不定形な文字が空を這う路地裏

チューニング・ライフ


藍色の悲観主義が窓枠と一緒に錆びてる、デカダンスは周回遅れだ、何かを突き詰めて探そうとすると必ず時代遅れだと揶揄される、連中はどんどん頭を使わなくなっているのさ、初見で判断出来るものだけで現代社会は構成されている、これは御伽噺なんかじゃない、ただの現実だから始末に負えない、新しいビルは外観に凝るばかりで、中に入っているものはもう長いこと代り映えしないものばかり、でも誰もがそれを天国だと信じている、この街じゃ幸せとは、停滞の挙句の麻痺のことを言う、思えばいつだってそうだった、俺が子供のころからずっとそうだったよ、満足げな顔をしている連中は決まって、最終的な価値を自分以外のもの―時流や常識、そんなものに委ねて、ガイドラインに従って動くだけで一人前みたいな顔をしている、まったくどうしようもないね、そんなことだから社会はどんどん形骸化したもので溢れて、皆その抜殻の中に、寝袋にくるまるみたいに潜り込んでぬくぬくと暮らしているのさ、そこからなにかが生まれてくると思うかい、すぐに答えを言わせてもらうけど、なにも生まれてくることは無いよ、同じものが生まれて同じように死んでいくだけさ、死骸が積み上げられて、フレグランスの後ろに死臭が隠れている、ねえ、小洒落た店が立ち並ぶその通りでは昔結構な規模の通り魔事件があったんだぜ、もうみんな忘れているんだろうけどね、誰も気が付かなかった、気付けなかったのさ、その狂気はこの街に蔓延しているものだってことに、いつだってどこでだって、そんな事件が起こったってなんの不思議もないんだぜ、だってすべては疎かになっていくばかりなんだから、本当は皆もうどうしていいかとっくにわからなくなっているのさ、なにも思いつかなくなった場所で開き直って、すべてわかってるような顔をしているだけなんだ、見たことあるだろ、知ってるって素振りだけでみんなが自分を許してくれると思ってるやつ、まったくどうしようもない、一番安直な手段、本当にあちらこちらでそんなショーが繰り広げられているんだ、前にも見たことがあるような台本ばかりさ、人間、落ちるところまで落ちると、意識は横一線に並ぶんだ、覚えておくといいよ、そこには個が個である理由などなにも存在しない、ただ生まれて来て死ぬ、巨大な蟻のようなものになるんだ、俺はこれまでに何度も、そんな連中を見ては肩をすくめたものさ、大きな波が来たからって乗っちまうのは考えものだね、彼らはいつだって主流である自分たちの方が正しいとそういう顔をしているけれど、その実ただ数が多いってだけの話なのさ、考えてもみなよ、誰にでも信じられるようなものが真実であるはずがないじゃないか、俺たちは個体として生まれてくるんだぜ、わざわざ前が見え辛い眼鏡をかける必要なんかないんだ、自分が見つめているものをとことん突き詰めればいい、真実なんてゲーテの時代からずっとそういうものなんだぜ、俺はその中に潜んでいる微かな声の方がずっと魅力的に思えるんだ、自分の内にあるものを表そうとして言葉を選べば、それがオリジナリティになるのは当り前のことだと思わないかい、誰かの真実が自分の真実に触れる時、胸に訪れる得も言われぬ興奮は、ちょっと簡単に説明出来るようなものじゃないぜ、あー、誰にも似合わないバッド・インフルエンスのニオイで街は縫製工場のストックルームみたいな空気さ、こいつはどうもあまり喉に良くないね、俺は顔をしかめて目についた喫茶店に潜り込みアイスコーヒーを注文する、そしてそれを時間をかけて飲み干す、少しマシになった気がする、うろうろしている連中の自意識はまるでペンキ屋のマニュアルみたいさ、均一に、ムラなく、見映えよく―ってね、笑わせんな、そんなことの為に百年もの人生を生きるなんてまったく馬鹿げてるじゃないか、もっと楽しく生きる方法があるぜ、もっと生を実感するやり方はたくさんあるぜ、下らないものにとらわれてないで周りを見渡すべきだ、目を離せなくなるような出来事や人物はごまんとあるんだ、アンテナは常に張られているんだぜ、受信するかどうかは持主次第ってことになるんだけどね、他人の人生を良いの悪いの言うほど俺は暇じゃねえけどよ、そういうことが好きなヤツはどこにでも居るものさ、なあ、アンタの厳しい目で一度、自分の人生を眺めてみちゃどうだい、俺はよくそう問いかけるんだ、思うに、彼らがそうしたことを一切したことがないのは、あらかじめ肯定されているせいなんだろうな、酷いデザインになった新札で金を払って喫茶店を出る、フレディの歌声みたいなドギツイ太陽が世界を照らし続けている、俺は顔をしかめながら歩く、一瞬のうちに吹き出る汗に閉口しながら…だけどどうしてだろうな、どんなにウンザリするような時だって、歩くことを止めようと思ったことは一度もないんだよな、もうすぐ無口な午後がやって来る、もう少し詩を書こうと思った、こんな日々でも確かに生きていたとそう感じられるように。


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