私と元部下の関係は、以前赴任した営業所の所長と所長代理の関係だった。・・・
「おい!大丈夫か~?」・・・よろよろ~と、足元が危うい。・・・しきりに、「あいつら~来るって言うたのに~」ぶつぶつと言いながら歩く。・・・
小さなゲームセンターを抜けると、その奥にスナックがあった。・・・「ここか?」と言うと、「ここや!ここで待ってたのに~」彼は、しつこい。・・・スナック・スターライト。・・・
入口のドアは、空いたまま。・・・店内は、薄暗くキャンドルライトが美しい。・・・
「こんばんわ~」と、我々が入ると、・・・「いらっしゃいませ~」元気な声で女性が現れた。・・・と、いきなり!元部下がスナックの女性に抱きついた!・・・「~ハグしてくれなきゃ!帰る!~」・・・
少し困惑気味に、抵抗しようとしていた彼女が、キツイ目で後ろの私を睨む。・・・私は、無言で手を合わせ頭を下げた。・・・
すぐさま彼女は、彼を抱き締め、「はいはい!どうぞ~」と案内する。・・・さすが!プロ!・・・扱いが慣れている。若いのに~・・・我々より10歳は若いはず。・・・
「テーブルにしますか?」・・・店内は、思ったより広い。カラオケのステージもあり、テーブル席が10席ほど、狭いけどカウンターもある。・・・「カウンターでも良い?」・・・カウンター席にした。・・・
椅子に座り、焼酎の水割りを頼む。・・・彼は、完全に出来上がっていて、まだグチグチと文句を言っている。・・・「あいつら!仲間を裏切るんや~」・・・
さっきの女性がカウンターの中に入り、水割りを作りながら、「荒れてますね~」・・・
女性にさっきの彼の行動の事を謝り、いきさつを話した。・・・宴会後スナックに行こうと話したのに誰も来なかったらしいと、・・・しかも、その後の彼の話によると、前もってこのスターライトに予約まで入れていた事が分かった。・・・重ね重ね、すみません!と彼女に誤った。・・・
それを見ていた彼は、酔ってはいたが「ごめんなさい~」と誤った。・・・彼女の話によると、何人かの人が店の前まで来て、覗き込むがそのまま帰って行ったよ、同じ会社の人ではないかと言うのだ。・・・どうやら、元部下は店の前で待ってはいたが、誰も来ないので、ホテル内をあちこち探しに行ったようで、入れ違いになったようだ。・・・「みんな、約束通り来てたんだ~」・・・(本当は、ママさんの方便)・・・
彼は、氷の入った水を飲み、そのままテーブルにうつぶせになって寝てしまった。・・・
「ごめんなさい。悪いが、しばらくこうして置いて貰えるか?」と、私が頼むと、「どうぞ」と、コップを洗いながら答える。・・・
焼酎を飲んでいると、カウンターの中に若い女の子が二人現れた。ここの従業員らしい・・・隣の部屋にカラオケBOXがあり、そこも一緒に営業しているようで、行ったり来たりしている。・・・
「あらぁ~かわいいですねぇ~その帽子!」・・・女の子の一人が、にこにこしながら言う。・・・もう一人の子も「いいですねぇ~」・・・その反応に気を良くした。・・・若い彼女たちの言動を制止するそぶりを、初めの女性がする。・・・彼女が、ここのママさんだ、なるほど。・・・
「それ!どうしたのぉ~?」若い子が聞く。・・・「そこのお土産屋で買った。」と言うと、ママさんが「道内では、誰も被ってませんよぉ~」・・・?冷やか!・・・「ほんとう?アイヌ系の人とかも?」・・・更に冷やかに、「全然!誰も!」続けて、「せいぜい、陸に上がってくるロシア人ぐらい!」・・・とっさに、しまった!と感じた。最近では、動物愛護団体がこういう毛皮は良くない運動、があるという事や海外では、パッシングの標的になっていると聞く。北海道でも厳しくなってるのか、そうか!ここは自然遺産、知床。・・・ママさんが言う、「それって~キツネ?」・・・来たぁ~やばいかも・・・
