石橋みちひろのブログ

「つながって、ささえあう社会」の実現をめざす、民主党参議院議員「石橋みちひろ」の公式ブログです。

最大の非正規雇用としての主婦パートの処遇改善を

2010-05-05 21:07:14 | 書評
かねてから、非正規雇用問題とワーキングプア問題との関連において、パート労働のあり方について検討を深めていかないといけないと思っていました。その矢先、面白そうな本を見つけて今日一気に読み切ったので、その紹介を。

 「主婦パート~最大の非正規雇用 by 本田一成、集英社新書(2010年)」

「平成19年就業構造基本調査」によると、全就業者のうち、正社員は約3,430万人で、非正社員は約1,890万人です。後者の内、パートタイマーが約1,300万人で、アルバイト(約400万)、派遣(約160万)、契約(約225万)、嘱託(約100万)を抑えて最多になっています。そして本書によると、パートの中でも主婦パートが約800万人を数え、非正規全体の中でも最も多いグループになっているのです。つまり、非正規の問題を考えるときに、この主婦パート層の現状や課題を考えない政策というのは十分でない、ということですね。

本書のポイントはまさにそこにあって、今、主婦パートを取り巻く環境が大きく変化していて、直面する労働問題も深刻化しており、その問題に早急に対処しないと「家族や社会が大変なことになる」と警鐘を鳴らしているのです。

まず、主婦パートを取り巻く環境にはこの間、二つの大きな変化が起きています。一つ目は、主婦パートの主流が「家計補助型」から「生活維持型」に変化していること。つまり、経済的理由から「働かなくてはならない」主婦が増えた、ということですね。そして二つ目は、主婦パートが活躍する雇用の場で1990年代以降、「パートの基幹労働力化」が進められたこと。従来はあくまで正社員の補助的業務を担っていたパートが、正社員と同じレベルの業務と責任を担わされるようになり、主婦パートも好むと好まざるとに拘わらず、そういう役割を与えられるようになったのです。

ところが、そういう大きな変化が起こった後も、主婦パートの賃金や労働条件はあまり改善されませんでした。かの有名な(1)103万円の壁(配偶者控除の上限)、(2)130万円の壁(社会保険料負担免除の上限)、そして(3)四分の三の壁(労働日数の正社員比で、これを超えると原則、社会保険へ加入)という3つの壁が、主婦パートの前に大きく立ちはだかっていたのです。

つまり、働かざるを得ないから働いて、以前よりずっと重責を担わされるケースが増えたにもかかわらず、労働条件は一向に良くならず、さらには家庭での家事負担も減らず、体力的にも精神的にも極限の状態に追いやられる主婦パートが増加している、というのが今の問題なのです。

本書では、こうして主婦パートが大きな負担を背負わされた結果、少子化の進展、離婚の増加、育児ノイローゼや児童虐待の増加などが起こっているのではないかとしています。確かに「選択肢がない」「逃げ場がない」という状況は、企業側に「つけ込む」余地を与え、主婦パートを非常に辛い立場に追いやってしまいます。それが翻って家庭に悪影響を及ぼすというも説得力のある話です。

そしてこれは、社会にとっても大きな損失になるのです。約800万人の主婦パートのほとんどが、労働者として真面目に働いていながら社会保険に加入しておらず(つまり、企業が経営者負担を逃れている!)、働きに相応しい収入を得ていない(内需のための可処分所得が抑えられている!)わけですから。また、企業にとって貴重な能力や知識を持った主婦パートも大勢いるはずで、そういう人材を活用できていないというのも社会的損失なのです。

本書では、問題解決への手段として、(1)社会保険制度と税制の改革(3つの壁を取り除くこと)、(2)基幹化に見合った処遇改善(「パートタイム社員制度」の創設)の二つを訴えていて、さらにその実現に向けて、労働組合が主導的役割を果たして欲しいとエールを送っています。労組組織率が18.5%と下げ止まりを見せる中で、パートの組織化は未だ5.3%に留まっています。この点、労働組合の取り組み強化が求められることは言うまでもありません。特に、パートタイム社員制度というのは、私たちのめざす「多様な正社員」という考え方にもマッチします。

家計の担い手の賃金が伸び悩み、世帯収入が減少して生活が苦しくなる家庭が増えている中で、パートタイム労働者の処遇を改善し、均等待遇や社会保険の加入を果たし、家計にも個人にも安心・安全を提供する --- 政治の今後の取り組み課題の一つですね。




グローバル化の中のアジアの児童労働

2010-04-04 16:21:27 | 書評
大内伸哉先生のブログ「アモーレと労働法」で紹介されていた、香川孝三先生の新刊「グローバル化の中野アジアの児童労働~国際競争にさらされる子どもの人権」を早速購入して、読み始めました。まだ3分の1ぐらいしか読んでいませんが、児童労働問題に興味がある方には参考になると思われますので、紹介しておきます。

本文は二部構成で、第一部は世界における児童労働の実態を考察、第二部では児童労働をなくすための対策を提案されています。第一部の各章でも、さまざまなアクターの取り組み事例が紹介されていますので、それをとりまとめて具体的な提言としたのが第二部だと考えればよいかと思います。

