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小さき花-第2章~8

2021-09-01 11:59:55 | 小さき花
 私の平素の行いと、自宅の勉強の成績によって、毎年一度、褒美を受ける賞品授与式がありました。私はいかなる喜びをもってこの式が来るのを待っていたでしょうか。ただ私一人で別に競争する人もいませんが、その褒美は実に公平なもので、行いの善悪、勉強の熱心・不熱心が詳しく調べられていました。この日、私は家族一同が集まっている面前に出て、父から種々の成績が発表されるのを聞き、終わって褒美を受けるのですが、これはちょうど私の公審判の象り(かたどり)であるかのように思う事の度に、胸騒ぎがしていました。ああ、その時父は、いつもにはない歓びの顔をしているのを見て、後に、この父が大いなる苦難に遭わなければならないというような事を少しも思いもよりませんでした。でも、ある日、天主さまが私に不思議な幻をお与えになって、父が後に受けなければならない苦しみを(参照7章)を目の前に見せるようにして下さいました。この幻のあらましは次のようでした。
 
 父は遠方に旅行して数日の後、私はただ一人庭園に向かった窓に寄って、いろいろと愉快な瞑想にふけっていました。時間は午後の2・3時頃で、太陽の光が庭園を照り輝かして、この自然界が楽しんでいるように見ていました。畑の方に向かうところの窓に、私が一人いて、思いがけないことに窓の真向かいにある洗濯場のほうから一人の男が来るのを見ました。よく見るとまだ帰って来るはずでない父の姿によく似ています。身丈といい、衣服といい、歩き方まで私の父そのままで、ただ違っているのは父よりも大変に腰が屈んで余程の老人のように見えたばかりです。しかし老人というのも全体の格好を言い表すためであって、大きな被り物をしているから、肝心の顔が少しも見えませんでした。
 
 この老人はポツリポツリと正しく進んで、私の小さな庭の小道に沿うように行きますから、私は奇妙な恐怖を感じて、思わず「お父さん、お父さん」と震えながら大きな声で叫びました。が、この奇妙な老人は私の叫びも聞こえないような様子で、後ろも顧みずなおも進んで行き、庭も真ん中にある茂った松の樹のあいだに入りました。そこで私は眼を離さないで、向かいの路地に姿を現すのを待っていましたが、この預言的の幻が聞けてしまいました。この一瞬の出来事が私の想像力に深く刻まれて、十数年経過した今日でも、その幻の事がありありと残っています。

読んでくださってありがとうございます。yui
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