その時、瞬間に日本にないであろう外来種の動物の名を浮かべる。「あっ!ラスカル!~」・・・(許せ!ラスカル!本当は、愛しているんだからな~アニメのなかでも、近所のおじさんが頭にかぶっていたじゃないか~決して君のではないから~)・・・
一瞬全員固まった。・・・ママさんがイメージできないらしい。「らすかる?」・・・若い子が「あ~アライグマね!」・・・納得したようだ。・・・実際は何の毛皮かは、知らない。また、合成かもしれない。また、キタキツネかもとは、口が裂けても言えない。・・・絶対!言えない!・・・
その後は、アライグマの帽子で落ち着いた。・・・
店内には、次から次へと宿泊客がやってくる。・・・5月と言えども夜は、氷点下にもなる。また、ホテルの外には夜中に開いてる飲食店もほとんどない。・・・目の前が、ウトロの港。・・・
このママさん、決して愛想が良いとは言えない、ただ嘘はつかないようだ。・・・
「40歳になったら、この商売は辞めるの」・・・私の焼酎を作りながら言う。・・・「若い子が来て働いてくれるけど、教えて出来るようになったら、他の良い処へ行ってしまう」・・・辞めてどうするの?と聞くと、「考えてない、辞めてから考えるよ」・・・洗い物をしながら、つぶやく。・・・「彼氏いるんでしょう?家に入るとか~」・・・「いないよ」・・・あらそう、でもいるだろうけど、仕事柄いないって言うのが、水商売。・・・そうこうしてたら、仲間の一人がやって来た。・・・
「ここに居てたんですか~?」・・・後輩の整備士担当。・・・彼は、ウイスキーの水割りを頼んだ。・・・彼は、だんじり祭りで有名な岸和田人。・・・私とママさんとの会話に違和感を持ったようだ。・・・「ん?なんで、関東弁なん?」・・・私が、標準語的に話しているのを聞いて、変だと思ったようだ。・・・私の妻は、関東人だからと言うと、納得した。・・・
元部下が、目を覚まし始めた。ちょうど良いので、岸和田の彼に連れ帰ってもらう事にした。・・・初め嫌がっていたが、「戻って寝よう~」と言うママさんの言葉に反応し、神妙に従った。・・・彼らが帰った後、しばらくそこに居て、他の人のカラオケを聞いていた。・・・
テーブルを片づけてカウンターに来たママさんが、私の焼酎を作る。・・・私は、カラオケの小さいモニターを見ながら、横目でママさんを見ていた。・・・グラスに焼酎を入れ水を入れている。口元が笑ったような気がした。・・・知らぬふりをして、出された焼酎を飲む。・・・?今までより何倍か濃い!・・・酔わせて早く帰らせる気か?・・・負けん!・・・
三回目くらいでママさんが首をかしげる・・・心の中で、「勝った!」と思った。・・・
話は、知床の自然の事になった。・・・「流氷がすごいよ!流氷が鳴くのよ!」と、ケイタイの写メを見せてくれた。ホテル内の展示でも流氷があるらしい。・・・「流氷に乗って、いろんな動物がやってくるよ、キタキツネやアザラシや」・・・感心しながら、聴いた。そして飲んだ。・・・
どれぐらい、話して飲んだだろう?・・・「時間、良いの?」ママさんが言う。・・・そろそろ、閉店か、・・・時計は、午前0時。・・・「遅くまで、ごめん!ありがとう!」・・・伝票に部屋番号を記入して、スナック・スターライトを出た。・・・
部屋までの帰り道、とても気分が良かった。・・・部屋に着いたら、元部下は大いびき。・・・明日には、このホテルを発つから、最後にもう一度ゆっくり温泉入ろう!・・・露天風呂へ向かう。・・・
