かねてから、非正規雇用問題とワーキングプア問題との関連において、パート労働のあり方について検討を深めていかないといけないと思っていました。その矢先、面白そうな本を見つけて今日一気に読み切ったので、その紹介を。
「主婦パート~最大の非正規雇用 by 本田一成、集英社新書(2010年)」
「平成19年就業構造基本調査」によると、全就業者のうち、正社員は約3,430万人で、非正社員は約1,890万人です。後者の内、パートタイマーが約1,300万人で、アルバイト(約400万)、派遣(約160万)、契約(約225万)、嘱託(約100万)を抑えて最多になっています。そして本書によると、パートの中でも主婦パートが約800万人を数え、非正規全体の中でも最も多いグループになっているのです。つまり、非正規の問題を考えるときに、この主婦パート層の現状や課題を考えない政策というのは十分でない、ということですね。
本書のポイントはまさにそこにあって、今、主婦パートを取り巻く環境が大きく変化していて、直面する労働問題も深刻化しており、その問題に早急に対処しないと「家族や社会が大変なことになる」と警鐘を鳴らしているのです。
まず、主婦パートを取り巻く環境にはこの間、二つの大きな変化が起きています。一つ目は、主婦パートの主流が「家計補助型」から「生活維持型」に変化していること。つまり、経済的理由から「働かなくてはならない」主婦が増えた、ということですね。そして二つ目は、主婦パートが活躍する雇用の場で1990年代以降、「パートの基幹労働力化」が進められたこと。従来はあくまで正社員の補助的業務を担っていたパートが、正社員と同じレベルの業務と責任を担わされるようになり、主婦パートも好むと好まざるとに拘わらず、そういう役割を与えられるようになったのです。
ところが、そういう大きな変化が起こった後も、主婦パートの賃金や労働条件はあまり改善されませんでした。かの有名な(1)103万円の壁(配偶者控除の上限)、(2)130万円の壁(社会保険料負担免除の上限)、そして(3)四分の三の壁(労働日数の正社員比で、これを超えると原則、社会保険へ加入)という3つの壁が、主婦パートの前に大きく立ちはだかっていたのです。
つまり、働かざるを得ないから働いて、以前よりずっと重責を担わされるケースが増えたにもかかわらず、労働条件は一向に良くならず、さらには家庭での家事負担も減らず、体力的にも精神的にも極限の状態に追いやられる主婦パートが増加している、というのが今の問題なのです。
本書では、こうして主婦パートが大きな負担を背負わされた結果、少子化の進展、離婚の増加、育児ノイローゼや児童虐待の増加などが起こっているのではないかとしています。確かに「選択肢がない」「逃げ場がない」という状況は、企業側に「つけ込む」余地を与え、主婦パートを非常に辛い立場に追いやってしまいます。それが翻って家庭に悪影響を及ぼすというも説得力のある話です。
そしてこれは、社会にとっても大きな損失になるのです。約800万人の主婦パートのほとんどが、労働者として真面目に働いていながら社会保険に加入しておらず(つまり、企業が経営者負担を逃れている!)、働きに相応しい収入を得ていない(内需のための可処分所得が抑えられている!)わけですから。また、企業にとって貴重な能力や知識を持った主婦パートも大勢いるはずで、そういう人材を活用できていないというのも社会的損失なのです。
本書では、問題解決への手段として、(1)社会保険制度と税制の改革(3つの壁を取り除くこと)、(2)基幹化に見合った処遇改善(「パートタイム社員制度」の創設)の二つを訴えていて、さらにその実現に向けて、労働組合が主導的役割を果たして欲しいとエールを送っています。労組組織率が18.5%と下げ止まりを見せる中で、パートの組織化は未だ5.3%に留まっています。この点、労働組合の取り組み強化が求められることは言うまでもありません。特に、パートタイム社員制度というのは、私たちのめざす「多様な正社員」という考え方にもマッチします。
家計の担い手の賃金が伸び悩み、世帯収入が減少して生活が苦しくなる家庭が増えている中で、パートタイム労働者の処遇を改善し、均等待遇や社会保険の加入を果たし、家計にも個人にも安心・安全を提供する --- 政治の今後の取り組み課題の一つですね。