10月28日(金曜日)午前8時から、ILO活動推進議員連盟(ILO議連)の2011年第5回勉強会を開催しました!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/6d/cd355e8ea091edc18e1c584424139966.jpg)
今回は、かねてから議連の主要検討課題の一つに挙げていた、日本が未だ批准をしていない二つのILO中核条約「強制労働の廃止に関する第105号条約」及び「雇用における差別の撤廃に関する第111号条約」の批准問題を取り上げて、批准を妨げている具体的な課題等について議連メンバー間での共有化を図りました。
まずは、「ILO中核8条約の意義と批准の必要性」について、ILO駐日事務所の長谷川真一代表からヒアリング。
1998年に採択されたILOの『労働における基本的原則及び権利に関する宣言』で、中核8条約は「ILO憲章に基づき、ILO加盟国が(批准していなくても)当然ながら履行すべき中核的条約」と位置づけられ、その後、批准促進キャンペーンの効果もあって世界的に批准が進んできているとのこと。実際、すでに多くのILO加盟国が中核8条約の批准を済ませていて、105号と111号については、ILO加盟182カ国中、いずれも169カ国が批准するに至っています。特に、OECDに加盟する先進工業国はすでにほとんどの国が中核8条約全てを批准しているのに、日本は取り残されているわけです。
続いて、厚生労働省の妹尾吉洋総括審議官(国際担当)から、「ILO第105号条約および第111号条約の批准に向けた課題整理」というテーマでヒアリング。妹尾審議官は、ILOの政府側理事でもあります。
妹尾総括審議官は、両条約を批准するにあたって乗り越えるべき具体的課題にどのようなものがあるのかを説明してくれました。ポイントは、まず105号条約については:
*「ストライキに参加したことに対する制裁として強制労働を課してはならない」という条約の規定に対して、「国家公務員法および地方公務員法で、公務員のストライキに懲役刑が科されている点が問題になる」
とのこと。懲役刑の結果、刑務所内で強制的な労働が課せられるので、それが条約に抵触するわけです。
次に、111号条約については:
*条約は、「雇用されること(募集・採用)、個々の職業への従事、雇用の条件、および職業上の訓練において、人種や皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的または社会的出自などに基づく差別があってはならない」と規定しているが、現行法上で「募集・採用段階における差別を禁止しているのは性のみ」で、他の差別は明示的に禁止されていないのが問題になる
という説明でした。その一方で、雇用の条件や職業上の訓練については、労働基準法の規定でほぼ担保されているのではないかという見解も示されました。
さて、ここからはちょっと専門的な話になりますが・・・
まず、日本は国際条約の批准にあたって、きちんと全ての国内法令との整合性を取ってからじゃないと批准しないことで有名です。これが、あらゆる国際条約の批准を遅らせる元凶になっているわけですが、勉強会でその根拠を知ることが出来ました。今から58年も前、昭和28年の閣議決定で以下のように決められていたのです:
『条約を締結するに当たっては、これを誠実に遵守するため、「条約の批准に関連して立法を要する場合には、批准前に立法の措置を講じ、これにつき国会の議決を求める」』
つまり、きちんと国内法との整合性をとってからじゃないと国際条約は批准しちゃダメだよ、と言っているわけですね。
ILO条約の場合、これは決してILOがそのような厳格な手続きを加盟国に求めているわけではありません。ILOの手続き上は、批准を先にしてから、国内法令等の整備をして構わないことになっています。ILO条約を批准すると、ILOが持つ国際的な監視メカニズムによって履行をチェックされるわけですが、それでも批准してすぐに報告を求められるわけではないのもそのためです。
そもそも、批准前に全ての国内法令や慣習(注:これを慣習法と理解するのか、一般的な社会慣習も含むと理解するのかは不明。要調査)を全てチェックして、その改廃を完璧にやってからでないと批准しないというのは現実的ではありません。
だからこそ、憲法98条の規定が置かれているのだと思います。憲法98条は、後段で「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定しています。これにより、日本が批准した国際条約(及び確立された国際法規)は、憲法以外の国内法令に優越するというのが確立された司法の見解です。
つまり、批准した条約が既存の国内法令(や慣行)が条約と整合性がなければ、条約の方が優越すると定められているのですから、国内法令の完全な整合性を求めなくても批准は出来るはず。批准してから、細かい法令や慣行との整合性をとっていくことは可能なのです。
さて、今回の勉強会は、結論を出す場ではなくあくまで課題を整理して認識を深める場でしたので、以上のような課題が整理できただけで一歩前進です。個人的には、今年1月にILO議連を再出発させてから、ようやく未批准の中核条約の話題を取り上げることが出来たと喜んでいるところです。
実は、勉強会の最大の成果は、説明を聞いた議連の甘利副会長(自民党、元労働大臣)が「世界で169カ国も批准しているのに何で日本は出来ないんだ?」と隣にいた直嶋会長(民主党)につぶやいて、直嶋会長も「そうですよね、おかしいですよね」とそれに同調したことかも知れません。
細かいこと言ってたら永久に批准出来ないから、アプローチを変えて批准に向けて進んでいこうよ!という流れをつくるきっかけになったとしたら、最初のステップとしては大成功ですね。
既報の通り、先週木曜日の参議院厚生労働委員会で質問に立ったのですが、その際、105号と111号の批准問題を取り上げました。小宮山大臣からは、(1)中核条約については批准する方向でしっかり取り組むべきと考えている、(2)105号と111号については国内の法律との整合性の問題で確認作業を進めている、との言質をいただきました。
今後、今回の議連勉強会での議論と、この大臣の発言を踏まえて、引き続き批准に向けた議論と取り組みを深めて行きたいと思っています。