不定形な文字が空を這う路地裏

草臥れた髪飾りのエミリー










草臥れた髪飾りのエミリー、幼い頃に熱病にやられて
言葉をまったく解さなくなった
草臥れた髪飾りのエミリー、仕事は羊の世話、老犬のアルマと一緒に
草原で草を食わせる
草臥れた髪飾りのエミリー、言葉が使えなかったけれどたいていのことはゼスチュアで伝えることが出来た
言葉が使えなかったけれど彼女はとても頭のいい娘だったのだ
草臥れた髪飾りのエミリー、羊が草を食う間、アイルランドで作られているらしい
小さな横笛をいつも吹いていた、その横笛は祖父の形見で
草臥れた髪飾りは母親の形見だった
父親は誰も殴れない優しさだけはまだ無くさないでいて
仕事に出掛けない日にはずっと酒を飲んでいた、暴れたりすることはないが
終始、切り刻まれているのだった
草臥れた髪飾りのエミリーが吹く笛の音は
はしゃぐ子供の矯声のようなのに
旋律はいつもどこかもの悲しかった
草臥れた髪飾りのエミリー、雲を読み違えて夕立のさなか雷に打たれた
それで彼女は左の膝から下を無くした
義足を買う金などあろうはずもなかった
父親はわりのいい仕事に変えたが
誰とも上手くやることが出来なかった
エミリーは幾日もしないうちに外に出て
アルマと共に羊に草を食わせた、髪飾りはやはり草臥れていて
横笛の音はあてもなく響いた
その年の冬にアルマが死んだ
羊と一緒に
帰ることは出来なかった
草臥れた髪飾りのエミリーが
近所の農夫にそのことを伝えるのには一時間がかかった
父親は羊を手放して酒樽に変えた
父親はもう一人で歩くことすら出来なくなっていた
エミリーの知らないうちに仕事は無くしていた
家には
もう
金になるようなものはない、もう羊の居なくなった草原で
草臥れた髪飾りのエミリーは横笛を吹いている、その横笛はアイルランドで作られていて、音色は子供の矯声のようで、なのに







旋律はいつもどこかもの悲しかった

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