不定形な文字が空を這う路地裏

Gass(中毒なんて視点で語るならたぶん)










排水パイプの中で沈殿した昨日が嫌なにおいを立てる生温い春の、腐った血液のような時間の行進だ、おれは目玉をぐるぐると回しながらなんとか収まりのいいチャンネルを見つけようとして夜明け前から躍起になっていたがとうとうどうしようもなくなってすべてを投げ出した、軽い、乾いた音を立ててゴミ箱に落ちていく今日、朝までの雨のせいで執拗な湿気だ、夜のうちに二度目のシャワーを浴びておこうかと悩みながら、けれどもきっとそのまま寝床にもぐりこむだろう、絶対にやらなければならないことなどないのだ、必然とはなにかしら有意義なことをしていると思い込みたい馬鹿どものまじないだ、春の陽気にのぼせて馬鹿になった脳味噌があるだけさ、時々、時々だけど、決定権なんてきっとおれたちにはひとつも持たされていないのだと…そんな風に考えることがあるよ、結論というのはたとえば地図の、自分が歩いた道だけを塗り潰してみせるようなものだ、そういうことをしないと安心出来ない連中が作り出した妄想に過ぎないのさ、鼓舞するための魔法の言葉とでも言えば聞こえが言いかね?ともかくそんなものにはなんの意味もない…指の長さや、ケツの穴のサイズと同じで、個人差というものが大きな意味を持つんだ、そうだろ?誰かの定義に合わせてそれでOKなんてそんな間抜けな話は願い下げだ―マーケットで安く買ってきたパックの微糖コーヒーを一息に飲み干すと、いつも騙されておこうという気分になる、そうしたラインの上にいろいろなものを置きすぎる癖がついた、だけど実際、そういうところにおいとくしか仕方のないものばかりが世間様にゃ溢れかえっているんだ…天気予報をついさっき見ていたはずなのにまるで覚えていない、きっとなにか他のことに気を取られて見過ごしてしまったのだ、だけどそれもやはり、どうしても見ておきたかったというようなものではない―ポータルサイトを適当にクリックすりゃすぐに判ることだしね…突然決まった朗読会の日程が近付いていて、毎日時間の中から抜き取られた自分の過去と睨めっこをしている、おれの過去はどいつもこいつもみな似たような顔をしているよ、おれが書き綴りたいことはずっと昔からひとつしかないからさ…そのせいだ、水はおのずと自分の流れていく道を決めるものだ、あれこれ手を加えても流れが悪くなるだけさ…大事なのは流れていく先をじっと見つめていること、ここで流れを止めようなんて考えないこと…言葉を水に例えるとき、それが流れていく先とはいったいどこなのだろう?海ではない、海ではないよな、それは余り広いところを求めているわけじゃないような気がする、そう、どちらかというと、脳味噌の風通しをよくするために垂れ流すのだ、排水ポンプから生活用水が流れていくみたいにね…コックを捻って、新鮮なものと入れ替えるのだ、黙って、なにもしないで居るとそれは頭蓋骨の中でどんどん腐っていくから…新しい言葉と新しい音楽、芸術の定義なんてそれだけで結構だ、それは常に、瞬時に構築されていくべきものなのだろうから…ベランダではキジバトが古くなったパンを啄ばんでいる、今朝のうちに撒いておいたのだ、どういうわけかここにはよく彼らのような生物が飛んでくるから…奴等の食物に短い詩を書いておけば、飲み込んだ瞬間に空を飛ぶことについて語り始めるだろうか?ふん、くだらんね、どうも…湿度はどんどん上がっていく、湿度はどんどん上昇していく、ああ、忌々しい…天気予報はなんと言っていただろうか?どうしておれはそれを見ていなかったんだろう?過去は絶対に取り戻せないからこそそう呼ばれるのだ、そうしておれたちは、取り戻せないことについてあれこれと唇を尖らせるしかやることがない―詩人はアジテイターじゃない、詩人は無頼漢ではない、詩人はインテリじゃない、詩人はただの傍観者だ、おのれの流れを傍観して記していくのだ、そしてそれを馬鹿みたいに読み返すのだ、そうさ、過去を現在に再生する手段があるとしたら、それは観念的なものとして記録しておくことに違いない、俺は音楽を聞きながら今日を記している、それはいつかこれを読み返すときに、鮮やかな過去として脳髄を突っつくだろう、生きる理由はここにある、生きる価値はここにある、正常な時間軸の中で自分をぶん回して…吐瀉物のようにあふれ出した言葉たち、排水ポンプの中で沈殿した昨日が嫌なにおいを立てる生温い春、おれはディスプレイに突っ伏して首を吊る夢を見ていた。

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