雨上がりの朝、快晴の路上で渇いている君の瞬間の思想は、枯れた蒲公英のように末期だ、種はすべて失われてしまった、理由を残していながらもう形骸化している、あとはチョークみたいに安直に折れるだけ、秋風に煽られて…細かくちぎれて居なくなってしまう、微かな傷口から零れた血のようにポツポツと残された欠片には、もう存在しないという力だけがありありと刻まれている、緑色の虫がそのそばで腹を見せて死んでいる、はるか頭上、はるかはるか頭上では雲が、空のフィールドを追い出されるかのように気忙しく流れている、十月の特記されぬある日、そんな風に飛散してしまう瞬間の思考について、爪を噛みながら俺はずっと考えている、ずいぶんと気温は下がり、日が陰る時々なんかは震えが来るほどで、怖いんじゃないね、なんて、古い歌を思い出してみたり…そんな緩慢とした時間の流れの中に居ると、カンバスに分厚く塗られた絵具の中で生存しているみたいな気分になって、どんな絵筆ならそれを綿密に解きほぐすことが出来るのかと…そんなプロセスは希望のようであるし猜疑心のようでもある、もっともその二つがもともと異なるものなのかどうか俺には断言出来ない、テーブルに思いつく限りの単語を並べて…テーブルに思いつく限りの単語を並べて、どうにか辻褄が合う形でまとめ上げられないか?放置された寝床の上では、明方の夢の続きが雑草のように繁殖している、遊技場の廃墟の中で戯れに無秩序に並べられたボーリングのピンのようにそいつには意味がない、まったくのゼロだ、まったくのゼロなのに繁殖している、手遅れのように…いっそストライクでも狙ってみるかい…?君の、俺の、特記されることの無いある日、君と俺の時間軸は同一の線を辿るだろうか?答えはノーだ、そんなこと絶対に有り得ない、俺と君が例えば取って代わることが出来る命でもない限りだ―朝と夜が同時に存在することがないように―個体である理由とは何だろうか?君にはそれが解明出来るか?俺には出来ない、そしてたぶん君にだってそうだろう、俺たちは同一線上に存在するためにこの世に弾き出された生物ではない、ただ一定の時間、互いが互いを必要とする間、限り無く近しい線上に存在しようとし続ける、そんな境界の上に成り立っているのさ、雨の日のフロントガラスのように時々虚ろに歪む視界に辟易しながらね…詩文が必要だと誰かが言う、音楽が必要だと誰かが言う、絵画が必要だと誰かが言う、そして、そのどれもまったく意味の無いものだと言う誰かも居る―真っ白な口笛がおそらくは自転車に乗っている誰かの口元から聞こえる、不十分なハイ・トーンを歌うスクーターの誰か、北から南へ歩いてゆく陽気な酔っぱらい、通過してゆく、通過してゆく、通過してゆく、通過してゆく、夜に跳弾する、夜に跳弾する彼らの覚束ない存在、食卓の上で凍りついた歌をただただ数えている…その歌を乗せた皿の側に愚かな群集のように飛び散った血は誰のものだ?もしも俺のものであるのなら俺がそうと気づかないはずがない、そこには必ず俺の臭いというものがあるからだ―血―俺は過去に流れた血というものを想像する、過去に流れた血というイマジネーションに捕われる、イマジネーション、インスピレーション、それはどこからか俺の脳内に入り込んでくる、マジシャンが思い通りの場所にカードを差し込むみたいにそれは忍び込んでくる、過去の血、それが過去のものなら臭いを持つはずがない、臭いを持たないのならそれが誰のものなのか判るはずもない、食卓の椅子に腰を下ろし、過去の血と語り合う、俺の家の食卓にこの血はあるのだから、余程の奇妙な事情出ない限りこれは俺の血に違いないだろう、だけどなんだ?この例えようもない違和感は?―所詮リアルとは、進行形の時間の中にしか存在しないものなのだろうか?