昨日予告していた通り、今日の午後、都内で開催された「出版物に関する権利~デジタル時代に日本の出版文化をどう発展させるか?」公開シンポジウムに出席してきました。
会場には、悪天候にも拘わらず、約500人の参加者が詰めかけていて、この問題に対する関心の高まりを感じることが出来ました。シンポジウムは、最初に主催者を代表して佐藤隆信・新潮社社長が挨拶。続いて、出版デジタル機構会長の植村八潮・専修大学教授が「中川勉強会の議論の経過報告」という形で、出版物に関する権利のあり方について現状の考え方を説明。そしていよいよ、私たちパネリストが登壇して、本日メインのパネルディスカッションが始まりました。
司会は、植村八潮さん。パネリストは、大渕哲也・東京大学大学院教授、野間省伸・講談社社長、作家の林真理子さん、漫画家の弘兼憲史さん、そして私の5名です。当初、参加が予定されていた作家の大沢在昌さんは、残念ながら急きょ欠席となってしまいました。楽しみにされていた参加者の皆さん、さぞがっかりしたでしょうね・・・。私もがっかり(笑)
いやしかし、これだけの著名人が壇上に並ぶ中で、私だけが浮いてる感じ、しませんか? 最初のコメントで、弘兼さんが「これだけ著名な方々が並んでおられる中で、私は全くの素人なので・・・」と仰るのを聞いて、いやいや、それは私のセリフでしょうと、心の中でつぶやいちゃいました(笑)。きっと会場の皆さん全員がそう思ったことでしょうね。
実は、私はその「中川勉強会」に参加している超党派国会議員有志の代表として、パネリストに名を連ねることになったんです。「中川勉強会」というのは、元・文部科学大臣で、衆議院議員の中川正春が呼びかけて立ち上がった勉強会。正式には、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」といいます。グローバル化とデジタル化(インターネット化)の波が日本の出版・印刷業界にもドォ~っと押し寄せてきている中で、日本の伝統的な活字文化・出版文化を大切にしながら、いかにしてこの新しい販売や流通の手段・ルートを育て、拡大し、国民(読者)の皆さんの利益につなげていくのかについて勉強し、政策的な方向性を出していくために立ち上げられました。
これまで6回にわたる勉強会と、多数の関連する会合を重ねながら議論を進めていて、すでに中間的なとりまとめを公表。その中でまず、電子書籍の普及・流通促進を図りつつ、海賊版対策を強化していくためには、出版社(者)に何らかの権利を付与してその役割と責任(義務)を明確化する必要があるという認識を共有しました。そして、権利付与の具体的方策としては、(1)「著作隣接権」を出版社(者)に付与する、(2)現行の著作権法上の出版権を電子書籍にも拡大する、(3)契約によって著作権を出版社へ譲渡する(アメリカ型)、(4)独占出版契約によって出版社に訴権が付与されることを明確化(ルール化)する、などの選択肢があるのですが、それぞれのメリット・デメリットを検討した上で、現時点においては、著作隣接権を設定するという方向性が一番、関係者や国民の理解を得つつ、かつ迅速にこの問題に対応していくことが出来るのではないかという方向性を打ち出しています。
今日のシンポジウムでは、その中川勉強会の中間とりまとめに基づきながら、なぜ出版物に関する権利の創設が必要なのか、海賊版対策に効果があるのか、著作隣接権の設定と出版権の拡大ではどういうメリット・デメリットがあるのか、出版社の役割と義務とは何であってそれが出版物の権利とどう関わるのか、などについてパネリストが意見を交わしました。
ここで全てをご紹介するわけにはいきませんので、シンポジウムの議論の模様は今後、Youtubeなどにアップが予定されている動画で実際にご覧いただきたいと思います。ただ、皆さんに議論の前提としてぜひ知っていただきたいのですが、実は、現行の著作権法上は、出版社(者)には何の権利も与えられていないということです。つまり、書籍や漫画などの海賊版が作成されて、それが違法にアップロード・ダウンロードされても、出版社(者)にはそれに対抗する手段が無いということなのです。著作権を持つ著者(作者)が自分で対抗するしかないわけですね。
音楽は違うんです。例えば音楽CDで言うと、それを製作したレコード会社には、著作隣接権として「複製権」「送信可能化権」「譲渡権」「貸与権」の4つの許諾権が認められています。これによって、レコード会社自身が、音楽CDを他人が許可なく利用することを止めることができるんですね。そしてこの著作隣接権は、あくまで隣接権として設定されているので、元々の著作者(音楽CDの場合は、作詞者や作曲者)の著作権には影響を与えません。ちなみに、音楽を演奏する実演家(ミュージシャンなど)にも隣接権が認められています。
ではなぜ、印刷物・出版物の場合にはこの著作隣接権が認められてこなかったのか、なぜ昔はそれが問題にならなかったのかと言うと、それはもう単純に「昔は必要なかった」ということに尽きるんだと思います。昔は、出版物というのは紙で印刷・製本された有体物に限定されていましたから、それほど深刻に違法コピーなどの心配をする必要がなかったし、基本的には著作者と出版社との信頼関係によって契約(関係)が成立していて、出版社は特に出版物の権利を保持する必要なく、ビジネス(商売)を行うことが出来ていたんですね。
その状況が技術革新によって大きく変わったわけです。まず、コピー機(複写機)の発達があります。昔だったら手書きや写真でしかコピー出来なかったのが、コピー機で簡単に複製できるようになりました。さらに段々と性能もアップして、スキャンの機能もついたりして、紙の本が簡単に複製できる、しかも大量に刷って配布することも可能になったわけです。実は、出版物にも権利を付与しようという動きは今回が初めてではなくて、すでに20年も前に「版面権」を付与しようという形で具体的に進められていたのですが、それはまさにこのコピー機の普及拡大に対する動きだったわけです(ちなみに、当時は経済界が強く反対し、著作者も慎重だったために実現しませんでした)。
その上に追い打ちをかけるようにやってきたのが、デジタル化とインターネット化の波です。今度は物理的に紙に複写することすら必要なくなって、いとも簡単に電子的に拡散することが可能になってしまいました。違法に複写された時の被害の大きさが格段に違ってしまったのです。印刷文化・出版文化を守り、育てるためにも、早急に具体的な対応が必要だということが分かっていただけるでしょうか?
もちろん、デジタル化とインターネット化は、出版業界にとっても書籍の新たな流通・販売促進の拡大であり、ビジネスチャンスになるという側面もあります。だからこそ、出版社(者)にも一定の権利を付与し、同時に責任と義務を明確化することで、この分野の成長を促し、それによってICTの利活用促進にもつなげていきたいと思うわけです。
もうかなり長くなってしまったので続きはまた別の機会に譲りたいと思いますが、以上のような基本方針を踏まえながら、中川勉強会としても今後さらに検討を進め、全ての利害関係者に、そしてもちろん国民の皆さんに納得いただけるような中身で対応策を示していきたいと考えています。今後の取り組みにぜひご注目下さい!