不定形な文字が空を這う路地裏

ロスとロス (流し込むあいだの)










もう一度ぐらついた壁を蹴り飛ばして貫けるかどうか確かめてみた、そいつはいまにも壊れそうな悲鳴をあげるくせに、絶対に壊れてしまうことだけはしなかった、それだけは譲ることはなかった、それで俺はシンパシーを感じて、それ以上そいつを蹴り飛ばすことはしなかった、俺がなにもしなくなったのを悟ると、そいつもなんだか親密な空気を出してき始めた、このところこんなものとばかり心が通じている、そして俺はそんな環境を結構気に入っている、なにしろ人間なんてものには交わる価値なんて爪の先ほどしかない、言ってみれば自分ではない人間が何をするのか、なんて、それ以上の興味なんかないのだ、壁や鉛筆やハサミとは違う、そいつらの感情は俺の好きに塗り潰すことが出来るからだ、木の早い連中はこの下りで俺の考えを批判しにかかるだろう、だけど考えてみなよ、俺は壁の心境について考えることが出来る、やつらにはそれは決して出来やしない、俺が考えていることだってきっと、確かな壁の気持ちではない、だけど俺には少なくとも、それについて考えてみるだけの思考のクッションがある、やつらには一生得ることのないものだ、そして俺は壁にもたれかかる、マーケットで買ってきた自然食品を齧りながらそうして壁と話をする、もちろんなにも喋ることはない、壁には耳も口もないからだ…ことわざを別にすれば…雨の上がった夜は穏やかだが蒸し暑い、エアコンはご様子伺いのような風量で稼動し続けている、エアコンの気持ちについて考えることはしない、なぜならあいつはおんぼろな壁に比べればはるかにプロだからだ、おのれの役割について存分に理解していて、存分にその力を発揮することが出来るからだ―しかもそのポテンシャルは一年を通してほとんど落ちることがない!なんという素晴らしいやつだ―食うのに飽きると冷蔵庫を開けてドリンクを取り出す、甘いもののときもあるし、炭酸のときだってある、酒のときもあるし、水のときだってある、なにかを食べればなにかを飲みたくなる、それがなにか以上のものである必要なんてない、なにか程度のものであればいい…ときどき、すべてのものにオリジナリティを追及している人間が居るが、そんなものにはなんの意味もない、どうでもいいものにある種の縛りを作ることは、ただ生き難くなるだけに過ぎない、ただ項目が増えていくだけのことを俺は美学だなんて呼んだりしない―そして相変わらず窓の外の表通りに耳を傾けている、平日の夜で、しかも長いこと雨が降り続いていたとあっては、近くの繁華街から帰ってくる無邪気なヨッパライの声もほとんど聞こえてこない、車のお供心なしかまばらな気がする、まだそんなにみんな黙り込む時間じゃないのに、不思議なほどに街路はとりすましている、もちろん俺にはそれは望むべき環境だ、この街の人間は下らないことで騒ぎ過ぎる…睡魔はときおり受信するラジオみたいに途切れ途切れで、そんな有様じゃ寝床に潜り込もうなんて気分にはならない、ましてや今夜は心地よい静けさがある、睡魔が完全に脳髄を駆逐するまでこうしていようと思う―明日の予定があるから、一日中働き続けるから―そんな理由で一日のお終いを前倒しにすることをいつからかやめてしまった、そんなことにはなんの意味もないってことが判ったからだ、いや、違うな―そんな行動に意味を求めることをやめた、とでも言えばいいのかな…?そんなもの結局のところ自己満足に過ぎないのだ、自分がそれだけ真面目な、しっかりした人間だなんてアピールなのだ、ときどき目も当てられない自分のことをなだめるための―調和なんて俺には必要がない、世間的な真面目さなんて俺には必要ない―それにはそれにふさわしい人間というものがごまんと居る、壁の気持ちが理解出来ない人間のことさ…丸一日なにも口にしかなかったせいかひどく喉が渇く、俺は少しの間水分を流し込むだけの人間になろうと思う、冷蔵庫の中にはいつでも変化を楽しめるだけのドリンクが置いてある、「変わらないのは変化だけだ」ルー・リードの名言さ―一般的にはそんなに気にされてはいないみたいだけどね―あるロック雑誌のインタビューで目にして、それ以来ずっと気に入ってんのさ、もう二十年くらい前なのかね?「マジック・アンド・ロス」とか、確かそのころのインタビューさ…こんなふうに自分の詩の中に持ち込むのももう何度目かになる…ところで、これはただの指ならしだ、これにたいした意味なんかないし、ここに読み取るべきなにかなんて微塵もない…ここまでお付き合いいただいた奇特な君にはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだ…。

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