不定形な文字が空を這う路地裏

棺の蓋にはラッカースプレーでこう書いてくれ、「出来る限りの速度と力がそこにはあった」と









深遠は時を弾丸に変えて、一秒ごとに撃ち込んでくる、そのたびに俺の肉体には風穴が開いて、末端からちぎれそうになってだらしなくぶら下がる、経路を断たれた血はぼたぼたと連弾のように床に落ちてまるでイカレた塗装業者だ、ベイビー、俺はそのうち完全に分断されて細かい塵になっちまう、一生なんてそんなもんだ、一生なんてきっとそんなもんなんだよ、別にこれはペシミスティックな自慢じゃないぜ、これは決してそういうものじゃない…顕微鏡の倍率を上げればより細かい世界が見えるだろう?たとえるならこれはそういうものなんだよ、心臓が終わりを迎えるまでは、こぼれる血の音にはリズムがある、そのリズムに乗って俺は、ディスプレイの中に叫びを閉じ込める、精神の咽喉ぶえが駄目になっちまうくらいの強烈なやつを―そんなものを選ばなければ納得出来やしないのさ、だって、分かるだろう、俺の血はすでに好き勝手にこぼれ続けているんだぜ、それがどれぐらい持つのかなんて俺には分かりはしない、それがあとどれだけこの肉体と精神を生かしておいてくれるのか…もはやあらゆるイデーは毛細血管の様相だ、真っ直ぐに貫こうとすれば必ずそうなる、真っ直ぐに貫こうとすれば必ず、果てしなく複雑なプロセスを通過しなければならないのさ、なぜだか分かるか?そうしなければ到達出来なくなるからだ、生きている間すべてのことは増え続ける、デッドスペースにこっそり溜まっていくごみみたいにさ、積み上げられて、膨張しては圧縮されていく、それが繰り返される、分かるだろう、速度と力が必要になる、最初は指で突っつくだけで貫けたものが、腕になり、身体になり、やがて道具を必要とするようになる、なんでもいい、貫けるものなら、なんでも…そうしていま自分に可能なありったけの力を持って、貫くんだ、もちろん次第に一度だけじゃ済まなくなる、何度でも試みなければならない、貫くんだ、少しでも手を抜いたら、そこから先へ進めなくなるかもしれない、だって、すべては絶えることなく積み上げられているのだから、絶えず積み上げられて、こちらが圧力に負けるのを待っているのだから…同じ箇所へ、同じように、少しでも早く貫けるように、気を緩めずに―生きている限り、一人の人間がうたう歌はひとつだ、俺はそう考えている、道具とは思考だからだ、それが堆積していく日常を貫くことが出来るんだ、思考するんだ、思考するんだ、思考するんだよ、思考することが速度に繋がる、思考することがエンジンに火をつけるのさ、一度でもタービンが回る音を聞いたら、そこで生まれる熱に身体を焼かれたら、もう逃げることは出来なくなるぜ、尻尾を巻いて居なくなったら、背中から炙られて燃やし尽くされるだけのことさ、俺は消し炭みたいになって終わりたくはない、消し炭みたいになって棺の中に入りたくなんかない、俺には分かってるんだ、貫けようが貫けなかろうが、一生ここでこうして試みるんだってことが…弱い皮膚は破れ、間接は軋み出すだろう、だけどそこから逃げ出すわけにはいかないのさ、それはどっちみち死ぬことを意味するから―どうしてそれが終わらないのか分かるか?どうしてそれが終わらないのか―だからこそ限界まで生きていようとすることが出来るのだ、細かい塵になるまで生きていようとすることが…ええ、あちこちの肉をだらりとぶら下げて、ぼとぼとと好き放題に血を流していてもさ、もう駄目だと思わなければ続けることは出来るのさ、生きていなければ傷を受けることさえ出来ない、死は人生で最大の傷だからな…記録されなければならないんだ、どんな風に貫こうとしてきたのか、いくつの穴を開けることが出来たのか、そういうことは全部…誰のためにって、何のためにって…?俺が思うにそれは誰のためでもないね、それは限定された誰かのためじゃない、もしかしたらそこに何かを感じる誰かがいるのかもしれない、そうしたらそれはそいつのためのものになるのさ、ほら、化石だって、人によってはただの石だろう、それと同じことさ、あるいはただの石でも、それを美しいと感じるようなやつだって居るだろう…分かるだろう、価値なんてものは限定されることはないんだ、気に入って拾ったやつが新しい名前をつけるだけのことさ、それは貫かれなければならない、これ以上やる意味があるのかというほどに徹底的に、そうでなければそこに、なにかを試みたという形跡を残すことが出来ないじゃないか?速度と力が必要になる、だけどそれは懸命さとは違うことだぜ、言っただろう、すべては毛細血管のように複雑化しているんだ、広く、深く、張り巡らされているんだ、どんな速度で、どんな力で、それが重要なんだ、それが最も重要なことだぜ、そんな速度や力を生かすにはどうしたらいいと思う?俺は答えることが出来るぜ、つまりそれは、それをもってこうしてやろうなんて意思を持たないことさ、生まれたものは生まれたまま連ねてやることさ、それが生命を導いてきたんだ、そうじゃないか?赤子の素直さを思考の果てに体現しなければならない、俺の言ってること分かるか?それは赤子には達成することが出来ない事柄だ、赤子には何も達成することは出来ない、なぜなら赤子はそこにどんな意識も持っていないからだ、この肉体は、この思考は、すでに赤子ではない、だけど、そこにたどり着くことは出来るのさ、そのために模索を繰り返すのさ、なあ、高く飛ぶためには助走が必要だ、そうじゃないか?俺は肉片と血液を撒き散らしながら、赤子の素直さで持ってこの血を語るのさ、そこに何があるのかって?そこにどんなものが生まれるのかって?―答えはもう出てるさ、それは解答ではないけれど答えはもう出てるさ、ここまで読んだ物好きなあんたなら、薄々感づいているんじゃないのかい?ここにどんな石も落ちていなかったら、どうぞ他の土地に行くんだな、俺は別に止めやしないよ、俺は別に引き止めたりなんかしない、なんせ他に気にかけることがたくさんあるんだからな…

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