不定形な文字が空を這う路地裏

マニック・ストリート・プリーチャーズ








ブックオフでうっかり見つけてしまったそのアルバムを購入したわけは
まさかあいつらがベスト盤を出すなんて、と困ったように笑ってた
懐かしい男のことを久しぶりに思い出したから
「こんなのパンクじゃないよ」って
そいつがカーステでそのバンドを流すたびにあたしは文句を言った
「もっと激しくしてくれなくちゃ」あたしはそう言って文句を言った
「わかってないな」とあいつはしたり顔で
だからあたしは絶対に認めるわけにはいかなかった
絶対にいいなんて思ってやるもんかと心に決めていた
「昔は四人だったんだ」って、何回も聞いたヒストリー
途中でひとり行方不明になっちゃったって
そういえば何年か前、そのひとが死んだってことになったって記事を
インターネットのニュースで目にしたっけ
見つかったわけじゃないみたいだけど
アルバムを一枚だけ出してチャートの一位になってそれですっぱり解散するって
なのに解散しなかったから物凄く叩かれたって話だった
「なによそれ」ってあたしも凄くバカにした、そしたらあいつはすごく真面目な顔になって
「パンクってそういうことなんだよ」って言った
まるで泣きそうな顔だなってあたしは思った
それだけあのバンドのことが凄く好きなんだろうなってそのときは思った
一一月の終わりごろだっけ
あたしの誕生日を一緒に祝おうって、夜の八時に家へおいでって
喜んで行ったらロフトの鉄棒から首を吊ってぶら下がってた
あたしはなにも考えられずに
玄関で腰を抜かしたまま夜が明けるまでそこに居た
おかげで警察にすごく疑われた
くだらない音しか聴けないホームセンターで買ったラジカセにCDを入れて
久しぶりに聴くその音に耳を傾けた
サウンドよりも、言葉よりも歌声よりも
気持ちだけが前に前に出てこようとしているみたいなそんな音楽だった
あたしはいつからかパンクなんてどうでもよくなって
だから昔よりはそれがすごく真剣で悲しいものだってよくわかった
あたしは黙ってラジカセを見つめながら
初めから終わりまできちんと聴いた
あたしたちがいまでも続いて居たら
ふたりでこれを聴いていただろうかなんて時々思いながら
どうしてあの日だったんだろう
あたしの生まれた日に
ケーキとシャンパンを用意して
クリスマスツリーの飾りみたいに揺れてた背中
そんな素振りなんてすこしも見せなかったのに
あたしはCDのジャケットを見た
「フォーエヴァー・ディレイド」ってタイトルだった
ふん
だからって
小娘みたいに泣いたりすることなんかないからね

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