露天風呂は、24時間入浴Ok!・・・脱衣所に入ると、係の人が「酔ってるようですけど、大丈夫ですか?」と聞いてくれた。・・・「全然大丈夫ですから~」笑顔で答える。・・・「気を付けて下さいね~」・・・「ありがと!」・・・
室内の温泉を通り越し、表の露天風呂へ・・・気温は、氷点下、寒い!・・・景色は、ほとんど見えないが、真っ暗な中で、ただ、遠くに灯台の明かりが、ゆっくり回っているのが見える。・・・風の唸る声とキツネの声が響いて行く・・・
熱い湯船につかる。・・・はぁ~「いつか、また来よう!」・・・
顔に降る粉雪が、気持ち良い。・・・ ・・・ ・・・ ・・・
次の朝、ウミネコ(かもめ?)の声に起こされた。・・・部屋の窓を開けると、港が霧で煙っている。・・・
・・・そして、下痢が始まった。・・・「やはり飲み過ぎだった~」・・・
全員で朝食を済ませ、旅立ちのしたく。・・・「おう!その帽子、ええ(良い)やんか!」・・・私の昨夜の毛皮の帽子を見た上司が言う。「大阪まで、それ被っていけ~」・・・気を良くした私は、そうする事にした。・・・バスに乗り込み、ホテルの方々のお見送りを受けた。・・・
この後、遊覧船に乗り、知床半島を船でめぐる予定だったが、霧が濃すぎるので中止。・・・
オシンコシンの滝を見て、バス移動。・・・お昼に豪華海鮮チラシ寿司を食べる。・・・正直、食べられない!お腹の中が、満杯状態、焼酎まみれ~・・・おまけに、にぎりすし6貫が付いてます。・・・絶対無理!・・・かんべんして~・・・
そんな事を言いながら、何か所かの有名名所を巡り、帰路の為、女満別空港へ・・・
そこでいくつかのお土産を買った。・・・搭乗手続きの為、受付に並ぶ。・・・
大きなかばんは、先に預けて、機内持ち込みだけの検査。・・・順番が来た。・・・ピィ~~~~!・・・?何?・・・「鞄開けて下さい!持ち物もチェックします!」・・・えぇ~なんでぇ~?・・・
どうやら、ライターらしい。・・・機内持ち込みは、一個まで。・・・
私は、知らずにと言うか、大丈夫だろうと簡単に考えていた。・・・
お土産ついでにと、旭山動物園で一個、網走刑務所近くの土産屋で、上の二人の子供にと手錠型ライターを二個、ホテルの近くのコンビニで買った100円ライター二個。・・・全部で5個持っていた。・・・
ポケットの中から、三個出した。二個だけ置いて行こうとしたら、荷物からも不審な反応があるから、出してくださいと言われた。・・・えぇ~!「お土産ですよぉ~」・・・だめです!機内持ち込みは、一個までです。・・・きびしい~~~・・・
仕方ないので、子供たちのお土産一つだけにして、後は置いて行く事になった。・・・気が付けば、仲間は全員済ませて、先に行っている。・・・「薄情ものぉ~~~」・・・
そして、飛行機に乗り、関西空港に着いた。・・・・・
・・・後日・・・
帰宅して、次の日。知床半島を異常に発達した低気圧が通過し、最大瞬間風速50mだと、ニュースで聞いた。・・・心配になり、メールで問い合わせてみると、無事、何事もなかったようです。・・・内容がこれです。・・・
「ご心配いただきありがとうございます。猛烈な風でホテルは、足湯の施設が木切れや葉っぱで山盛りになってしまいましたが、他の施設は問題ありません。また、機会がありましたら、ぜひ、アライグマの毛皮の帽子を被ってお越しください。こころより、お待ちいたしております。・・スナック・スターライト・・・」(知床グランドホテル・北こぶしより)
いつか、また行きたいと思います。・・・
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