夜の明りは窓辺の結露で最高な具合に濡れそぼっている…ごらんよ、メロドラマのように結晶化する日常の数々を、俺たちは祝福されているのさ、判るだろう―ウェディング、なんて簡単な言葉で片付ける気はないぜ…そんな甘っちょろい契約みたいな浮ついた響きに全身を投じられるものか!俺はお前と燃え盛る炎に焼き尽くされるような語らいをし続けたいんだ…約束を幾つも重ねた事を覚えているかい、いくつかは踏み潰したけどいくつかは叶えた…そしてそれはとてつもなく有意義な現象だとは思わないかい、なあ、ちょっとやそっとじゃ拭い去れないようなとてつもなく有意義な現象だって?俺はお前とこの部屋にいる、この部屋に居て、とてつもなく有意義な現象に身を投じようとしているんだ…なに、多少の意見の食い違いなんか問題にもしないよ、なぜなら俺はずっとそれを貫き通してきたっていう誇りがあるからね…お前は俺を信じないのだろう、今だって、心のどこかじゃ俺が裏切ったりするんじゃないかって勘繰ったりしているんだろう?だけどそれは別にたいした事じゃないさ、だってお前は言うんだろう「それもこれもみんなあなたを愛しているからこそなのよ。」って―だったら構わないのさ、だったら構わないんだ、俺はそんなことにちっとも頓着したりなんかしない、ああ、そいつはちっとも頓着したりなんかするようなことじゃないのさ、女は男の炎に水をかけるものさ、そうしなければ間違ってしまう事もあるからな…勢いでどこまでも突っ走ってしまって、どうにもならなくなったところで初めて間違えた事に気がついて、頭を抱え込んで動けなくなってしまう―二人がそんなところに陥らないためにお前の言うような言葉が男にブレーキをかけるんだ、俺は幾つもそんな関係を目にしてきたよ…もっともそれは、男の側にいくらかの真剣さがある場合に限っての事だ、そしてもちろん、女の側にも…真剣さとドラマツルギーは決して比例しない、ごらんよ、明りの向こう側に映る俺たちの幾つものいさかい、行き違い…それらは過去として幾年も幾つも堆積したからこそドラマティックな価値を持つものなのさ―だからこそ俺たちは燃え盛る事を許されているんだ―ロミオとジュリエットなんて飛んだ茶番劇だぜ!「だからこそ」彼等は14歳でなければいけなかったんだ、「それが許される歳でなければ」な…おい、ワインを飲もう、今日は祝祭だ、俺たちは囚人どもの祭日のように解き放たれて勝どきを上げるんだ、やったぞ、ついにやったぞ、俺たちはやったんだ―神よ、俺たちを見ろ…これこそが勝者の姿なんだ、俺たちは報われるために生まれてきた、そして、服毒や短剣なんかで決して死んだりなんかしない―そんなことで何かが報われるなんてシェイクスピアだってきっと考えちゃいないぜ…もしかしたら、あれは、そういうたぐいの物語なのかもな…あれを見て涙を流している観客どもを見て、シェイクスピアは腹を抱えて笑いたかったのさ、なあ、そう思わないか―おい、こっちへ来いよ、一緒にワインを飲もうぜ、今日のために用意させといたんだ…どうした、疲れたのか?まあいい、先は長いんだ、のんびりやるさ…おい、どこへ電話をかけているんだ?たいした事じゃないって、今電話しなければいけないような用件なのか?そうか、そんなこともあるんだろうな―なあ、覚えているか、二人で始めて動物園に行った日のこと、お前はあの時ジェラートをろくに食わないうちに地面に落としてさ、そのせいで帰り際までずっと不貞腐れていたんだぜ…そうだ、思い出しただろう―電話は終ったのか?だったらこっちへ来いよ、隣へ腰をかけるんだ、初めてのときみたいにさ…上着を取れ、楽にさせてやろう、なに、構わないって?出かけるって―どこへだ?馬鹿を言うな、俺たちは今日ようやく式を上げる事が出来たんだぞ?どんな用事があるのか知らんがそんなもの今日済ませる必要は決してないはずだ…なに、どうしても出て行こうっていうのか?俺はそんなことを認めはしないぞ、俺がどんな苦労をしてここまで来たと思ってるんだ?俺はそんなことを絶対―おい―ワインに何か―それとも
グラスに…
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