内容は下記の通りです:

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序章:児童労働とはなにか

第1部:児童労働の実態
  第1章 パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産と児童労働;
  第2章 バングラデシュの船舶解体に見られる児童労働;
  第3章 中国の児童労働;
  第4章 ベトナムのストリート・チルドレン

第2部:児童労働をなくすための対策
  第5章 児童労働に関する国際的指針;
  第6章 児童労働に関する使用者団体・業界団体の行動規範;
  第7章 グローバル(国際的)枠組み協定による児童労働廃絶 
  第8章 児童労働に関する民間団体の企業行動規範
  第9章 多国籍企業からの対応事例―ナイキの場合
  第10章 児童自身の主体的な試み
  第11章 様々なレベルでの児童労働対策
  第12章 カンボジアの2008年人身売買禁止法と日本の協力

終章 まとめ
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香川先生は、現在、大阪女学院大学副学長の職にありますが、以前、2度ほど仕事でご一緒したことがあります。アジアの労働法がご専門で、いろいろと教えをいただきました。その香川先生が、本書のはしがきの中で以下のようなコメントを寄せられています:

  「日本では児童労働は過去の問題として注意を向けられることは
   なくなった。アジアで労働法の国際会議が開催されたときに、
   児童労働がテーマの時になると、日本からの参加者は会議の場
   からほとんどいなくなってしまうことを、何度か経験した」

これが現実だとすると、非常に残念な話ですね。先日のエントリーでも書いたように、児童労働というのは決して、私たち日本人にも無関係な話ではないのですから!

この本、完読したら、またあらためて感想を書きたいと思います。




書評「くたばれ竹中平蔵~さらに失われる十年~」

2009-09-23 21:22:11 | 書評
ネット上のどこかのブログで書評を読んで、刺激的なタイトルに誘われて読んでみました。

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筆者は、この10年、日本には多くの緊急(雇用、医療、年金、教育、地方などなど)の課題があったにも関わらず、1990年代後半からの自民党政治は全く何もして来なかった。特に、小泉・竹中は、「国民が欲していなかった」郵政の民営化をシングル・イシューに、800億円もの税金を浪費して総選挙を断行したと強く批判しています。

郵政民営化は全く必要なかったにも関わらず、それをごり押しした小泉・竹中。では何のための郵政民営化だったのか?という問いに、筆者は「郵政民営化の基本方針」とアメリカからの「年次改革要望書」の郵政事業改革に関する要望が酷似していることを指摘し、世界一の資金量を誇る郵政の弱体化と、郵政資金340兆円を狙った米国、そして日本と世界の金融資本のための民営化ではなかったのかと疑問を呈しています。郵政340兆円、さらに郵政が保有していた資産は、日本国民の資産で、国民のために使われるべきなのに、それが今、切り刻まれていると、筆者は嘆いています。

私が共感を持ったのは、本来、自民党(小泉・竹中)政権がやるべきは、郵政事業を国民生活の向上のために、政治の責任において最大限、発展させることだったはずで、民営化して民間に丸投げし、あとは利益を考えてお好きにどうぞと投げ出すことではなかったはずという筆者の指摘です。「郵政事業の公共性、ユニバーサルサービスは民営化によって明らかに低下」してしまって、それによってさらなる地方や高齢者の切り捨てが進行しているのです。

改めて、失われた十年に何が起きたのか、なぜそれが起きたのかを考えさせてくれる本でした。



経済的徴兵制が日本にも?

2009-07-20 21:11:52 | 書評
雑誌「世界」の8月号に、非常に興味深い・・・というよりは、恐ろしいと言った方がいいかも知れない記事がありました。布施祐仁さんというジャーナリストの「自衛隊・経済的徴兵制の足音」というタイトルのルポです。

布施さんは、日本でも昨今、経済的な理由で「自衛隊を就職先として選ぶ」学生たちが増えていると述べています。「政府によってセーフティネットが破壊された社会」で、経済的に進学が難しかったり、適当な就職先が見つからない若者たちが、自衛隊を唯一の選択肢として入隊しているのだ、と。また自衛隊側も、それに乗じて「ハイスクールリクルーター制度」や、「体験入隊」、さらには「教員対象の研修・見学会」などを活発化して、新規隊員の確保に躍起になっていると報告されています。

以前、堤未果さんの「ルポ 貧困大国アメリカ(岩波書店)」を読んだ時に、アメリカにおける貧困ビジネスの実態、つまり、米軍が各種の経済的特典を武器に、貧困家庭の子弟にターゲットを絞ってリクルート活動を展開しているという事実に戦慄を覚えたことがあります。ところが今や、それは対岸の火事ではなく、日本もそういう方向に向かいつつあるのだと、布施さんは警鐘を鳴らしているのです。

今年5月の有効求人倍率(季節調整値)は0.44倍、最低の青森県では0.26倍でした。「いずれ海外の戦地に送られるかもしれないという怖さよりも、どこにも就職できないのが怖かったんです」というある高卒入隊者の一言を、私たちはしっかりと受け止める必要があると思います。