この血は、この血は俺のことを語らない、俺から流れる血のように俺のことを語らない、例えるなら俺の死体が、おそらくはほとんど俺のことを語ることがないのと同じように、ただただ渇いてこびりついている―ただただ渇いてこびりついている…一瞬窓から迷い込む鋭い灯り、あれはトチ狂った車のヘッドライトだろうか、サーチライトのように―まるで俺を誰かが捕らえようとしているみたいに―一瞬窓から迷い込む鋭い灯り、でもそれはそれ以上どんなところも照らすことはない、少なくともここに関係する場所は―時は、時はリアルと殺し合う、時が過ぎた場所にはリアルの死体が積み上げられている、リアルの死体は腐臭すらあげはしない、リアルの死に方は速過ぎる、リアルの死に方はとても速過ぎる、リアルの死に方はうんざりするくらいに速過ぎるんだ、俺は食卓を離れる、これ以上問いかけてもしかたがない、これ以上問いかけてもしかたがないんだ、すでに失われてしまったものに―スピードの中で死んでいく奴らの中に首を突っ込んではならない、それは自分の首が飛んでしまう結果になる、速度を見極めようとしてはならない、その中にどんなものがあるのかということだけ気にかけるべきだ―また入れ代った、朝だ、舞台装置が反転するように景色が、空気が、光がすり変わる、スピードの中で俺は置き去られている、人柱のように主観的な時間の中に杭打ちされて、そこを軸にして世界は動いているのだ、主導権を握っているのは誰だ、主導権を握っているのはいったい誰なんだ?人生の中心にありながら―傍観者だ、眼球が何かを捉えようとして躍起になっている、スピードの中に首を突っ込んではならない、首を撥ね飛ばされたくなんかない…撥ねられた俺の首はきっとどこまでも転がってゆくだろう、「オーメン」のあのシーンのようにさ、狂った朝、狂った昼、狂った夜、スピードは狂わせる、スピードはすべてのものを狂わせる、だけど、ただ立ち止まっているだけじゃ知ることの無い快楽がそこにあるのも確かさ…狂気の中で、狂気の渦の中で、どれほどの正気を得るのか、そいつは、自分自身のメーターの見極め次第、それだけさ、どこまでならOKなのか、そいつを見極めることが何よりも大事だぜ…しかも、それは一度間違えたらやり直しが効かないんだ、二度と、二度とやり直せないんだぜ、狂気の渦に飲み込まれて、自分じゃ何も考えられない阿呆になってしまう、あらゆる世界で「日常」と呼ばれているもののことさ、その中には思っても居ないスピードが隠れていて、それが思考を怠慢にしてしまう、進むことも戻ることもしないものをたくさん生みだして、しかもなにひとつ拾い上げることは出来ないんだ、スピードの中に顔を突っ込んではならない、またたく間に首を撥ねられて意志の無いものになってしまうぜ、見極めるんだ、それが一番大切なことだぜ―流れに乗ることが美しいことだって皆が信じてしまう、流れ?そんなものたったひとつの心に何の関係があるというんだ、たったひとつのものを信じろ、たったひとつのもので在り続けるために…無自覚に流れに乗るような真似だけは絶対にしちゃいけないぜ、すっかり暗くなったせいでガラス窓には部屋の中で立ちすくむ俺が映っている、まるで亡霊だ、と俺は思う、まるで亡霊のようだ、生きているから、生きているからこそだ、自覚的でいるからこそ―存在についてそんな印象を持つのだ、俺はガラス窓の世界に存在するたったひとりの俺と向かい合った、やつはにやにやと笑いながら、生身の俺のことを見つめていた、この夜もまた次の夜も、俺は確かな朝だけを待ち続けるだろう、そしてそれは、すでに死んだはずの食卓の血痕に、鼻を摘まずにはいられないような新しい臭いをもたらして俺を辟易させるはずさ…。
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