不定形な文字が空を這う路地裏

僕はものさしがない時代の計測法みたいな均一さで










くらい道のかどに君がいる
なにかを落とすまいとするように腕を組んで
父親の背中を見つけようとしてるみたいに前だけを見て
なのに
それがなにもかも
もはや手遅れに思えてしまうのは
夜の
ひとつのいろどりであった虫たちの鳴き声が
聞こえなくなってきたせい
9月よりも無難な月明かりが白色に金融会社の詰め込まれたビルを照らして
その反射がハローワークの三階の窓あたりに狙いをつけている
僕は
君のいるかどまで歩いていくのにどれくらいかかるだろうかと
まゆをしかめて思案してみるものの
そんなもの歩いてみないことには決してわかりっこないのだ
うまくたどりつける保証はない
君の、こぶしふたつ分くらい手前で
黒塗りのBMWが君か僕に向かって突っ込んでくるかもしれない
あるいは僕らふたりともが巻き込まれる
そしてオグリッシュのトップページに、『交通事故・日本』と記されて
僕らの哀れな姿が全世界配信されてしまうかもしれない
まあ死んでからのことなら
別にどんなことになったってかまやしないのかもしれないけれど
風が強い日の雲はうしなわれた魚に似ている
あらゆる純粋はきっと紀元前の中にあって
古風な言い回しで木箱の中にしまいこまれているのだ
僕は君のところまですぐに歩いていこうかと迷う
だけどキリンの自動販売機に新しく入った
缶コーヒーの味を試したい気持ちもままあるのだ
もしか君は僕のところまで歩いてきてくれないだろうか?
いや、たぶん
今日の君はそんなことしてくれそうもない
くらい道のかどに君がいる
君がいて僕の事をじっと見ている(父親の背中を見つけようとしているみたいなまなざしで)
届くことがないから愛していると囁いてみようか
君の表情は1mも変化することはないだろう
そんな言葉が試みで吐かれることで
事態が好転する可能性など万にひとつもありはしないのだ
月は角度を変え、風は強さを増し
僕らは洞窟の中で救援を待つ探検隊のようだ
君に伝えるべき言葉は今のところなにひとつ見当たらない
コーヒーが飲みたくてしかたがないのは意外とそんなところに原因があるのかもしれない
くらい道のかどで門柱のように立っている君は
僕がいますぐにそこまで走っていくことを期待しているのかもしれない
あるいは
そのままドラマのように抱き上げてくれないものかと考えているかもしれない
もしくは
何も考えず期待しないまま僕がどうするのかをじっと見極めようと考えているのかもしれない
正解がそのうちのどれであるにせよ
僕は抱き上げることだけは絶対にしないだろうなと思う
どこからともなく小田和正が流れてきたりしないかぎりは
僕は君の視線を少し気にしたまま
財布を取り出して缶コーヒーを買う
微糖と書いてあるくせに砂糖の甘さが鼻についた
こんなときじゃなければ
気にならない程度の甘味だったかも知れない
いつもよりも早く飲み干してしまって、特に明確に話せるような理由があるわけではないのだけれど
僕は、しまったと思い
空缶を捨てて君のほうを見る
自販機の明かりに少し慣れてしまったせいで一瞬そこには誰もいないように見えたけれど
君はきちんと暗い道のかどで腕を組んでいた
なにかを落とすまいとしているみたいにしっかりと組んでいた
僕は何度か君の名前を唇で滑らせる
どういうシステムが働いたのかわからないが
それは口腔内に付着したわずかな糖分を違う甘味に変える
そのせいで僕は勇気だか根気だかを自分の中に感じることが出来る
牛がするみたいにスニーカーの裏をアスファルトで少しならした
ものさしがない時代の計測法みたいなゆっくりとした均一な歩幅で僕は君のもとへと歩く
それは距離である前に混濁した時間のように感じる
いま僕がやるべきことは君になにかを話しかけることなどではなく
きっと
君の正面に生真面目に立って見せることなのだ
同じまなざしで―同じ




同じくらい道のかどに

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