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不定形な文字が空を這う路地裏

はちがつ







真昼の太陽が照りつける小さな公園で炭酸がすっかり抜けてあまいだけになったぬるいコーラを地雷処理班の様な真剣な表情で飲みほしたきみはぼくの伸びすぎた不精髭に眉をしかめて公衆トイレに走って行った、きみが何をするのかわかっていたからぼくはあとを追わなかった、炭酸のすっかり抜けたぬるいコーラは、きみのある種の性癖の起爆剤としてもっとも適切、耳をすませば小さな嗚咽すら聞こえてくるようだ、20分ほど存分に青春を謳歌してきみが戻ってくる、「お待たせ」と言いながら。

ぼくは黙って頷く、きみにしてみればそれは本当にそれは公衆トイレの個室を使用したというだけのことに過ぎない、もちろんぼくはそのことについてあれこれと文句や注意をする気などない、あるときどうかそんなことしないでくれと頼み込んでやめてもらった数週間の、なんと地獄だったことか!

ここ数日まるで足早に秋がやってきたみたいな過ごしやすい午後が続いていたが今日はなんだか死にかけていた夏が突然息を吹き返したみたいに暑い、きみは襟元を気にして小さなタオルでしょっちゅう拭いていたけれど、致命的な欠陥のある住宅のように汗は次々ときみの組織を通過してくる、深いところの血管を切るとこんな風に血が滲み出てくる、とぼくは思う、赤と青のふたつだけのシグナルが点滅すらせずにひっそりと変わるみたいに。

出来ればこの公園をあとにしてどこか涼しいところで夏の悪あがきを堪能したいのだけれどこんなに暑い中なのにきみの顔はまだ色を失ったままで触れようとすれば透き通るんじゃないかというくらいに青白くてぼくは少し目を閉じる、その一連の動作に一片の個人的感情すら混入させないように注意しながら、そうして蝉の声を聞いている、そうだ、今日は道に転がっている蝉の死骸を拾い上げようとしたら激しく鳴いて飛んで行ったみたいな、そんな夏だ。

その蝉の声が一段落したところでもう大丈夫だときみは言う、「汗臭くなっちゃう前に避難しようよ」と言う、そんなのぼくのほうはとっくに手遅れな状態なのだ、ここで流した汗のほとんどが冷汗のきみと違って。

どんな気分だ、日常的な逆流の中で冷汗を吹き出しているのは、とときどききみに尋ねたい気がして、そのたびにぼくは自分がひどい馬鹿になったような気分になる、そんなこときみがきみ自身に問いかけていないわけがないのだ、「そうだね」と言ってぼくは立ち上がる、髪の先に乗っかっていた汗が飲み込んだ言葉とともに落ちる、そんな夏の風景って妙にあとあと記憶に居座るんだよな、とか思いながらぼくはきみの手を取る、近くの自動車工場で流れてるAMラジオから井上陽水のあの歌が流れる、それは陽水とはまるで関係のないところで、無個性的なくだらないものになり下がってしまっている。

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