来るが
それが何かをもたらしてくれるかといえばそうでもなく
ただ些細な約束を忘れないようにとか
そんなことにほんの少し気を配りやすくなるだけ
いくつか電話をかけなければいけないけれど
今日じゃなくてもかまわない気がする
そんな風に先送りにしている間に
知らない間に一週間が過ぎようとしていた
置いていこうと試みるものはいつでも先に置いていかれる
恨もうにもわきまえてしまっているんじゃ拳の振るいようがない



痛ましい事故で視聴率を稼ぐ午後のワイドショー
赤ん坊を過熱した話なんて聞きたくもない
キャスターが眉をひそめる度に
お前の良心は見せるためのものかと問いかけてしまう
被害者は料理番組の食材のようなもの
綺麗に切られて焼かれて何ぼ
湿気たインスタントコーヒーの瓶の底を叩いて
抵抗する粉をカップに落下させた
乱雑に沸いたミルクパンの湯を注ぐごとに
悲鳴が聞こえたのはもしかしたら幻聴ではない
コーヒーを飲み干してそれから
もしも出来るなら君に元気かと手紙を書いてみたい



だけどそんなのはていのいい日常の
エッセンスみたいな感情でしかない
取り戻せないものに手を伸ばして見せることは
幼さという純朴をことさらに主張して見せるようなものだ





充分に冷まして飲んだのに喉を火傷した
これで



今日口に入れるものの味はまるで分からない

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